困ったナンテ姉妹
ある朝、僕がベッドで目覚めると柔らかい何かが触れた。
それが何かを確認する前に僕は先読みした。
紫スケスケキャミエッ!!
そう、ナンシャンテさんが潜り込んでいたのである。
なんでまた転がり込んでるんですか。
「だって〜、宿泊費もったいないじゃん。その分、お酒飲みたいっていうか」
懲りてないな。どーしょもねーねーちゃんだ……。
改めて目を覚ました彼女は感動しながら叫んだ。
「私たち、(再試験回避を)″やった″んだな!!」
これには僕も素直に祝福せざるを得なかった。
手を取って声をかける。
「ええ!!″やり″ました!! 僕たち、″やった″んですよ!!」
その時、ドアが勢いよく開いた。
「あ、ありえない。そこまで″いって″るなんて……!! いや、へたれの姉さんに限ってそれはない!!」
アンシャンテさんだ。なんだかすっげー怖い顔してるぞ……。
なんだなんだ。なんでこの2人、こんなピリピリしてるんだ。
姉妹なんだから仲良くしようよ……。
「ねえさん、抜け駆けは許さないわ!!」
「何いってんのよ。速いものがちだわ!!」
ブロンドの髪と銀髪が衝突する。
うーん、この2人、いつみてもソックリだなぁ……。
「ねえ、聞いてるの?」
「聞いてます?」
あ、あ、ハイ。
いくらエッ!!な僕でも最近の状況は目に余る。
常に誰か女の子が居るなんてまるて僕が連れ込んでるみたいじゃないか!!
これは大きな誤解ですよ!!
とにかくこの2人は追い出す必要がある。
どうやって出てもらっていくか悩んでいたところ、2人が強く言い合い始めた。
「姉さんなんてもう″婚期″じゃない!!私たちの地域じゃ行き遅れなのよ!?」
「ムッキー!!いまのは妹とて聞き捨てならないわ!!」
キャマの婚期と言えば30歳くらいまでならと割と緩い。
……と、いうことはナンシャンテさんってけっこう″いって″るのか!?
年齢を聞いたこと無かった僕は身構えた。
「姉さんもう24じゃない!!」
僕より7歳も上だなと思ったが、ストライクゾーンには入ってる。
いや、それよりこの歳でこの素行の悪さはやばいだろ……。
「ま、まあ、24歳くらいならこれからでも……」
そう社交辞令を述べるとナンシャンテさんが張り付いてきた。
「フォルく〜ん!!今すぐお嫁にもらっておくれよ〜!」
下着密着エッ!!
「ありえない!! ねえさん離れてよ!!」
取っ組み合いが始まった。なんだこれ。
ともかく、なんとかして我が家の平穏を取り戻さなければならない。
このままじゃ確実に査定の結果が落ちるし、なにより僕のイメージにかかわる。
このままじゃただのエロガキじゃないか!!
エッエッ言ってるけど、それだけは否定しておく。環境が悪いんだ環境が。
僕は髪を結ってメガネを上げるとそろりと家出た。
そして海辺を歩き出した。
みんなに来るなとは言わないけど、限度があるよなぁ。
これじゃじっちゃんにも怒られるよ……。
じっちゃんで思い出した。そういえば昔、聞いたことがあった。
行き詰まった時は海岸線の工房に移ることがあるって。
小さい時の記憶を頼りに海岸線の空き家を見て回るとしっかり設備の整った工房があった。
「おお、じっちゃん!! 助かったよ!! これなら仕事が捗りそうだ!!」
こうして僕は岬の工房から脱出することに成功した。
そりゃ名残惜しいけど、あんな状態では腐ってしまう。
環境がリセットされたことで僕の気持ちは安定し、仕事は捗った。
町医者の方は休んでるけど。
実家の方はとりあえず留守にしっぱなしだ。
女から逃げたみたいに思われるのは心外だが。
いや、事実か。なんだか情けなくなって僕は肩を落とした。
その時だった。
「コンコンコンコン」
「マルシュか。入っていいよ……!?」
元気印の少女が満面の笑みではいってきた。
「こんちはー!! 今日のパイはクルミだよ〜!!」
突然の来客に僕は心臓が止まりそうになった。
「なにおどろいてんの? ここおじいさんの工房でしょ? ここだと思ったんだぁ」
幼馴染強し。
「大丈夫だよぉ。誰にも言う気ないしさ。でもさ、フォルが居なくなってからみんな元気なくなっちゃってさ。できれば戻ってあげたほうがいいかなって」
うーん、幼馴染の余裕。
「あたしもあっちのアトリエのほうが好きだからさ。もどっといでよ」
マルシュはニヒヒと笑った。
「うおまぶしッ!!」
結局、彼女に根負けして僕は岬の工房へと戻った。
「も〜、フォル、どこいってたの!? 探したんだからね」
「たまには診療所に顔出してほしいな……」
「心配するので家を開ける時は声をかけてくださいね……」
「まったくだ。私も寂かった……なんでもない」
「フォルよぉ!!やっぱりお姉さんはお前に嫁ぐしかないんだよぉ!!」
「ちょっと!!姉さんひっつかないでよ!!」
マルシュもコクリコクリとうなづいた。
「ほらなー。みんな寂しがってたんだぞ。だから勝手にいなくなったりするんじゃないぞ!! みんな、フォルのこと、″大好き″なんだからな!!」
それを聞いた途端、その場全員の目の色が変わった。
待って、僕、何も悪いことしてませんよね!?
マルシュは無邪気に笑っていた。
彼女の表裏のない無意識な一言が女子連中を煽っていた。
「フォル殿、フォル殿!!」
翌朝、僕が目を覚ますと枕元にミミィが居た。
「ミミィ、こんなに朝早くから居るの?」
「ああ、はい。目覚まし機能で。それより、私はここしか家がないのですが」
思わず僕は跳ね起きた。
「ああごめん!!戦闘面の実地起動試験の件で手一杯で!! すぐに用意するから!! 今の君なら一人暮らしも問題ないと思うよ」
だけどミミィは目線をそらした。
「いえ、このままでも……結構です」
なんか顔が赤いな。熱でもあるのだろうか。
掌を彼女の額にあてた。
「ひゃうう!! 何をなされるんですか!?」
うーん、熱はないなぁ。
「だからなにをなさるんですってばぁ!!」
女の子らしくてかわいらしいとこもあるんだなぁ。
その時、僕はベッドに気配を感じた。
「ま〜たナンシャンテさんか!! 今日という今日は出ていってもらうぞ!!」
そこにいたのはアンシャンテさんだった。
となりにはナンシャンテさんもいる。
姉妹スケスケキャミエッ!!
いや、なんだこの姉妹は!?
「ミミィ!! ナンテ姉妹をつまみ出してくれ!!」
「……御意」
彼女はそのまま両腕でキャーキャー言う2人を抱えて外へ出ていった。
そして工房に静寂が訪れた。
最近、マルシュよりタチが悪いときがあるなぁ。
そんなに宿代を浮かしたいのだろうか。
ナンシャンテさんはもとかく、アンシャンテさんもセコいところあるんだなぁ。
ナンテ姉妹の体を張ったアタックは超ニブチンのフォルにはあんまり効かないのであった。相変わらず。
それでも姉妹はますます情熱的に燃え上がっていくのだった。勝手に。




