↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
44/67

第44話 安堵の酒宴

 三日間の停戦から、さらに日が経った。


 南部の幹部もまた所領に戻り、聖都介入の是非を話し合っていた。

 かくして南部所領盟約の意思決定機関、盟約会議が開かれた。

 正式名称は格式めいているが、つまりは領主同士の話し合いである。

 通称のところの領主会議が終わった頃には、すっかり日が落ちていた。


 ディオゼの屋敷の一室にて。


 大仰な宴ではなく、気心の知れた者だけを集めた酒席が開かれていた。

 ディオゼ、ユキウス、キーグ。そして数名の側近。

 会議の場では話せなかった本音を吐き出すための席である。


 会議の主催者のディオゼが愚痴をこぼす。


「ふぅ、やっと終わったか。何度やっても領主会議を取り仕切るのは面倒だな。

 聖都を呼ぶって結論になるのは分かり切ってるのに開かないといけないもんなぁ」


 ユキウスはいつも通りに冷静に返す。


「必要な手続きです。しかし、もう一度戦えば勝てるという意見には驚きましたね」


「領主の中には、ルーシェたちが必死でやって拮抗しているって苦労を知らない奴もいるんだよな。

 あの様子を見たら、誰ももう一度なんて言えなさそうなもんだが」


「誰も我々の苦労なんてあずかり知らないのですよ。

 とはいえ、聖都仲裁が満場一致の同意というのは驚きましたね。

 領主の皆様は南部が正しいとよほど自信があるようですね」


「まぁ自信があるからこそ、交渉の詳細は俺に全権委任したんだろうな。

しかし何だよ。南部が正しくない道理があるってのか」


「私もあまり心配していませんよ。

 ただ、強いて言えば、バルドーの里の門下生たちの処遇が気になりますね。

 私たちからすると情報が入ってきませんので。

 酷い扱いを受けていれば可哀想ですが、反面、南部にとっては有利に働きます。

 逆に丁重に扱われているとなると、聖都も裁定に困るかもしれませんね」


「うーん、そうなのか。キーグ、何か情報は入ってないのか」


「さすがに俺の配下でも軍が保護している門下生の情報までは探れねえなぁ。

 ただ、バルドーの里で聞き込んでいる限りじゃあ、文通とかもしているらしい。

 どこまでの待遇かは知らんが、元気にやっているっていうのは聞こえてくる。

 案外、良い扱いを受けている可能性もありそうだな」


「何とも分かりませんね。キーグ、里の今の様子はいかがですか」


「それが案外賑わっているんだよな。帝国の村民が結構来ているらしい。

 バルドーの爺さんが新旧の住民問わずしっかり取り仕切っているそうだ。

 こうなると、帝国は南部に返したがらないだろうなぁ」


 キーグの話を聞き、ユキウスは途端に表情を難しくした。


「里への帝国民の入植ですか……。

 そうなると里が南部に返ってくるかは一気に難しくなりますかね……」


 ディオゼが顔をしかめた。


「そりゃあ、なんでだ?

 里は元々南部のものだろう」


「仮に今の里を南部に返したとして、帝国から来た村民はどうなりますか?」


「元居た村に帰ることになるんじゃないのか?」


「帝国の寒村から来た者が元の村に戻ったのなら飢え死ぬかもしれません。

 果たして聖都はそのような対処を良しとするでしょうか」


 ディオゼは驚いた顔をする。


「……聖都はそう考えるのか。

 正しい者の味方ってだけでなく、そこに暮らす者の味方でもあるのか……」


「入植した民を追いやるのは人道に反します。

 では民を残したまま南部領とするのか。

 それとも帝国領のままとするのか。

 いずれも新たな火種になることでしょう」


「里も変わったから、元の南部に戻しても万事解決にはならないってことか。

 あまり面倒なことになるとバルドーの爺さんが何を言い出すかも分からんな」


「あの御仁ですからね。南部の人間なのは間違いないのですが、どのように考えるか。

 裁定に関わる証人にはなるでしょうが、どう動くかは読めませんね」


「爺さんは南部のために証言してくれるかなぁ」


「あの御仁は南部よりも己の心意気のために動く人です。何がバルドーさんの心を動かすか次第ですね」


「……そうだったな。本当に英雄ってのは腹の底が見えないもんだな」


 キーグは頭をガシガシとかく。


「かぁー、酒がまずくなりそうな辛気くせえ話題だなぁ。

 難しいことは分かんねえし、今更俺たちはバルドーの里に手出しできねえよ。

 行き過ぎた戦いが終わりゃあ、それでいいだろう。

 もっと景気のいい、儲けそうな話をしようぜ」


 ディオゼは呆れた表情を返す。


「お前は正直だなぁ……」


「俺からすりゃあ里が寂れずに取引さえできれば、どっちの領土でも今となってはそう変わらねえぜ。

 里がどうなろうが、戦が終わって帝国が大人しくなることに変わりはねえんだろう?

 じゃあそれでいいさ。俺は元より帝国が占領を拡大するのが一番嫌だったんだからな」


 ディオゼは思い出したような顔をした。


「そういえば、この争いの言い出しっぺはキーグだったか。

 お前の気は済んだのか?」


「まぁ大体な。帝国に商売圏シマを荒らされるのは邪魔できたしな。

 それに戦争準備の取引でも儲けさせてもらったぜ。

 でも、戦争ってのはパッと始まって、スパッと終わるのが一番儲かるんだ。

 これ以上死人が増えたら、商売する相手が不足しちまう。

 客が減って街道も荒れたら、それこそ商売あがったりだ。

 ここら辺が引き際ってもんよ」


 ユキウスは上品に酒を口に運んだ。


「そうですね。キーグの儲け話はさておき、戦いが終わるのは良いことです。

 こんな大きな争いはこれっきりが何よりです」


 ディオゼも頷いた。


「それもそうだな……。ルーシェが無理をする必要もなくなる。

 南部の面子も保てた。争いが終わるに越したことはない」


 そして少しだけ酒の席は静かになり、取り留めのない会話が続いた。


「だがよぉ、アクレヴィアとの取引の自粛はそこまでやる必要あるのか?

 俺としては美味しい飯の種だったんだがなぁ」


 ユキウスはたしなめるように杯を置いた。


「聖都の裁定が終わるまでは自粛が必要です。

 アクレヴィアからは武具や鉄材も仕入れてましたからね。

 南部には戦争継続の意思あり、とみなされかねません。

 風魔法師団の協力もありました。

 彼女たちも引き上げとなりますね」


「そうなるか……。

 ルーシェは複雑かもな。

 争いが終わるのは歓迎だろうが、メリカたちとはしばしの別れになるんだからな」


「講和がまとまるまでの辛抱です。

 それが終わったなら、留学なども良いでしょう」


「それもそうだな。女子同士で賑やかだった訓練風景も見納めになるんだな」


 ディオゼは窓の外から見える庭に目をやった。

 娘のルーシェにも随分と迷惑をかけた。

 多くの南部の民の血が流れた。

 しかし、これで帝国との争いも決着する。

 亡き妻ルシアナにも顔向けができることだろう。


 酒精を嗜みながら、ディオゼは安堵の息を吐いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。