バウンティ・ハンター
僕は急いでいた。アンシャンテさんに報告せねばならないことがある。
結った群青の髪を揺らしながら走る。
宿泊先のホテルのドアをノックすると寝ぼけ眼のアンシャンテさんが出てきた。
真っ赤なスケスケキャミエッ!!
「きゃー!! スケベーーー!!」
強力なパンチを喰らって僕は気絶した。
なんてアホな話はおいといて、僕は彼女にミミィを見せた。
「成長しきったみたいだ……」
ゴーレムの中には体の変化に伴って精神構造が成熟するものが存在する。
もっとも、丁寧に面倒をみてやらないと変化は起こらないが
真っ黒な服を来て正座をしたミミィはこちらを見上げた。
「これはフォル殿とアンシャンテ殿。その節は」
完全にガードマン・ゴーレムに仕上がった。
嫌な予感がして僕は尋ねた。
「ぶ、武器とか搭載してないよね?」
ミミィが指を曲げると数発の弾丸が発射された。
「チュンチュンチュゥゥん!!」
それは壁を抉った。
「重火器の類はアタッチメントが必要ですが、この程度ならば。あとは刀剣類なら一通り」
僕とアンシャンテさんは慌ててそれを止めた。
ガードマンは不満そうにすねた。
「さすがにTPOはわきまえます。いつまでも子ども扱いしないでいただきたい!!」
思わず僕とアンシャンテさんは頭を下げた。
いや、成長しすぎだろ。
そうこうしているうちに、そろそろ査定だ。
査定に行くか〜なんてお気楽に言えるようになったのは平和ボケではある。
するとテスラ先生からの手紙が入っていた。
先生とはいっても彼は直接の師匠ではない。
その経歴と人柄故に尊敬され、みんなから″先生″と呼ばれているのだ。
手紙に目を通す。
「ジャングルからほじくり出したゴーレムを連れてきてくれい。なに、実地起動試験の一環じゃて」
テスラ先生は尊敬してるけど、たぶん今回は裏がある。
そういうわけで僕とミミィは汽車に乗った。
査定が不安だということでアンシャンテさんもついてきた。
ナンシャンテさんは過労で来られそうになかった。
彼女なりに頑張ったんだな。多分。
相変わらず汽車ってのは狭くて困る。
「狭いですねぇ」
僕とおなじくらいの身長のゴーレムはぼやいた。
(デカい二人組(ふた(ぐみ)だろうと思われてるんだろうなぁ)
ちなみにミミィにはカモフラージュで紺のワンピースを着せてきた。
「あ、あの、これ、は、はずかしいんですが」
それを聞いてか聞かずか、僕はボーッとしていた。
マルシュのキスを思い出していたのである。
頬をゆっくりなぞる。
(あんときブルベリーがほっぺについてたからな。マルシュのやつ、なんていやしんぼなんだ!!)
その時、客席に銃で武装した物騒な集団が乗り込んできた。
「おめぇら動くな。俺らジュッテ団! この列車はジャックしたぜぇ!!」
ミミィは大丈夫だと判断した僕はアンシャンテさんをかばった。
彼女はどさくさにまぎれてギュッと抱きついてきた。
エッ!! デッ!!
(あぁ、フォルさんの香り……大きな体……とろけてしまいそう)
彼女はフォルの胸に顔を埋めた。
「くっ、実地起動試験ってこういうことか!! テスラ先生も人が悪い!!ミミィ!!初陣だ!!大怪我させないようにね!!」
「………御意」
元・戦闘用のゴーレムは勢いをつけて走り出した。
恐ろしく速い!! 想定速度の1.5倍はある。
回し蹴りで1人目をダウンさせた。だがミミィは思わず恥ずかしがってスカートを抑えた。
こりゃワンピースは駄目だな……。
2人目が車両に入ってきた。
「アニキィ!! うわデカ女!?」
すぐさまミミィは手刀を首筋にうちこんだ。
「デッ、デカ女っていうなぁ!!」
デッ!!
「ぐげぇ!!」
列車強盗はダウンした。
「上から奇襲をかけます」
そう言うと彼女は連結部分に出て、ハシゴを伝って車上に出た。
「ミミィ!! 無茶はしないで!! 危険を感じたら戻ってくること!!」
「……御意」
そしてミミィは列車の上を先頭車両に向けて走り出した。
並の人間なら振り落とされてしまう速度だ。
だが、ミミィは安定して車上を駆け抜けていく。
そして彼女は天井をぶち破って運転席に降り立った。
すると運転手が人質にとられていた。
「へへっ、動くと撃つぜぇ。列車中の金目の物を集めてもってこい!!」
強盗は銃をチラつかせている。
「先手必勝!!」
ミミィは指を折って銃弾を数発、発射した。
それは見事に「ジュッテ団」の持つ拳銃を弾き飛ばした。
そして彼女はリーチの長い得意の回し蹴りを繰り出した。
盗賊のリーダー格は強烈なキックを横っ腹にくらってダウンした。
すぐにミミィは顔を真っ赤にしてワンピースのすそを抑えた。
結局、アンシャンテさんは事件が解決するまでずっと僕に抱きついていた。
あ、あの……エッ!!
無事、駅につくとテスラ先生がニコニコしていた。
「いやぁ。魔術局に列車ジャックの犯行予告が届いておっての。バークライトの坊主に一肌脱いでもらおうと思っての」
無茶苦茶だ。みんなを危険に晒す行為に思わず僕は声を荒げた。
「犯罪者集団をけしかけるなんて、やっていいことと悪いことがあります!! 僕はともかく、ミミィやアンシャンテさんが怪我したらどうするんですか!!」
それを聞いていた2人はなんだか感動しているようだった。
「フォル殿……」
「フォルさん……」
これには一本とられたとテスラは頭を下げた。
「お主の言うとおりじゃ。わしが軽率じゃった。ゆるしてくれい」
怒っては見たものの、先生が頭を下げるのを見て急に申し訳ない気持ちになった。
「いえ。仕方のない事でしたから。みんな、行こうか」
こうして魔術局へ行って査定を受けた。
「協会貢献度A 地域貢献度A++ 住民信頼度A++ ゴーレム製造技術・知識S+++ 営業収益B 医療知識・従事A+ 新規開拓研究A 運動能力B、学科試験A、健康A+ 実地起動試験A 監察官監督B」
会長は満足げにうなづいた。
「全体的に評価を上げておいた。精進したまえ。なお、ナンシャンテ・ナンテの再試験は取り消しとする」
思わずアンシャンテさんと抱き合ってしまった。
エッ!!
「うぉ、うおっほん!!」
露骨に咳払いされてしまった。
それと、これに「戦闘実績C」と「バウンティーハンターD」を追加する。両方、テスラ君の推薦によるものだ。感謝しなさい」
先生はこれを取得させたくて僕らをあの列車にのせたのだ。
しかもほどほどに簡単なものを選んで。
「戦闘実績は名の通り。腕っぷしが強ければ上がっていく。バウンティーハンターは名の通り、賞金首を捕まえると上がっていく。この間の連中はDじゃな。これもまた精進したまえ」
帰りに僕はテスラ先生にお礼を言った。
「先生、すいません、僕……」
それを聞いたテスラはすっとぼけた。
「はて? なんのことかの。わしは坊主に叱られるようなボケ老人じゃからの。ほっほ」
そう言いながら先生は去っていってしまった。
帰りの汽車で両サイドにはミミィとアンシャンテさんが寄りかかっていた。
ガードマンが居眠りするとはまだまだだなと微笑む。
まさに両手に華である。男性客の視線が突き刺さった。
にしても……重い!! 絶対、ミミィは他になにか隠し武器、搭載してるでしょ。
でもエッ!! アンシャンテさんもエッ!!
僕は一睡もすることができなかった。




