エッ!! えっ、えぇ……
新たに連れてきたミミィだけど、さすがに兵器のままの人格で日常生活は送れない。
ジャングルから野生児を引っ張り出してきたようなもんだし。
そこで元の人格を活かして今風にチューンした結果、ガードマンのような精神構造になった。
さすがに今の世の中にガチのソルジャー・ゴーレムはいらないからね。
アンシャンテさんの提案で、髪の色も明るめの金髪に染め直した。
これは本人の希望でもある。迷彩用のオリーブじゃあまりにも悲しいからね。
ただ、まだ家からは出せないなぁ。
礼儀正しいんだけど、常識に欠ける。人付き合いもうまくはないし。
実地起動試験してくださいといわんばかりの状態だけど、さすがに危ない橋かな。
まぁ、もっと聞き分けの悪いゴーレムもいるし、このくらいならまだカワイイもんだな。
今日は町医者の仕事だ。
白衣を羽織って高めの位置で髪をくくる。
ミミィが声をかけてきた。
「フォル殿はお医者さんもできるのですか?」
うーん、だいぶマイルドになったなぁ。平和を望む心がそうさせたんだな。
「にしても″殿″はやめてよ″殿″は。フォルでいいって」
「ではフォル……。貴方はお医者さんもできるのですか?」
「まぁね。本職はゴーレムいじりなんだけどね。あ、ミミィ、悪いけど、今日は家にいてくれる? 君はまだしばらくメンテしなきゃいけないんだ。わかったね?」
「はい。わかりました」
聞き分けが良くて非常に助かるな。
「じゃあね」
僕は手を振って家を出た。
診察所につくとみんなにあいさつした。
「先生、おはようございます!!」
「先生、今日もお願いします!!」
いや、だから先生は大げさと言うか……。
医院長が背中を叩いてきた。
「ほっほ。よろしくたのむのバークライト先生や」
うーん、この扱いはいつまで経っても慣れない。
みんなのマドンナ、孫娘のルルゥさんも挨拶しにきてくれた。
「フォル君、今日もよろしくね!!」
いつ見てもスタイル抜群だ……。エッ!!デッ!!
小声でルルゥさんは耳元にささやきかけてきた。
「もう。どこみてるの? フォル君のエッチ……」
エッ!!
いや、社交辞令(?)だな。
フォルにダメージは通らなかった。
最近になってルルゥは強火のアプローチをしかけるようになってきた。
明らかにフォルの周りに女子が増えてきて警戒し始めたからである。
しかし、彼女は年の割には成熟していて、決して焦ることはなかった。
マルシュとは完全に正反対である。マルシュはまぁ、勢いだ。
そういうわけでルルゥはさりげなく、だが確実にフォルとの物理的距離を近づけつつあったのだ。
精神的距離はともかくとして。
水面下の衝突が起こっている一方、フォルはというとノーテンキだった。
年頃の男の子なんてそんなもん……ではないだろ。
こんなことがあったら爆発間違いなしだ。
僕の本業はゴーレム使いだ……とは言ったものの、責任感はひしひしと感じていた。
このキャマ・クーラには大規模な病院がない。
そのため、看るのが難しい患者はたらい回しにするしかない。
だが、今の僕の評価なら病院の開院、経営が可能だ。
だからルルゥさんはとても僕に期待しているらしい。
査定で僕の医療の評価が上がったことについて、彼女は僕以上に喜んでいた。
たくさんの人の命に関わる選択だ。ヘラヘラしてはいられない。
でも、やっぱそうなるとあまりにも責任が重すぎると言うか。
そういえばバリー先生が「医者になればルルゥを嫁にやる」とか言ってたな。
またまたお戯れを。
大事な孫娘をそう簡単に出すわけがないんだよなぁ。
そんなことを考えながら、僕は地下の薬品倉庫へむかった。
ここは光や乾燥に弱い薬剤を保管しておく倉庫だ。
しょっちゅう使うわけではないので、半日くらい誰も来ないこともある。
僕が薬を探しているとルルゥさんの姿が見えた。
「ルルゥさん!!」
そう声をかけると、突然、彼女は倒れそうになった。
「危ない!!」
ギリギリで僕は彼女を受け止めることに成功した。
「ごめんねフォル君。私、最近、貧血気味でね……」
荒い息をする彼女を落ち着かせていると、何かが倒れ込んできた。
ルルゥさんが倒れたときに、ロッカーにぶつかったのである。
僕は彼女に覆いかぶさってかばった。
「ルルゥさん、大丈夫ですか!?」
その頃には彼女はいつもの調子を取り戻していた。
だが、僕らはロッカーにすっぽりハマってしまった。
抜け出そうにも狭くて抜け出せない。
当然、ルルゥさんとみっちり密着する。
エッ!! デッ!!
「ハァッ、ハァッ……」
酸欠で互いの息が荒くなる。
エッ!!
「フォル君、そんなにくっついちゃ……あん」
どさくさに紛れてルルゥはフォルの香りをかいだ。
手入れされた髪からはまるで女の子のような香りがする。
普通、それ逆じゃね?
ギュッと柔らかな身体のあちこちがフォルにあたる。
さすがのフォルもなにかしら反応するかと思われたが、ずっとくっついていると頭が冷えてきた。
どうやったら生還できるかを真面目に考え始めたのである。
半日は助けは来ないとみていい。
このまま窮屈な思いをするだけならまだしも、酸欠になりかねない!!
なんとかならないか!!
ルルゥの色っぽい吐息が聞こえてくるが、それどころではなかった。
「ううっ!!」
身体をロッカーから引き抜こうとするが、抜けない。
フォルは久しぶりに自分のデカさを恨めしく思った。
さんざん脱出を試みるもののガッチリだ。
ルルゥは苦しそうだ。万事休す!!
そのころ、マルシュはフォルの家のドアをノックしていた。
「コンコンコンコン」
反応を無視してドアを開けた。
そこには驚いた表情のミミィが居た。
「うえあーーー、また知らないオンナが居る〜〜〜!!」
いつもならべそをかいて逃げ帰るところだが、今日のマルシュは一味違った。
「ねね、フォルは?」
ミミィはたどたどしく答えた。
「びょ、びょういんです」
するとマルシュはバタンとドアを閉めてダッタカと駆け出した。
そして診察所に乗り込むとパイの差し入れをし始めた。
「今日のパイはかぼちゃパイです!! あ、フォルいますか?」
どさくさに紛れて居場所を聞く。
「あれ、居ないな。もしかして薬品庫かもしれないよ」
するとマルシュは手当たり次第に部屋を巡って薬品庫を探し出した。
そこにはロッカーの中でひっついているルルゥとフォルを見つけた。
「え……あ……」
マルシュは思わず顔を覆った。
そしてフォルの脇腹をつきとばした。
「フォルのエッチぃぃぃ!!!! 不潔ーーーー!! うわああああ!!」
そう言うと彼女は去っていってしまった。
だが、おかげでロッカーから身体が抜けた。
振り向くとルルゥさんがささやいてきた。
顔を真っ赤にしている。
「すごいくっついちゃったね。もう。フォルくんのエ・ッ・チ♥」
えっ、エッ……えぇ……僕は疲れのあまりリアクションするエネルギーは残って無かった。




