落第魔術師の再試験
僕は裁判台にかけられていた。
「フォル・バークライトくん。フォル・バークライトくん!!」
いかにも威厳がある老人の声がした。
「あっ、はい!!」
王立宮廷魔法局の会長が書類を読み上げる。
「協会貢献度D+ 地域貢献度A+ 住民信頼度A+ ゴーレム製造技術・知識S 営業収益B 医療知識・従事A- 新規開拓研究F、運動能力B、学科試験A、健康A+」
「我々が何を言わんとするか……わかるかね?」
僕は息を飲んでうなづくことしか出来なかった。
「はい。協会貢献度と新規開拓研究が……思わしくありません」
これは何もサボっていたわけではない。
市民のための活動を優先したあまりに、協会関連の活動が疎かになってしまったからだ。
″王立宮廷魔術師たるもの民のためにその力を行使すべし″
僕はそのモットーに従っただけなのだが、協会としてはそれが気にくわなかったらしい。
組織は既に腐敗していて、ただひたすらに利を得る方向に舵を切ったとも言われている。
そのあおりというわけだ。
そして会長は顔をしかめた。
「特に新規開拓研究は酷いな。落第だ。我々としてもこんなことはしたくないのだが、努力の姿勢が見られなければ再試験にかけざるをえない」
僕は絶望した。再試験とは実質上の協会からの追放だ。受かる可能性はゼロに近い。
だが、ここで何か言い訳をした所で状況は変わらない。
「しかし、我々はキミの才能を買っていてね。指定の研究に取り組めば評価を上げるのもやぶさかではない」
会長の言葉を聞いて、光明がさした。
「ほ、本当ですか!? そっ、それで、け、研究の内容って!?」
会長は大きくうなづいた。
「ガーリー・ゴーレムの創造だ。女性型のゴーレム開発・研究してもらう」
降って湧いたような話に僕は素っ頓狂な声を上げた。
「がっ、ガーリー・ゴーレム? どうして僕が……? か、かなり難度が高いと聞きますが……」
脇にいる身分の高そうな会員が理由を説明した。
「だから″新規開拓″なのだよ。まず、フォル君、キミのゴーレム創造の技術を買ってのこと。もう1つはある程度、医術に精通していること。S判定ではないが、ゴーレムのおもり程度にはなる」
ゴーレムを軽んじる発言にくってかかりそうになったが、青年はこらえた。
「して、わかってくれるな?」
追い詰められてしまった。もはや首を縦に振る他無い。
「………はい」
会長も同じようにゆっくりとうなづいた。
「それでは!!」
木槌が強く叩かれ、査定会は終わった。
協会を出ると日光で目がくらむ。隣の人々がこちらを見ては避けていく。
無理もない。フォルは186cmもある長身だからだ。
顔はとても端正で、甘いマスク、鼻は高め、口角はやや上がり気味。
銀ぶちメガネをかけていて、利発そうな見てくれ。
それでいてニッコリとした印象を与える優しげな青年だ。
ただ、その身長のデカさから威圧感があるのもまた事実ではある。
美しい紺色の髪を腰丈まで結っているのも目立つ理由だ。
これは師匠であるじっちゃんの「髪を結う余裕もないようじゃいい仕事は出来ねぇ」という教えによるものだ。
すらっとした長身が映えるカッコよさに、個性的なルックス、それとはギャップがある優男風。嫌でも目につく。
脂汗を拭いながら僕はクランドール駅で列車に乗った。
「あだッ!!」
急に頭をぶつけておでこをさする。いつものことだ。
フォルの故郷、キャマ・クーラ、通称キャマは王都クランドールの西に位置する。
国内では4番目に大きい町だ。
片側を山に、片側に海が面しており、かつて難攻不落と言われた天然の要塞である。
漁港もあり、山の幸、海の幸の両方が味わえる。
フォルはシャツをクタクタにしながらキャマへ帰ってきた。
「ああ、フォル、帰ってきたの? 一杯飲んでかない? おごるよ?」
「あー、先生、この間の怪我、治りましたよ!!」
「フォルくん、お疲れ様!! きっとフォルくんのことだから査定なんて通ったよね?」
「フォル坊や。今度、またマッサージしとくれ。あんたのはエエんじゃよ!!」
老若男女が彼のもとに集まってくる。
人柄が評価されているだけあって、フォルは人気者だった。特に女子に。
健全な青年ならば鼻の下を伸ばすところだが、彼に関して言えば恋愛に非常にニブチンだった。
それ故、女性からのアプローチというものが理解できない。
医師手伝いをやっているので、女体に関しては慣れきってしまったところもある。
ただ、それはビジネスライクの時だけであって、実はかなりのむっつりだったりもする。
フォルの工房は町外れの岬にある。
これは万が一、ゴーレムが暴走した時に被害が出ないような位置どりとなっている。
青年はヨロヨロと工房に戻るとベッドに倒れ込んだ。
部屋は広く、生活スペースを兼ねる大規模なものである。
大型のゴーレムをいじることもあるので、テーブルは大きい。
そもそもフォルのベットだけでも大概なサイズである。
「コンコンコンコン!!」
ドアを乱暴にノックする音がする。
「マルシュだろ? 入っていいよ」
ドアを開けて少女が入り込んできた。
橙色の髪、ちょんとした鼻に可愛らしい唇。マルシュと呼ばれた少女である。
同い年なのに、身長は140cm台と恐ろしく低い。
可愛らしいところもあるが基本はお転婆で、胸に関してはぺったんこだ。
「んも〜〜〜!! また外出着のまま寝て!! シワになっちゃうでしょ!!」
彼女は僕の幼馴染のマルシュ・ノンノ。何かと世話焼きのお節介少女だ。
町中で実家の花屋や薬屋の手代をしているなかなか健気なところもある。
が、時に邪魔と思うほど口うるさく、君は僕の母さんか!? と口走りそうにもなる。
昔っからこんな感じで、一体何のメリットがあるのかわからないが、なにかにつけて僕の家にやってくる。
通い妻とかなんとか言われてるらしい。
マルシュはスカートをおさえながら小さなイスに座った。
こういうところは妙に女の子らしい。
「あのさ、査定、どうだったの?」
僕はベッドから跳ね起きた。
「そ、そりゃあもちろん、バッチリさ」
「……ウソつき」
会話が終わってしまった。開き直るか、はぐらかすか。
だが、マルシュは上を行った。
「知ってるもん。フォルはウソつくとき、頬を搔くクセがあるんだもん」
思わず頬を掻いていることに気づいた。
「う……」
「査定、大丈夫そうなの?」
大丈夫ではなかったが、大丈夫でないとも言えない。
「まぁね。ギリギリなんとかなると思うよ」
僕は頬を搔いていた。
するとマルシュはガサガサと頭を掻いた。
「んも〜!! これじゃ私が査定しに来たみたいじゃない!! お茶にするわよ!!」
彼女がお茶にするというと決まってパイが出てくる。
マルシュはパイ作りが得意で、様々な種類のものを作ってくれる。
特に甘酸っぱいブルーベリーパイは絶品で、何度も食べた僕でも全く飽きが来ないほどだ。
おちついてみのむしティーを飲んでいると少女が声をかけてきた。
「あ、あたしと、フォルとの仲じゃない!!困った時は迷わず相談するんだぞ!!」
まさにありがた迷惑というやつだが、最終的にはプラスに落ち着く。
そういう意味ではかけがえのない″友人″だと思う。
まぁあたしとキミの仲とか言ってるし、″親友″なんだろう。うん。




