くっ殺
いきなり僕は王立宮廷魔術局に呼び出された。
緊急案件ということで嫌でも緊張せざるを得ない。
だが、様子がおかしい。僕の周りの人達はみんな、武装していたからだ。
えー、ナニコレ。
そして要件が伝えられた。
「グランドール南部のポーレイポレイジャングルにゴーレムの敗残兵が残っているというのだ。なんでもゴブリン紛争が終わったのを知らないらしい」
ゴブリンなんて60年くらい前に追い払ったはずなんだけどな……。
そのゴーレムを回収して秘密裏に葬るというのが僕らのミッションだ。
そりゃ非人道的なゴーレム兵器なんて隠匿したいに決まってる。
臭いものにはなんとやらだ。
ただ、ゴーレムの知識なしに破壊しに行くのはリスキーすぎる。
そこで僕が呼ばれたわけだ。
もちろん気乗りするわけがない。
そんな時、ニコニコ笑ったテスラ先生がやって来た。
ハゲ頭に白髪の長い眉毛、逆V字のヒゲが特徴的な方だ。
「バークライトの坊主、出来ればゴーレムを回収してきてくれんか。なぁに、解析・分析・解体なんぞするつもりはない。人間のエゴでそんな長いこと戦わされてきたんじゃ。休ませてやってもよかろ?」
先生の言葉に僕は全面的に同意した。
こうして僕らはクランドール南部のポーレイポーレイジャングルへ旅立った。
むせかえるような湿気、うだるような熱気。
ジャングルに来るのは初めてだった。
同行していた兵士たちは困惑した。
こんな広大なジャングルでゴーレム一体探せるのかと思ったからだ。
潜伏している可能性もある。捜索は困難を極めるかと思われた。
だが、僕には策があった。
旧軍のゴーレムには必ず識別コードがついており、ソナーを使えば位置の特定が可能だ。
完全に壊れることが前提で造られており、自爆機能もついている。
自分で起爆することは出来ないのでその危機は薄いと言えた。
とはいえ、爆弾を積んでいるのだ。至近距離で暴発したら命はないだろう。
それを説明すると兵士たちは敬礼した。彼等は死を厭わないというのだ。
僕もそれに答えて胸に手を当てた。
命は惜しいが、同時にどんなゴーレムなのかワクワクしていた。
「ソナー反応あり!! そっちそっち!!」
「どっちでありますか!?」
「上、上!! 木の上!! あ、逃げた」
さすが戦闘用ゴーレムだ。機動力が違う。
このままでは埒が明かない。だが、僕は機転を効かせた。
「ゴブリンだぁ!! ゴブリンが出たぞぉ!!」
すると、頭上からゴーレムが降ってきた。
「もらった!! 捕獲用トリモチ・ランチャー!!」
専門の捕獲アイテムで動きを奪った。
目を凝らすとそれはメイデン・ナイト・タイプだった。
巨大なロングソードに重そうなプレートメイル、シールド、ヘルム。
ガチガチの重装備である。
「くっ殺せ!!くっ殺せ!!」
なんかあちこちで聞いたことあるセリフだなぁ。
「私は誇り高き女騎士!! ゴブリンに汚されるくらいなら死を選ぶ!! 殺せ!」
まったくなんて物騒なんだ。
女騎士のゴーレムは激しく抵抗した。
並みの力では破れないはずのトリモチがギシギシと悲鳴を上げる。
「あぁ、暴れないで!! 万一、爆発しないでもないし!!」
だが、僕らの耳に最悪な音が響いた。
「ピッ・ピッ・ピッ」
その場の全員が青ざめた。
ゴーレムに搭載された爆弾のカウントダウンが始まったのだ。
自爆は出来ないが、追い詰められたら爆発するように出来ていた。
「キーワードは……″くっ殺せ″だったんだ!!」
すぐに兵士たちはダウンしたゴーレムの爆弾を発見して爆発物処理に回った。
専門家だ。うまくやってくれるだろう。
「こんな回路、見たことありません!!ゴーレムのものでは!?」
すぐに僕は駆け寄った。
「ふっ、古すぎる……」
確かに爆弾仕掛けはゴーレムのものだった。
しかし、いかんせん古すぎる!! 60年も前のなんだぞ!!
「ピッ・ピッ・ピッ」
残り2分半!!
「みんな、逃げろッ!!」
「しかし、フォル殿は……」
「いいから逃げろッ!!」
僕は時限爆弾にとりかかった。
「ハァッ、ハァッ、朱の術式と蒼の術式が混ざってる!! 紫の術式か!! 昔はよく使われてたっていうけど……」
残り1分半!!
今までの出来事が走馬灯のように蘇る。
みんな、元気かな……なんてアホなことをやってる場合じゃないぞ!!
そして僕はそっと瞳を閉じて、術式を刻み足した。
「ピッ・ピッ・―――」
カウントが……止まった!!
直後、僕は兵士たちにもみくちゃにされた。
「フォル殿万歳!!」
「死ぬかと思いました!!」
「GTMは伊達じゃないっす!!」
禁術図書館で読んでおいた極・ゴーレムの極みに搭載爆弾の解除法が載っていたのである。
こうして僕らは無事にミッションを達成してクランドールへ帰った。
ゴーレムは極秘裏に処理……されはしたが、破壊処分にはならなかった。
テスラ先生に引き取られた彼女は僕に丸投げされた。
「わるいのぉ坊主。最近、わし疲れがちでの。お主にまかせるわい。あ、素体創りは手配しといたぞい」
ひらひらと手を振りながら先生は行ってしまった。
とりあえず全裸にして身体を見るとあちこちが酷い傷だらけだった。
すると向こうから誰かやってきた。
まさかのナンシャンテさんである。いや、なんか雰囲気が違うぞ?
見た目はそっくりだが、銀髪をしている。
「すいません、姉がご迷惑をおかけして。私、妹のアンシャンテ・ナンテといいます。よろしくお願いしますね」
彼女は柔和な笑顔を見せた。
腕利きの素体創りは何人か居ると聞いたが、まさかナンシャンテさんの妹さんとは。
「姉の件で、父が心労で倒れまして……」
あーーー。ひどい話だ。
こうしてアンシャンテさんは素体を修復していった。
姉が力強さなら妹は繊細さである。
「傷と装甲は……消しますか?」
僕は即答した。
「うん。消しちゃって。それは今の彼女にはいらないから」
そして朱の術式、蒼の術式を整える。
装甲が硬かったからか、術式の摩耗はほとんどなく、簡単な刻印作業だった。
仕上げに太ももの内側に「Foll.B」と刻印した、
そして戦闘用ゴーレムの修復は終わった。
「ん〜、戦闘用だけあってデカいなぁ!! 僕と同じくらいかな」
そして僕はゴーレムを起動した。
「ゴーレム・バーーーースッ!!」
ゴーレムに火が灯る。
「わかるかい? 君、名前は?」
彼女はシーツで身体を覆った。
「きっ、貴様ぁ!! 私は識別番号EC-66DEBだ!!」
明るい所で見ると特徴がよくわかる。
迷彩用のオリーブ色の髪、キリッと凛々しい目つき、かなり高い鼻、無垢な唇。そしてデッ!!
「もう戦争は終わったんだ。識別番号なんてやめようよ……」
それを聞いた彼女は崩れ落ちた。
「戦争が…終わったら私は……私の意味は?」
ニッコリ笑うと僕はその手をとった。
「これから、のんびり決めればいいさ」
彼女は目を見開いていた。
「じゃあ名前設定〜。カワイイのにしちゃおうか。そうだなぁ。お菓子の名前からとってミミィにしよう!!」
ミリーは変な声を上げた。
「みっ、ミミィ・チモシー!?」
「うん。ミミィ・チモシー」
アンシャンテさんが提案した。
「ついでに可愛らしいワンピースとか着せちゃいましょうか」
こうして超弩級のワンピース少女が誕生した。
いや、いまんとこ年齢はわからないけど。
「きっ、貴様ぁ!!なんたる屈辱ッ!!」
こうして照れ隠しのミミィにさんざん追い回されるのだった。
待って。まだ人格が戦士じゃん!! ホントに殺されちゃうよ!!




