セクシーねーちゃん一目惚れ
査定から数日後、ガーリー・ゴーレムの創造計画書が届いた。
どれだけ困難なのかと息を呑みながら僕は書類を読んだ。
ガーリーゴーレムの作り方!!
1.王宮宮廷魔術師が素体(精巧な女性の身体)を創る
2.フォルが送られてきた素体を元に人格、性格などの内面の設計する
3.設計したものを術式に落とし込む
4.術式を素体のあちこちに刻む
5.完成したゴーレムに創った者のサイン(魂名)を刻む(Foll.B)
6.術式を隠す
※サイン(魂名)は消すことが出来ない
7.完成。起動。ゴーレム・バース
なお、監察官を送る。詳細は彼女に訊くべし
思わずくらくらと目眩がした。
他の人が手伝ってくれるのは1だけで、2〜7までは自分でやり抜く必要があるからだ。
しかもどれも高度なものばかりだ。
協会はよほど僕を追放に追い込みたいのではと思うほどのハードさだった。
まずは素体が届かないことには話にならない。
僕はプレッシャーを紛らわそうと出来るだけは日課である診療所に行くことにした。
今日は低めの位置でポニーテールのように髪をまとめて家を出た。
通っているのはその名も″″ジリー診療所″である。
大規模な病床などはないが、大抵のことは診てくれる信頼の町医者だ。
白衣を着て診察室に入ると、ベッドに寝ている患者や診察に来ている人々が僕に声をかけてきた。
「フォル先生、おはようございます」
「フォル先生、今日もお願いします」
僕は町医者の手伝いをやっているのだ。
医療、医療従事の評価が高かったのはこういうわけである。
学生時代にみっちり学んだので、簡単な外科手術くらいならこなすことができる。
実際、何度か担ぎ込まれた患者を手術したこともある。
そのため、まだ17歳なのに先生などと呼ばれてしまっている。
流石に大げさすぎると思っているが。
実のところ、魔術局が重視したスキルはこの″医療″だった。
いくらゴーレムの整備が出来ても、より人間に近いゴーレムのバイタルチェックや診察、治療が出来ないと話にならない。
″ジリー診療所″の医院長は名前の通りジリーじいさん呼ばれる。
老練の町医者で、大抵の病気や怪我の手当をすることが出来る。
フォルが足元にも及ばないと称賛するほどである。
往診の準備をしていると奥からナース服を着た女性がやってきた。
彼女はルルゥ・マリーネ
僕より1歳だけ上しか違わないがルルゥさんと呼ばせてもらっている。
グラマラスで包容力があって、街中の男子連中から大人気だ。
ジリーじいさんの孫娘さんで、僕と一緒に働いている。
マルシュほどキーキーしていないので、ルルゥさんのほうが心休まるし、安定感がある。
かわいいし、しっかりものだし、なによりデッ!!
「こーら、フォル君。仕事中はぼーっとしないの。終わったらデートしてあ・げ・る・か・ら。な〜んてね!!」
いつもの社交辞令だな。うん。
お高く止まらず、こういったお茶目なところも彼女の魅力ではある。
「あ、こんな冗談、言っちゃうの、フォル君だけだからね」
今日はなんだか社交辞令が多いな。
査定帰りで疲れたので、今日は早く上がらせてもらった。
白衣をハンガーにかけるとベッドに身体を投げ出す。
「はぁ。本当にガーリー・ゴーレムなんて創れるのかな。成功例は……聞いたこともないぞ。あったとしても不完全だ。くっ、なるようになれ。南無三!!」
そのまま寝てしまい、そうして気づくと日が暮れていた。
起き上がって頭をガサガサと搔く。
「もうこんな時間か……」
すっかり夜の帷が降りていた。
その時、誰かが扉をノックした。
「コンコンコンコン」
マルシェのノック音とは違う。
もしやと思って僕は身構えた。
あえて顔を見せないというのはただ者ではない。
「走る仔馬亭にてお待ちしています……」
町中にあるバーの名前だ。
おそらくそこに事前に連絡のあった魔術局の監察官が来ているのだろう。
フォルは身なりを整えて手早く三つ編みを編むと″走る仔馬亭″へ向かった。
ドアを開けるとベルがなった。
「いらっしゃい」
ガタイの良いマスターが声をかけてきた。
「おいおい。ここはバーだぞ。未成年は出ていけ。バークライト博士でも例外は無しだ」
キツく当たってきたのはダンジさん。街中の人々の夜の憩いを支えるマスターだ。
「あらぁ。いいじゃないの。フォルくん。またアソンであ・げ・る♥」
その奥さんのマーミアさんは甘い感じの声をかけてきた。
またか。何で遊ぶというのか? ボードゲーム? 子どもじゃあるまいし。
ダンジさんが僕を追い払おうとした時、誰かがチップを投げてきた。
「あたしの用事でね」
ダンジさんはバツが悪そうにぼやいた。
「ふぅ。揃いも揃って未成年をたぶらかすなよ……」
向かいに座った女性は料理を注文した。
「森林パスタ。どうぞ」
僕はチラリチラリと監察官を確認した。
フードを被っていて顔はわからないが、女性なのは間違いない。
「あんたがフォル・バークライト博士だね?」
すると彼女はフードをめくった。
美しいブロンド、肌は雪のように白く、瞳は大きく、鼻筋の通った美女だった。
ケバすぎないナチュラル・ルージュが逆に艶めかしい。
そしてスリットの入ったタイトでセクシーなスカートをはいている。
大人の女性の魅力を振りまいている感じだった。
そしてデッッッ!!
誰がどう見ても美女であり、バー店内は騒然とした。
向こうからなにか切り出してくるかと思い、僕はメガネを持ち上げた。
なぜだか、目の前の美女は恍惚の表情でこちらを見つめていた。
もはや釘付けと言った様子である。
(あら……やだ……この人、イケメン……)
この人、一体どこ見てるんだろな……。
「あの、あのぉ!!」
反応がなかったので僕が声をかけると彼女は我に返って自己紹介を始めた。
「は、はじめまして。私がバークライト博士の監察官を務めるナンシャンテ・ナンテ。よろしくね」
やはり彼女が魔術局の人だった。続けて彼女は語りだした。
「創造計画書は見た? 私は監察官だけじゃなく、素体の生成の専門家でもあるのよ。私が直接、ガーリー・ゴーレムを形どるってわけ」
「あっ、あなたが!?」
素体を作るのはかなり高度な技術が必要だ。
てっきり、おえらいさんの高位魔術師が担当すると思っていたのだが。
「バッカ!! うるさいよ!!」
バーの視線は一点集中した。
ナンシャンテさんは熱を込めて語りだした。
「当たり前だろ!! 女の子の身体をジジイが作ってどうすんだ!! 私が丹精込めて作るんだよ!! 粗末に扱ったら許さないかんね!!」
今度は僕が彼女をなだめた。
「ちょっ、ナンシャンテさん!! うわ酒臭!!」
一体、何の会話をしているのか全くわからないが、怪しげな痴話喧嘩にバーの人々は困惑した。
結局、ダンジさんにバーをつまみ出されてしまい、しかたなく僕は彼女をお姫様抱っこで工房に運んだ。
「う〜ん、なかなかのむちむち感。触り心地いいなぁ。しかもデッ!! エッ!!」
僕は魔術局の監察官殿を工房のベッドに寝かせた。
「うわさけくさ……」
僕はと言うと代わりにソファーに寝ることになってしまった。
「このソファー、寝るには狭いんだよなぁ……硬いし……」




