姉も姉なら
最近、僕はゴーレム関係の仕事で工房にこもっている。
そっちはついでで、メインはミミィのおもりにある。
もうちょっと一般常識や社交性がないと人前に出すのは厳しい。
「フォル殿?」
殿はいらないんだなぁ……。
「バークライト博士?」
どっからそのデータ拾ってきたの……。
「う〜ん、意外と1から創ったほうが調律は簡単なんだなぁ。アルテアの優秀さが際立つよ。あぁ、ミミィが悪いわけではないから」
こうして根気強い学習訓練が再開された。
「コンコン」
扉が、ノックされた。
これはマルシュじゃないな。はーい。
「お邪魔しますね」
扉を開けて入ってきたのはナンシャンテさん……じゃなくて、確か妹さんの……。
「アンシャンテ・ナンテです。お見知りおきを」
僕はペコリと頭を下げた。
「すいません。名前を失念していました。で、今日はどんなご要件で?」
彼女は髪の色以外はナンシャンテさんとそっくりだが、身なりや、性格は正反対だ。
礼儀が良くて、品がある。とても同じ姉妹には思えなかった。
ナンシャンテさん年齢からするに20歳前後だろう。
「今日は姉にハッパをかけにきたのです。まぁ早い話がお説教です。で、姉がどこに居るか知りませんか?」
ナンシャンテさんをかばうわけではないが、酒場に居るかもしれないとは口が裂けても言えない。
だが、アンシャンテさんは全てお見通しのようだ。
「ハァ、どうせまた酒場に入り浸っているのですね……」
彼女の父も心労らしいがアンシャンテさんもだいぶまいっているようだった。
身内から再試験が出るなんて末代までの恥だ。
「まあまあ、お座りになってください」
妹はおしとやかで品のある座り方をした。
「で、姉さんの評価はいまのところどんなかんじですの?」
うわ、すげー言いにくい。
「今は……D++。再試験の域からは出ていません」
アンシャンテさんは額に手をやった。
「……どうにかなりませんか?」
険しい顔をせざるを得ない。
「このゴーレム……ミミィの実地起動試験に成功すればボーナスポイントが入って忖度無しで通ると思います。ですが、彼女はご覧の通り……」
「ハァ………」
互いにため息をついた。
ミミィに気づいたアンシャンテは手を振った。
「アンシャンテ殿!! 久しゅうございます!!」
ミミィはじゃれつくつもりで駆け寄ってきたのだがとにかくデカい!!
危機感を感じた僕はアンシャンテさんをかばった。
「あっ……」
勇ましい顔、頼りになる背中、いい香りの髪……。
アンシャンテはビビッと来た。
そしてギリギリの所でミミィは止まった。
「これはかたじけない……」
「いいかいミミィ、家の中では走っちゃ駄目だよ」
それを見ていたアンシャンテは意外に思った。
「キツくしからないんですか?」
僕は首を傾げた。
「叱る? このコ、そんなに悪いことしてるかな?」
魔術局ではゴーレムへのあたりがキツい傾向にあり、体罰も珍しくはない。
「僕は協会のやり方には反対だね。ゴーレムは大切にしないと。人の血が通ってないからって蔑ろにしていいわけないからね」
なぜだか急にアンシャンテが笑い出した。
「ふふっ。姉さんが惚れ込むわけだわ。姉さんね、フォルさんの話ばっかりするんですよ。今まではふらふらしてたんだけど、最近はフォルさんばっかで。そういうことだったんですね」
嬉しいような、そうでもないような。
酒癖とサボり癖が治ればとんでもなく魅力的ってそれもはやナンシャンテさんじゃないから……。
ゴーレム並の改造を施さねばならなくなる。
さすがにそんな魔改造は御免被る。
妹さんはニコニコ笑っていた。
(あぁ、なんて素敵な殿方!!姉さんには悪いけど私のお婿さんになってもらうわ!!抜け駆け禁止なんてルールはないんだから!!。ふふっ)
こうしてアンシャンテは姉を監査するためにキャマ・クーラ入りした。
もちろんそれは口実で、フォルを落とすためにやってきたのである。
だが、このままではナンシャンテが再試験を喰らうのは避けられない。
そこで、アルテア、エリーヌ、ミミィの総力を決して実地起動試験を行うことにした。
これにマルシュが加わってもらうことになった。
オペレーション「サプライズ・パイ」だ。
まず、ミミィが街中をめぐってスタンプラリーカードを配る。
これによって機動力と社交性のチェックを。
次に図書館にスタンプラリーを設置して、本を借りた人に押す。
エリーヌの処理能力と司書としての機能をチェックする。
そしてアルテアとマルシュが協力してパイをプレゼントするという作戦である。
アルテアは接客、計算能力、仕草、トラブル対処など一番、柔軟性が高い。
初号機なのに傑作が出来てしまった感がある。
ただ、マルシュは上記のほとんどをいとも簡単に、かつスムーズにこなすことができる。
究極のゴーレムなんてものは夢幻なのかもな。
ともかく、これなら一度に3人分の実地起動試験を行うことができる。
誰かが多少しくじってもカバーできるというメリットもある。
まさにチームプレイである。
早速、ミミィがスタンプカードをくばりはじめた。
「スタンプカード、スタンプカードはいかがですか?」
訓練の甲斐あって、接客や社交性はばっちりだ。
だいぶ改善することが出来たと思う。
ホントは蒼の術式で精神面をいじればめんどうのない性格にすることもできる。
だが、それは僕のポリシーに反した。
性格を矯正してまで都合よく扱うなんてエゴ以外のなにものでもない。
機動力は特に問題はなかった。もともと戦士・ゴーレムだっただけはある。
ただ、アンシャンテさんが成形時に気を利かせてくれ、シルエットは女の子のそれとなっている。
中身の幼さもあって、大きいながらに彼女は可愛らしく見えた。
誰もデカ女と揶揄する者はいなかった。
あっという間に図書館には人が集まっていた。
穏やかな笑みを浮かべてエリーヌはスタンプを押していった。
彼女も不安定な時期があったが、いつしか元気を取り戻した。きっとピクニックがよかったんだな。
……ピンクの上下エッ!!
最後にアルテア。
彼女に関してはもう文句のつけようがない。
マルシュに関してだが……って彼女には実地起動試験はしないって。
こうして作戦は大成功で終わった。
ナンテ姉妹も必死に協力した結果、それなりの監察書類が出来上がった。
これを僕が監督すれば良いのである。
正直、ドキドキした。あのナンシャンテさんだし。
だが、実際、書類に目を通すと、すばらしい出来だった。
まぁゴーレム3人娘の協力とアンシャンテさんの協力あってのことだけど。
ともかく、これならば再試験は撤回されるだろう。
僕は色々あってなんだか気が抜けてしまった。
そんな時、マルシュがパイを持ってきてくれた。
「ハイ!! お疲れ様!! フォルの好きなブルーベリーパイだよ!!」
疲れていた矢先にこれは助かる。
「ありがとうマルシュ。うん。相変わらずマルシュのパイは、美味しいよ」
するとなぜかマルシュは照れくさそうにした。
「私ね、最初、みんなと仲良くなれるか不安だったんだ。でも、みんな良い子でさ。これもフォルのおかげだよ」
手をひらひらと振って僕は笑った。
「大したことじゃないさ。でも喜んでくれたみたいで……」
次の瞬間、マルシュは僕の頬にキスした。
「!?」
「あたし、自信がついた!! 全部フォルのおかげだかんね!! ありがと!!」
彼女ははにかんで、てとてとと走っていってしまった。
……エッ!!……?




