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第17話 荒くれ者の流儀

 帝都より急行し、各宿場で馬を替えながら、山道の入口へと辿り着いた。

 本格的な山道に入れば馬は使えない。襲撃も見込まれる。良いまとにされるだけだ。

 馬はここの関に預け、少数での徒歩の行軍が始まった。


 ヴァスケルの配下の報告から我が部隊がここに駆け付けるまでの時間差を考慮すれば、山岳の武装勢力は早ければ山を抜けていてもおかしくない。しかし、関や歩哨の報告では領内での不審な者との遭遇は確認されていない。

 また、山を抜けて平地での真っ向勝負となれば、帝国が優勢となる。ユキウスはそのような愚を犯させる軍師ではない。

 山岳で待ち伏せし、妨害をした上で襲撃してくるのだろう。罠が仕掛けられているのは間違いない。

 しかし、不利が待ち受けているからといって、我らがここで待機したのなら南方軍の思う壺である。

 敵軍の目論見は帝国軍の分断、自分などの有力な将を東から引き離すことにある。

 理想としては、我らが山岳軍を速攻撃破し、一刻も早く東へと加勢したいところだ。


 視界の悪い山道を列を組んで進んでいく。

 上から見下ろせば格好の的かもしれないが、各個撃破されてもいけない。

 警戒しながらの遅々とした進軍が続く。やむを得まい。


 山道の進路は分岐も少なく限られている。

 中腹に差し掛かると、進路が泥濘ぬかるみで覆われ、一面に枯れ葉が敷かれていた。

 大雨が降ったわけではない。明らかに人為的に工作されたものだ。

 迂回するか。いや、この程度ならば、自分の魔法で簡単に押し通ることができる。

 冷気を放ち、泥と葉をまとめて凍り付かせていく。

 ある程度固まったのなら、普通の地面と変わりはない。

 この辺りから小細工が本格化するのだろう。霜柱しもばしら混じりの道を踏みしめ、警戒を強めていく。


 今度は倒木が道を塞いでいた。葉が茂っており、切り倒された跡がある。これも仕掛けられたものだ。

 伐採などと手間取ってはいられない。

 樹木と地面の間を氷で覆って滑りやすくする。

 その上で数人で押し出して山道を復旧した。

 一つ一つの魔力の消耗は大したものではない。

 しかし、これが積み重なるとなれば憂鬱になる。

 どこまで温存して、どこで急ぐために敢えて魔力を使うか。

 神経の擦り減る道行きが続く。

 

「む、この道は見たことがありませんか?」

 

 兵の一人が声をあげた。しかし、山道など同じような景色が続くものだ。一目でそうとは判断が付かない。


「私はこの山道を抜けたことがあります。さきほどの看板の位置から既に次の峠に着いているはずです」


「まさか道標の向きを変えられたか?」と、ダグラスの代わりにつけた副官が気づいた。


 急ぎ道案内のあった位置に戻れば、たしかにその根元には不自然な足跡が残っている。してやられたか。

 こんな時間稼ぎの方法もあるのか。思いもよらぬ手口に、隊の士気が落ち込む。

 日が傾いてきている。夜間となれば、行軍も戦闘も難しい。

 気がく。風のざわめきすら今は鬱陶しい。


 やがて大きな吊り橋に差し掛かった。

 夕陽に照らされた谷合の向こう側に、荒くれ者たちがたむろしてガヤガヤと騒いでいる。

 その手にはいくつかの松明たいまつが見える。

 ――橋を燃やして落とす気か。


「来いよ、冷血皇子! 歓迎してやるぜ!!」


 あからさまな挑発が飛んでくる。

 乗りたくはないが、道はこの先にしかない。

 我が軍が隊伍を組んで橋を渡れば、その時が最悪の好機となる。

 橋を落とされて一網打尽にされるだろう。

 ならば、取れる手段は――。


「俺が先行する。彼奴きゃつらを無力化してから合流とする」


 フェルクだけならはやい。落とされる前に奴らを切り刻める。

 仮に落とされようが、氷魔法で足場を作ることもできる。


「……ご武運を」


 部下たちも、これが最善最速の手段であると応じた。

 すかさずに橋へと疾駆する。

 たちまちに火が点けられた。

 火の手は早い。あらかじめ油を塗っていたか。

 だが、これしきの火など、どうということはない。

 炎に包まれようが、我が冷気で強行突破する。

 足場がなくなろうが、氷で固めて跳躍し、一息に橋向こうへと――。


 宙に浮いた自分へと矢が殺到する。

 剣を振りかざし、すべてを打ち払う。

 そして着地点には、いつのまに大男が待ち構えて大剣を振りかざしている。

 純粋な魔力を爆発させ、自身の落下点をずらし、大剣の直撃を避けて着地した。


 この状況は――。

 俺は誘いこまれて、包囲されたのか。

 大男はしてやったりといった顔だ。

 そして、絶えずに矢が飛んでくる。

 いつのまに橋は燃え落ちて、元の場所でも配下たちが襲撃されていた。


「分断されたか」


「そうともよ! さすがの冷血皇子でも多勢に無勢だろう!」


 応じずに手近の輩を切り伏せてから向き直る。


「……貴様の名は?」


「俺の名はロウガだ! 冷血皇子を釣りあげられて光栄だぜ!」


「ロウガだと……。まさかバルドーの……」


「お、知ってるのか! そうともさ! バルドーが手に余して放逐した一番の悪弟子あくでしとは俺のことよ!

 だが、あの爺のためじゃねえ。俺はてめえら帝国軍をぶっ飛ばしに来ただけだ。

 けどよお、あの爺が倒せなかったてめえを倒せたなら、さぞ気持ちいいだろうなあ!!」


 凶悪に笑いながら、大剣で斬撃を見舞ってくる。

 まともに受けられないと距離を取れば、そこに矢が殺到する。

 息つく間もない。

 立て直して合流を計るのは不可能だ。


 しかし、ロウガか。元のフェルクならば知るよしもないが、自分はこいつを知っている。

 『ノルスヴェイン・サーガ』の原作における中盤以降に任意加入する味方キャラである。

 寄り道のマップにてグレンにより撃破し、リセアで癒す条件を経れば仲間となる。

 しかし、既に原作の歯車は狂っている。早くもここに参戦している。

 これもバルドーを殺さずに捕らえたせいなのか。

 それがかえって、この男の帝国への興味を煽ったというのか――。


「ハッハッハ! 曲芸じみた動きでかわしやがる!!

 だがよ、いつまで持つかな!

 それにやり過ごしてるだけじゃあ、俺の勝ちだぜ!

 こうして遊んでいるうちに東では翠風すいふうが吹き荒れているぜ!!」


 そうだ。こんな奴らに時間を取られている場合ではない。

 だが、魔力を開放するにも、練る時間さえ作り出せない。

 こいつらの後続の数も不明のままだ。

 迂闊うかつに魔力を消耗すれば、下山と東への転進にも響く。


 だが――。


 こいつらの動きのリズムに体が慣れてきた。

 慣れたのならば、呼吸を整えられる。

 少しなら魔力を練り上げられる。

 動きが単純なのだ。

 こうしてロウガの攻撃をやり過ごした瞬間に魔力を練り上げて氷の刃を形成。

 すかさず飛んでくる矢を回避すると同時、お返しの氷刃を見舞う。


 ――木々の奥から悲鳴。

 たかだか力自慢の集まりに過ぎない。

 先読みは容易だ。これなら崩せる。


「所詮は烏合の衆。戦鬼は討ち取れぬ」


 すかさず反撃を繰り出す。

 だが、ロウガの反応が早い。

 レイピアは肩をかすめただけだった。


「確かにマジモンの化け物だなあ!

 だがよ、息が上がってるぜ!

 ジジイをくだしたときは涼しい顔をしてただろうによお!」


 そうだ。俺は間違いなく今、バルドーのときよりも苦戦している。

 山道での行軍を含め、じわじわと消耗を強いられた。

 これがユキウスの授けた策略と、ロウガの悪知恵の合わせ技。

 真っ当な決闘では生じない悪条件の積み重ね。

 それらが確実に疲労を蓄積させていた。


「疲れて動きが鈍れば、鬼もただの肉の塊だぁ!

 俺が輪切りにしてやらあ!!」


 対してロウガは万全の状態であった。

 我が部隊がここに来ることを見越し、用意も体力も整えていた。

 大剣の勢いは凄まじい。

 反撃の隙はあまりに小さい。


 思わぬ苦戦を強いられている。

 だが、いくら不利に追い込まれても負けるわけにはいかない。

 

 夕陽は既に半分が隠れている。

 夜が訪れる前に、この男を斬り伏せる――。

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