チクられたさけねーちゃん
僕は査定結果の書類に目を通していた。
場所はバー「走る仔馬亭」だ。
何度か出禁になったが、結局、入れてもらっている。
僕だってこんなところで仕事はしたくない。
ただ、向かいに座っているデッ!!な美女、ナンシャンテさんはお酒を飲まないとポテンシャルを発揮できないのだ。
まったくどうしょうもないおねーさんである。
ゴーレムの身体となる素体を作るエキスパートで協会にとっても貴重な人材のはずだ。
にもかかわらず、再試験の申請、つまり誰かのチクリを食らうとはよっぽど素行が悪いに違いない。
いや、実際、悪いんだよなぁ。
「僕はこんなとこで″やり″たくないって言ったでしょ!! ホテルにしてください!!」
「あぁん、殺生なぁ。じゃあフォルくんちで″やろう″よ!!」
「僕んちは駄目ですよ!!いま、調律してる娘(ゴーレム)がいるんですから!!」
怪しげな痴話喧嘩にバーの視線が集まる。
「やっぱお前ら出禁だ!!」
バーのダンツさんに放り投げられてしまった。
結局、僕らはナンシャンテさんの宿泊予定のホテルに行った。
驚くべきことに、彼女の部屋には生活感がなかった。
この調子ではホテルに泊まらず遊び歩いているのだろう。
「宿泊費はどうしたんですか?」
彼女は気まずげに視線をそらした。
「あ〜、そりゃ交通費っていうか」
公費をくすねるとは言語道断である。どうせ酒にでも使ったのだろう。
僕はナンシャンテさんに顔を近づけて睨みつけた。
一瞬、目線が合う。
(うわ〜近い、近いよぉ!! でもいつ見てもカッコいい〜!!)
僕は再び査定結果の書類を取り出した。
「いいですか。今のところ実地起動試験はD。これは取り組み始めだから良しとします。問題は監察官監督の項目です。僕はナンシャンテさんが監察官としての仕事を全うするのを見届けねばなりません」
ゴクリと彼女は息を呑んだ。
「再確認しますよ。ナンシャンテさんは実地起動試験を監察してください。ゴーレムの生活や労働の様子を細かくチェックするんです」
そして僕はうなだれた。
「勘弁してくださいよ。ナンシャンテさんが真面目にやってくれないと僕の監督義務に関わるんですから。下手したらGTM剥奪もありえるんです。一蓮托生なんですよ?」
それを聞いた女性は胸をときめかせた。
「一蓮托生……素敵な響き……!!」
だが、フォルはカンカンだ。
「聞いてるんですか!? 公費を私用に使うのは絶対やめてください!! 下手したら再試験どころじゃなくて王国裁判所モノですよ!! ハァッ……」
その憂いに満ちた美青年の顔はナンシャンテを激しく刺激した。
荒っぽく彼は長髪をかきあげた。
(トゥンク……)
「あっ……」
どうしょもないねーちゃんに対してもフォルは心優しかった。
「しっかりやってくれないとナンシャンテさんのためにならないっていうのに。再試験にかけられたら冗談なく露頭に迷っちゃいますよ。僕はそんな姿は見たくないです……」
すると彼女はフォルにひっついて号泣しだした。
ギュウっと胸が当たる。
デッッ!!
「うおおおおん、うおおおおん!! フォルくん、フォルくーーーん!! そこまで私のことを真剣に考えてくれていたなんて〜〜〜ッ!! へっほんしてくれーーー!!
彼女がなにかわめいていたが、呂律が回っていない。
「ヘッホンシティ? それどこです?」
そして僕は彼女をひっぺがした。
「うわ酒臭!!」
すると忙しいことにナンシャンテさんは泣き出した。
「ゆるして〜。ゆるしてください〜〜」
僕は猛烈にイヤな予感がした。
「今回もらった出張費、全部、お酒につかっちゃったのぉ〜!! このままじゃ公費私用罪であたし、タイホされちゃうわぁ!!」
これには僕もあんぐり口を開けざるを得なかった。
「泊めて〜!! お願い!! 出張費の分、フォルくんちに泊めてぇぇぇ!!」
ゲンコツをぶちかましてやりたがったが、僕はレディには暴力はふらない。
だが、こんなことを繰り返していたら流石に僕が参ってしまう。
ここは″小指の契約″を交わすことにした。
俗に言う指切りげんまんだが、一方的な契 約で主の言うことに逆らってはいけない。
呪術的な側面があって、強制度は高めだ。
「僕の言うことは遵守すること。なお、緊急時はこの限りではない」
(あぁ……)
シャンナンテさんは恍惚の表情を浮かべた。
まったく、つきあってらんないよ。もう。
ヘロヘロになった彼女を連れて家に帰った。
そして僕は硬くて狭いソファーに眠った。
次の日の朝、鈍痛で目を覚ます。
「ったく痛いんだよこのソファー……」
ベッドの方を見ると下着でナンシャンテさんが横たわっていた。
エッ!!
紫のスケスケセクシーランジェリーだ。
「コンコンコンコン」
マルシュのノックだ。
彼女は有無を言わさずドアを開けた。
「おはよーフォル!! 今日もパイ、焼いてきた……」
マルシュはフリーズした。そのまま背を向けてドアを閉めた。
「うえあー!! 下着姿のオンナがいるーーー!!」
彼女はべそをかきながら帰っていった。
だが、彼女のタフさには驚くべきところがあり、こんな出来事があっても翌日には顔を出すのだ。
通い妻と称されるだけはある。
この日、僕たちはアルテアの様子を見に行った。
「ほら!! 真面目に実地起動試験の監査をして!!」
僕は酒飲みねーちゃんに厳しく接した。
肝心のアルテアはというと棚卸しや陳列など店内の仕事をこなしていた。
愛嬌がいいところが幸いして、早くもファンがついているようである。
アイドルのルックスを持つのだ。無理もない。
おばさんの評価もよく、ちゃんとアルバイト代ももらっていた。
何に使うのかは任せてある。何を買うかは全く予想がつかなかったが。
階段からピリピリした視線を感じる。
マルシュだ。彼女はすっかり仕事を奪われてしまった。
それに、見た目が恐ろしく良いアイドルに嫉妬しているようだった。
こればっかりは僕が悪い。強く生きて。
今度、またパイ屋の話をふってみることにしよう。
図書館にいくと受付にエリーヌが座っていた。
訪ねると表情が明るくなった。
環境に慣れたからか、表情が柔らかくなり、より女の子らしくなった。
「あ、フォルさん、ナンシャンテさん。いらっしゃい」
またもや僕は酒飲みねーちゃんに喝を入れた。
「ほら、監査監査!!」
彼女は慌てて書類を作成し始めた。
「やぁ。エリーヌ、調子はどうだい?」
司書のゴーレムはにっこりと笑った。
「ええ。お陰様で。フォルさんはどうですか?」
僕も笑い返す。
「まあまあかな。エリーヌも無理しないようにね」
「はい!!」
彼女に関してはやはり心配はいらなかった。
もともとの人格や精神が高度に組まれているので、空気を読んだり、トラブルに対処できる柔軟性がある。
こういうところはアルテアにはやや足りないところではある、
彼女にもお給料が出るらしいが使い方については任せてある。
一体、何を買うのかはわからない。貯金とかしそうではある。
実地起動試験は大成功で、これならすぐにでも査定に通りそうだった。
「ハァッ、スムーズに終わったね。これもナンシャンテさんのおかげだよ。やればできるじゃない」
彼女は頭を掻いた。
「えへ……えへへ。じゃ、じゃあ今夜、一杯″やり″にいきましょうか!!」
僕は彼女にゲンコツをくらわせた。




