舞踏会に行きたくて
僕はまた魔術局に呼び出されていた。
気合を入れて三つ編みにし、メガネをしっかりかけた。
最近は連れているゴーレムの物珍らしさで呼び出されているフシがある。
隣にはミミィが立っている。彼女は本部に行くたびについてくる。
護衛護衛いうのだが、クランドールはそこまで物騒ではない。
当然ながら注目の的で、ファンクラブも出来ているらしい。
「ふぁっ、ふあんくらぶですか!? せっ、戦闘用の私なんかに!?」
照れてる照れてる。
魔術局の重鎮はそんなやりとりをして満足げだ。
「フォル・バークライト博士。私から個人的な依頼がある」
今日は他の役員が居ない。
本当に個人的な頼みなのだろう。
「なんでしょうか?」
イヤな予感がする。
「コンパニオン・ゴーレムを創ってくれ。舞踏会に連れていきたいのだが、せっかくなら、な」
せっかくなら(物珍しい方が良い)
という動機だ。このゴーレムを舐め腐った態度を僕は怒鳴りつけた。
「あんたみたいなのがいるから不幸なゴーレムがう生まれるんだ!」
……なぁんてお偉いさんに言えるわけ無いんだよなぁ……。かなしい。
コンパニオン・ゴーレムというのは付き添いをメインの目的とするゴーレムのことだ。
お嬢様タイプや少女タイプの人気が高い。
これといった機能を搭載する必要はないが、かなり精度が高くないと務まらない。
ちなみに僕のアトリエのゴーレムはアイドル、司書、戦闘用という役割があるので付き添い専門のゴーレムはいない。
「希望されるゴーレムのタイプは何ですか?」
重鎮はニヤリとわらった。
「そうだな。華やかな令嬢タイプにしてくれ。舞踏会は1週間後。頼んだぞ」
「そんな短期間でできるわけないだろ!!」
……なぁんて言えるわけ無いんだよなぁ。組織の犬なんてこんなもんだよ。
こうして僕はしょんぼりしながら工房へ帰ってきた。
ナンシャンテさんとアンシャンテさんがたむろしていたので事情を話した。
「あら!! 面白そうじゃない!!」
「姉さん!!久しぶりに腕がなるわね!!」
全く、素体創りしか担当しないのに勝手言ってくれる。
運動神経、人格、性格、内面を設計し、全て術式に落とし込む。
おまけにそれを刻む精密な作業をするのは全部、僕の仕事だ。
更に今回は令嬢の人格を設計しなければならない。
僕、お嬢様の″お″の字も知らないよ。会ったこと無いし。
オーッホッホ!! とか言うのかな?
するとアンシャンテさんが声をかけてきた。
「クランドールでは令嬢の集まるお茶会が毎日のように開かれているそうよ。まぁ、男性は参加できないでしょうけど」
すぐに僕は考えを巡らせた。ゴーレムに関してはアイデア出しが速い。
「ここで適材適所はと言うと……間違いなくアルテアだ!! アルテアに参加してもらうよ。ゴーレムって言えば物珍しさで参加させてもらえるでしょ!!」
ナンテ姉妹は揃ってうなづいた。
そうして、僕とアルテアとミミィは毎日のようにクランドールに通うことになった。
あれこれ前も似たようなことなかったか?
アイドルに高身長美女をつれた僕は嫌でも目立った。
いや、僕自身、デカいってのもあるんだけどさ。
お茶会はたいていお金持ちでローテーションする。
権威を主張し合ってるみたいだけど。
ゴーレムと話ができると伝えると意外と好意的に輪に加えてもらえることになった。
男子禁制。あとはアルテアに任せるしか無い。
「ウフフフ……本当にゴーレムさんですの? 私たちと変わらなくってね」
「まぁ、お人形さんのようなお姿!!」
「肌もおきれいですし、お化粧はしてますの?」
「あは、あははは………」
最初はアウェーで揉まれた感があったが、だんだんとアルテアに気品のようなものが満ちてきた。
自分で髪を編んだりするようになったり、化粧をしたりするようになった。
お嬢様界隈の知識もめきめき上がり、どこに出しても恥ずかしくない仕上がりになった。
これは劇的な進歩で、思わず僕はレポートを書いた。
これならアルテアを派遣すればいいんじゃないかと思えたが、重鎮が欲しいのは手垢のついていない新品だ。
かといってアルテアは中身まで変ったわけではない。
そこは内心ホッとしていた。
アルテアはお嬢様の仕草、会話内容、好み、趣向などを僕の前で必死に再現した。
基本的にゴーレムは疲れないのでぶっつづけでその作業は続いた。
疲れるのは僕の方である。しかしとにかく時間がない。
残り2日。身体構造を司る朱の術式は半日でやれる。
だが問題は人格、性格、内面の蒼の術式である。
いささかお嬢様の精神構造は難解すぎた。
その間にナンテ姉妹は素体を創ってくれた。
「身長は166くらいで、髪色は金髪、丈はロング」
「目はややキリリとして、鼻筋はかなり高く。唇はキュートに。余裕有りげなまつ毛」
喧嘩ばかりしている2人だったが、素体づくりでコンビネーションすると凄まじいポテンシャルを発揮した。
そしてギリギリまで徹夜してなんとか蒼の術式が完成した。
汗だくになりながら術式をペタペタと刻印していく。
最後に右の脇腹にFoll.Bと刻印した。
「なんとかなれよ!! ゴーレム・バース!!」
するとお嬢様ゴーレムは起き上がった。
タオル1枚の彼女はキョロキョロとあたりを見ると悲鳴を上げた。
「キャーッ!! ここは、ここはどこですのーッ!?」
ナンテ姉妹がなだめると状況を理解したようでそうかからないうちに落ち着いた。
「そうだな。名前は……美しいを現す古代語……ティーリアかな。ティーリア・イリス!!」
ガーリー・ゴーレムはつぶやいた。
「ティーリア・イリス………」
その後、徹底的にアルテアにチェックしてもらった結果、80%くらいの完成度のお嬢様が出来上がった。
落ち着きを出すため、精神年齢は僕より一回り高い。
まぁ及第点だろう。正直、これ以上は限界がある。
誕生した時点で精神構造を刷り込んであるので、お嬢様トークやダンス、マナー、着付けなどは既に習得済みだ。
これなら今夜にでも舞踏会に出られる。
僕とアルテア、ミミィ、そしてティーリアは舞踏会の夕、強行軍でクランドールに向かった。
そして依頼主の重鎮へティーリアを引き渡した。
悪いようにはしない……と思う。
その日の晩はホテルが取れず、アルテア、ミミィと同室になってしまった。
さすがに女の子に挟まって寝るわけには行かない。
「ふふっ、フォル君、いっしょに寝ても、いいんだよ?」
「わっ、私も……同衾は……お恥ずかしい限りなのですが……」
エッ……えっ? な〜にが同衾じゃ。
翌日、魔術局本部に行くと重鎮は満足げだった。
「こんな美人の令嬢を同伴できるとは満足だったぞい!! しかもゴーレムとなればな。では、ご苦労だった。評価は上げておこう。そのゴーレムはくれてやる」
こきつかわれた挙句、くれてやると言われてもいい迷惑だと思うのだが。
だが、ティーリアはまんざらでもなさそうだった。
「わたしの殿方はフォル様ですから、特に不満はありませんわ」
まーた誤解されそうなこといってら。
こうして新たなゴーレムのティーリア・イリスがやってくることになった。
女性型ゴーレム4人も連れてる人居ないよ。
ゴーレム・トライ・マイスターはハーレムの証じゃないんだけどなぁ。




