貧ッ!!普ッ!!デッッ!!
僕は長い後ろ髪を垂らすと、それをかき上げて上で結んだ。
メガネをクイッと上げて外出だ。
僕とナンシャンテさんは朝イチで街の図書館へ向かった。
ナンシャンテさんは酷くグロッキーだ。
本人は朝が弱いとか言ってるが、どうせ昨日の晩も酒をかっくらっていたのだろう。
減点してやろうかと思ったが、僕はそこまて余裕のない人間ではない。
ほうっておくことにしよう。
今日は街の図書館のリニューアルオープンだ。
僕が図書館に入ると驚きの光景が広がっていた。
床や本棚は掃除され、乱雑だった棚も整理されてたのである。
細かいサポートはナンシャンテさんが手伝ったものの、1人でやるには出来過ぎだった。
「エリーヌ!! すごいじゃないか!!」
彼女は後頭部を掻いてはにかんだ。
「そ、そんなこと……」
思わず僕は彼女の手を握った。
人間と変わらない、暖かい手だ。
「……あ……」
「大丈夫!! 自信を持って!! 出来る限り様子を見に来るからさ!!」
すぐに僕はナンシャンテさんに指示を出した。
「さ、実地起動試験のレポート描いてください。しっかりしたの上げないと減点です!!」
彼女は、ガチ泣き寸前だ。
「ひ、ひ〜ん!!」
するとエリーヌが声をかけてきた。
「あ、あのっ、フォルさん。暇な時、お家に遊びに行っても……良いですか?」
僕は快諾した。
「ああ、いつでもおいでよ。歓迎するからさ」
「あ……」
ん?なんか変なこと言ったかな?
そんなこんなで街の図書館は活気を取り戻した。
もちろんエリーヌ目当ての男性も多く訪れた。
一説によるとこれによってキャマの街の男性の平均知能指数は25%上昇したという。
「問題は次だよ。ちょっと気になるな」
今度は街中のフォルモス薬草店に入った。
ここはマルシュの実家であり、亡くなった旦那さんに変わって奥さんが切り盛りしている店である。
「フーコおばさんこんにちは。この間、話をしておいた娘なんですけど」
僕はアルテアを前に出した。
精神面はアイドルがベースだけあって肝がすわっている。
愛嬌もあるし、店番としての適性はバッチリなはずだ。
「こんにちは。はじめまして。アルテアです。フォルくんとはそりゃあもう深い仲で……」
気づくと2階に上がる階段からマルシュが覗いていた。
まるで攻撃態勢をとっているチワワのようである。
「うぐ、ぐるるる……」
心なしか声も聞こえてくる。
彼女を煽ったらしい。
時折出るこれは小悪魔的な何かで、フィルターで取り除くことは出来なかったようだ。
というかこれは彼女の個性だった。
まぁ店番にはさほど問題にはならない……と思うが。
「ハッハッ!! 面白い嬢ちゃんだ!! 早速、色々と教えてやろうねえ!!」
アルテアはこちらに向けてウインクした。
コレは手応えアリだ。うまくいくだろう。
僕はまたナンシャンテさんに指示を出した。
彼女は焦りながらゴーレムの監査に取り組み始めた。
マルシュにも顔を出しておこうと階段を上った……が、狭い。
思わず頭をぶつけてしまった。
なんとか彼女の部屋に入る。いつ来てもマルシュの部屋は女の子女の子していて少女趣味だ。
大男が部屋を圧迫する。
するとマルシュはすすり泣いていた。
僕は驚いて声をかけた。
「どうしたんだいマルシュ。なんで泣いてるのさ?」
彼女は肩を揺すった。
「……あんな可愛い子に勝てるわけ無いじゃん。お店番も、フォルも、みんなとられちゃうよぉ……」
アイデンティティの喪失というやつだろうか。
僕が盗られるというわけのわからないシチュエーションはともかく、結果的に仕事を奪ってしまったのはよろしく無かった。
なにか彼女に出来ることはないかと僕は頭をひねった。
すると、ピクニックに行ったときのことが思い出された。
″上下セクシー黒下着!!″
いかんいかん。とにかく、あの時のことを思い出さねば。
「そうだよ。パイだ!! 腕を上げて売り物にすればいいんだよ!!」
そう事は簡単ではなかったが、マルシュならやってのけそうだ。
「君のパイは絶品だからね。僕が保証する!!だから頑張ればなんとかなるはずだよ!!」
勝手なことを言って!!と反論したくなるところだが、マルシュは幼い頃からフォルの努力を見てきた。
そんな彼の前で何もしないで諦めるという選択肢はなかった。
「わかった!! あたし、頑張る!! 毎日がんばるから、毎朝、私のパイ、食べてよね!!」
「え?」
「だ〜か〜ら、毎朝、あたしのパイ、届けるからね!!」
いくらパイが好きだからとはいっても、毎朝食べたら飽きるに決まってる。
「ヘーキヘーキ!! ちゃんと毎日、フレーバー変えてくるからさ!!」
マルシュはしたり顔だった。
(これで毎日、フォルんちに行く口実が出来たもんね!!)
もっとも彼女に関しては用事がなくても訪ねていくのでいつもと変わらないといえば変わらないのだが。
だが彼女の空気の読めなさはかなりの強みでもある。
実際、訪問回数ではマルシュがダントツなのである。
通い妻と称されるのは伊達ではない。
積極的と思われるアルテアもナンシャンテも空気を読む時は読むのにだ。
まさに突撃娘と言っても良い。
問題はそれがあまり結果に結びついていないことなのだが。
相手がフォルだからアレなわけであって、健全な青少年ならばこんな幼馴染がいれば泣いて喜ぶだろう。
きーきー言うし、ぺったんこだが。
惚れた男が悪い。彼女に関してはこれにつきる。
「コンコンコンコン」
次の朝、早速、マルシュがやって来た。
「おっはー!! 今日のパイはピーチパイだよ〜!!」
僕は辟易としながらもパイを食べた。
「ん〜、美味い!! 最高だよコレ!!」
忖度無しに美味い。それを見た家政婦は幸せそうな顔をした。
「へへ〜ん!! やりぃ!!」
「この調子この調子!!」
僕も思わず笑みを浮かべた。
するとまたドアがノックされた。
「はーい」
軒下に居たのはエリーヌだった。
「あ、あの……フォルさん、おはようございます。ご、ご迷惑じゃありませんでしたか?」
「いや。歓迎するよ」
彼女の顔色が明るくなった。
「私、フラワーティーを持ってきまして。一緒にいかがですか?」
そう言ってエリーヌはマルシュにニコッと笑いかけた。
するとまた誰かやってきた。
「お〜い。監察官監督殿ォ。打ち合わせしよっかぁ。おっ、いい匂いすんじゃん。へぇ!! パイかぁ!!」
あっという間に女子が3人も集まってしまった。
今日は1人で依頼のゴーレムの術式構築をするつもりだったんだけどなぁ……。
この調子じゃ3人とも居座るだろうしなぁ。
邪険にするつもりはないし、むしろ訪ねて来てくれるのは嬉しいんだけど、気が休まる事がないのは考えちゃうよね。
なんとなーく、彼女らの胸元に目が行く。なんとなーく。
(貧!!普!!デッッッ!!)
そんなことをフォルが考えている時、女子たちは……。
(パイでいい感じになったのにどうしてこうなるかね!! キーキー!!……フォルはあたしんだからね!!)
(フォルさん……もう2人きりでは、会ってくれないのかな……)
(小娘共め。大人のオンナの魅力に敵うわけ無いじゃんよ!!)
待って。ティータイムが無言なのはなんでだ。




