フツーのお・ん・な・の・こ
今日はゴーレム調律の仕事依頼が入った。
僕がいっつも女の子と一緒に居るとか誤解だからね!?
出張費分、家に居座ってたナンシャンテさんも追い払った。
久しぶりにゴーレムいじりに集中できるぞ。
僕は髪をかきあげて後頭部にお団子状にまとめた。
クイッと銀ぶちメガネをあげる。
「さて、やりますか」
気合を入れた直後、誰かがドアをノックした
「コンコン……」
「マルシュじゃないな? はい、どうぞー」
ドアの向こうから姿を見せたのはアルテアだった。
僕は笑みを浮かべながら彼女を迎えた。
イスを用意してお茶をいれる。
アルテアはスカートを抑えて女の子らしい挙動をした。
完成度の高さについ首を振ってしまった。
「で、アルテア。なにか用事かい?」
すると彼女はモジモジしはじめた。
「えっと……そのね……一緒に映画とか……見に行ってくれないかな……な〜んて!!」
アルテアははにかんで映画のチケット2枚をひらひらと振った。
おそらくバイト代で買ったものだ。
僕はその気持ちに感謝して二つ返事を返した。
「うんうん。いいよ。いこうか」
「うそ〜!? やったー!!(デートデート!!)」
だが恐ろしいことにフォルという男はこれをデートと認識することが出来ないのである。
本来はゴーレムの恋心を観察するという重要な研究題材があるのだが、当の本人が気づかないのでは救いようがない。
フォルにとっては映画を見に行く。
それが最大の目標であり、それ以上でも、それ以下でもないのだ。
それにしてもアルテアが見に行きたかった映画とはなんだろうか。
おそらくアクションやパニック系ではないかと思った。
「で、何観るの?」
「じゃ〜ん!! コレ!!」
″キミと来世でまた会おうよ?″
まさかのロマンス系である。
アクティブ系に思える彼女だったが、実は結構ロマンチストだった。
フォルの感覚のズレを知らないアルテアを悲劇が襲った。
「う〜ん、来世、輪廻転生にリインカネーションの概念かぁ。とても興味深いテーマだったね!! どういうプロセスで再会するのかな?」
思わずアルテアはげんなりしてしまった。
「じゃ、じゃあお昼、食べよっか……。フォルは何が好みなの?」
アルテアは気を取り直してそう尋ねた。
「そうだなぁ。パスタが好きかな」
ゴーレム少女はガッツポーズをとった。
あらかじめ下見をしていたメニューにドンピシャだったのである。
ちなみに普通のゴーレムには味覚がないがガーリー・ゴーレムとなれば話は別だ。
晩餐会に参加することも想定しなければならないからである。
そのグルメさには目を見張るものがあり、美味しいものを見つけるアンテナの感度はかなり高い。
アルテアには″肥えた舌″が搭載されているのである。
ちなみに毒見役をつとめることもあるので、アルコールや毒物の類には反応しないように出来ている。
フォルは美味しそうに人魚ワカメのパスタを味わっていた。
こうやって見ている分には普通のデートに見えるのだが。
「うんうん。美味しいお店を探せるようになったね。良いことだよ。もし僕が毒を盛られたら助けておくれよ」
フォルはさらりとブラックジョークを言った。
「えへ。えへへ」
アルテアは恥ずかしがって顔を赤くした。
そして2人は日が暮れるまでショッピングを楽しんだ。
その日の夕、フォルとアルテアは砂浜で波と戯れていた。
座るフォルのそばにアルテアがやってくる。
その姿は本物の少女となんら変わらない。
ただ、アルテアはどうしても気になっていることがあった。
「ねぇ、今更なんだけどさ、フォルくんはなんで私を創ったの? やっぱ……査定のためなのかな? 私は査定のためのゴーレムって聞いたことあるんだ……。GTM、欲しかったんでしょ?」
僕は静かに怒りを燃やした。
どうせゴーレムを軽んじる魔術局の連中のことだ。
1つの生命に対してそんな心無い言葉をさらりと言ってのけるのだ。
立ち上がって小石を海へ投げる。
「そんなわけないじゃないか。僕は君の……」
その時、僕は言葉につまってしまった。
マスター? 父親? 相棒? ……恋人としては見られないな。よくわかんないし。
良いムードがガラガラと音を立てて崩れた。
「そうだね。少なくとも君は僕にとっては大事な存在さ。決して査定用のゴーレムなんかじゃないよ。そんなこと言うやつは僕が許さない。いいね?」
「うん!!」
この時、アルテアはかすかに芽生えた恋心をフォルに伝える気でいた。
しかし、査定用ではないときっぱり否定してもらえたことで自己肯定感が上がり、満足していた。
「この気持ちはまだとっておこっと……」
たとえアプローチしようがしまいが大して変わらないとは言え、ライバルが多い中でこれは悪手だった。
厄介なことに、フォルが鈍感でどうしようもないことを知りつつ寄ってくる娘はワラワラいるからだ。
カッコが良い、優しい、背が高い、オシャレ。
高い山なら高いほど、それを乗り越えた時の達成感は大きい。
障害が大きいほど恋心は燃える。
母性本能。
そこらへんの感情が混ぜこぜになって、無謀な戦いと知りつつ少女達は戦いに身を投じていくのである。
そんな状態になれば男どもが放っておかない。
フォルはしょっちゅう血祭りにあげられている。
……はずなのだが、フォルがあまりにハイスペックで文句のつけようがないのだ。
それに、男連中を蔑ろにせず、誰にでもフレンドリーに接するのである。
デキる男は余裕があるというが、まさにそれである。
フォルのやりたい放題にも思えるが、当の本人はアホがつくほど謙虚であり、傲慢な態度もとらない。
身分や資格を誇ることもないし、それを鼻にかけることもない。
もしかしたらフォル自身が一番のヒロインなのかも知れないというくらいだ。
散歩ばかりしていたアルテアだが、ウワサからしてフォルがこんな感じの人物というのは肌で感じていた。
それでも、それでも燃えずにはいられないのだった。
(ライバルは多いけど、私にはフォルのゴーレムっていうアドバンテージがある!!必ずものにしてみせるんだからッ!!)
そうこうしているとフォルが声を上げた。
「あ、いけない。ゴーレム調律の依頼、終わってなかった。ついでだし、ウチてお茶でものみながらやろうか」
「うん!!」
眩しいまでの笑顔でアルテアは答えた。
2人がフォルの家について一息ついた頃……。
「コンコンコンコン」
これはマルシュのノックだ。
予想通り、雑にマルシュは扉を開けた。
「やっほーフォル!! お夕飯はねぇ、ミートパ……」
アルテアとマルシュの視線が合った。
すると、パイ少女はパイを置き去ってドアを閉じた。
「うえあーーーー!! なんでアルテアちゃんがいるのぉーーーー!!」
彼女はべそをかきながら帰っていってしまった。
「アルテア″ちゃん″?」
フォルは首をひねった。
「私もマルシュ″ちゃん″って呼んでるんですよ」
仲が良いのは良いことだ。そうフォルは思った。
だが、同時に疑問が湧いてきた。
「アルテア、マルシュは君のこと、ゴーレムだって知ってるの?」
アルテアはウィンクしながらベロを出した。
「まさか。わたしは〜フツーのお・ん・な・の・こですから♥」
小悪魔である。が、ニブチンはなにも思わなかった。
ちなみにエリーヌもゴーレムだとはバレていない……はずだ。
実地起動試験としては順調だが、フォルにはイヤな予感がしていた。




