貴女が″やる″って言ったんでしょ!!
ナンシャンテは見慣れぬ部屋で目を覚ました。
ただ、昨晩の記憶がない。たしか、フォルという青年と打ち合わせをしていた気がするのだが。
あまりにも深酒しすぎた。
気づくと少し服がはだけているような気がする。
ハラリハラリとロングのブロンドがなびく。
これはもしかして。彼女はそう思って焦りだした。
その時、寝ぼけ眼にフォルも目を覚ました。
「ねぇ、あたしたち、もしかして……」
僕は不機嫌に答えた。
寝起きはいつもこんなもんだが、査定へのプレッシャーから余計にカリカリしていた。
「(ガーリー・ゴーレムを)″やる″っていったの、貴女でしょ!!」
シャンナンテは、やってしまったとばかりに額に手をやってベロを出した。
「あちゃ〜、あの……その……」
彼女はなんだかモジモジしているが、こちらの知ったことではない。
「なにいってんですか。もう朝ですよ。″これからやる″んですよ!!」
「!? えっ……朝から!? それはちょっと……第一、まだ私たち、昨日会ったばかりで、その……」
彼女は酷く動揺しているようだった。
「ほんとにもう、しっかりしてくださいよ。ゴーレム製作、″やる″んでしょ!?」
こっちは査定がかかっているというのに監察官殿はなんともまぁ呑気なものだ。
だが、なぜだろう。それを聞いたナンシャンテさんは酷く興ざめした様子だった。
「ご、ごほん」
わざとらしく彼女は咳払いすると本題に入った。
「えっとだね、創造ゴーレムの課題は″全ての男性の理想となる女性″だよ」
僕は思わず頭を抱えた。ありえないくらい難しいお題が来たと思ったからだ。
もっとこう、最初は作業用のゴーレムを女性タイプに換装するくらいの課題かと思っていたが、いきなり理想となる女性を要求されてしまった。
技術的にもさることながら、全ての男性の理想というのがなんとも抽象的だ。
万人ウケするゴーレムなんて創れるんだろうか?
床を呆然と眺めているとナンシャンテさんが声をかけてきた。
「あー、あたし、宿とってないからしばらくこの工房にやっかいになるよ」
美女は思わせぶりの確信犯の笑みを浮かべた。
(こんなセクシーお姉さんとイケメンが一つ屋根の下。″ナニ″かが起こらないわけないじゃん!!)
それに対して僕はまたもや不満の声を上げた。
「えー、ソファーで寝るの嫌ですよ。第一、魔術局から出張費出てるんでしょ!! 宿に泊まってください!!」
監察官は抵抗しだした。
「あっ、正気か!? こんなお姉さんと同居できるんだぞ!? ありがたいとは思わないのか!!」
僕は有無を言わさず、彼女をベッドから引きずり下ろそうとした。
そうこうしているうちに誰かがドアをノックした。
「コンコンコンコン」
これはマルシュのノック音だ。
やはりやって来たのは彼女だった。
オレンジ色の髪をゆすりながら部屋に入ってきた。
「かわいいお花があったからね。生けに来たん……」
彼女の目の前にはくんずほずれつする男女の姿があった。
「マルシュ!! なんとか言ってくれ!! この人、工房で寝泊まりするっていうんだよ!!」
それを見たマルシュは池の鯉のように口をパクパクさせた。今にも泡を吹きそうだ。
「キャーーーーーッッッ!! フォルの不潔ーーーーーッッッ!!」
彼女の投げた花瓶は僕の頭に直撃した。
「いって〜。マルシュのヤツ、なんであんなに怒ってるんだ?」
思わず大人の女性は肩をすくめた。
「こりゃ寄ってくるオンナは難儀するわ。でもそこかまたたまらないねぇ。そそられる。開拓しがいがあるね」
マルシュはしばらく放っておいたほうが良いと監察官のアドバイスを受け、早速、僕たちはゴーレムの製作にとりかかった。
「まずだね、アナトミア・クレイという素体用の粘土をこねて、こう、ペタペタとだな。あ、大事なところも精巧に作るから覗くなら最低限にしといて」
僕は思わず息を呑んだ。彼女の作る素体は本物の人間のようだったからだ。
ナンシャンテさんも大汗をかきながらゴーレムの粘土をこねていく。
ナンシャンテさんの腕が怪しいなぁと思っていた自分を戒めた。
「さて、最初の難関だ。″スタイル″をどうするかという問題がある」
そりゃデッッッ!!
「もういい。フォル君の考えてることは手に通るようにわかった。結構」
いつの間にかフォル君呼びになっているのが気になる。
「いいか、真面目な話、巨乳が好きな男ばかりじゃあない。かといって貧乳というとまた極端だ。ここは無難に普通サイズで行く。すこし身長を盛ると華が出るかもしれないな」
そう言うと監察官はヘラなどを使って微調整を始めた。
これが超絶な職人技で、僕は唖然としてしまった。
素体づくりの面では凄まじい実力の持ち主だったのだ。
「どうだ? 見直したか? 王立宮廷魔術師は伊達じゃないってことだよ。少・年」
こうしてその日の夕方にはゴーレムの素体が完成した。
「あ〜、疲れた。あたし寝るわ。ベッド貸して」
思わず呼び止める。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!! 今後のプランとか、設計の相談とかは!?」
ナンシャンテさんは横になったままひらひらと手を振った。
「何いってんだい。あとは全部、フォル君の仕事だよ」
僕は震える手で計画書に再度、目を通した。
ガーリーゴーレムの作り方!!
1.王宮宮廷魔術が素体(精巧な女性の身体)を創る
2.フォルが素体を元に人格、性格などの内面の設計する
3.設計したものを術式に落とし込む
4.術式を素体のあちこちに刻む
5.完成したゴーレムに創った者のサイン(魂名)を刻む(Foll.B)
6.術式を隠す
※サイン(魂名)は消すことが出来ない
7.完成。起動。ゴーレム・バース
なお、監察官を送る。詳細は彼女に訊くべし
今、完了しているのは1のみだ。
残りの全ては2〜7は全て僕の担当になっていた。
どれも高度極まりない工程で、頭がクラクラした。
よっぽど魔術局は僕を査定で落としたいらしい。
ともかく手を動かさないとはじまらない。
まずは″全ての男性の理想″だが、いきなり超高難易度のテーマが来てしまった。
これはもはや哲学に近い。
人によって好みは十人十色であるし。
だが、これは言うなれば初号機である。
とりあえず作ってみて調律していくほか無いように思えた。
そんなことを考えていると監察官殿がまたひらひらと手を振った。
「あ〜、アナトミア・クレイは超高額の素材でね。一発で結果が出せないと査定落ち確定だからね。せいぜい頑張るこった」
思わず僕は四つん這いになってダウンしてしまった。
このままでは王立宮廷魔術師の資格を剥奪されてしまう。
そうなると研究費が降りず、ゴーレムの製造、調律ができなくなる。
確かに町医者として生きていくことも出来るが、僕にとってゴーレムは″命″に等しかった。
家族の、誉れ高きバークライト家の姿が脳裏に浮かぶ。
(ザッ!!)
そして僕は立ち上がった。
「そんな簡単に諦めてたまるもんか!! 絶対、完璧なガーリー・ゴーレムを作って見せるぞ!!」
コッソリそれを聞いていたナンシャンテはニヤリと笑った。
(あ〜、若いっていいなァ。たまんない。さて、バークライト博士のお手並み拝見といきましょか)
そういうわけで今日も硬くて狭いソファーで眠らざるを得なかったんだよ。
デカい僕が悪いのかな……。




