表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の道  作者: 月上まもる
17/31

第十六章

 土砂降りの夕方、セラフィスの廊下を、佑也は歩いていた。

 完治したはずの足が、雨のせいか、何故か痛い。

 佑也は、足を止めて、ここはどこだろう、と辺りを見回した。

 リハビリが終わって、着替え、考え事をしながら、歩いていたら、いつの間にか、普段、足を踏み入れないエリアに来てしまったらしい。いや、セルフィスの秘密を探ってやろう、という気持ちがあるから、無意識に、普段行かない場所に足を運んだのだろう。

 ふと、佑也の耳に、ピアノの音色が、微かに、聞こえてきた。

 音色の方に、足を進めると、ショパンの夜想曲だと分かる。まるで、完璧な演奏が、雨音に溶け込むように響いてくる。音色に引き寄せられて来た部屋のプレートには、音楽室と書かれていた。

 佑也は、ちょっと迷ったが、俺はここの患者だ、と呟くと、音楽室のドアを開けた。

 音楽室の右手奥には、グランドピアノがあって、そこには、白いワンピースを着た少女の姿があった。首元と袖にレースが施されていて、古めかしいが、とても上品な装いだ。

 七海澪だ。青蝶堂に現れた少女だ、間違いない。

 澪は演奏を止めることなく、静かに口を開いた。

「この曲を七十年間、毎日弾き続けてきたの」

 その言葉の意味を佑也が理解する前に、ピアノから赤白い炎が立ち昇った。幻想的な光が室内を照らし、不思議なことに、佑也の足の痛みが完全に消えていた。

 澪は弾き終えると、真っ直ぐに佑也を見つめた。

「あなたなら、フラム先生の実験を完成させられる。あなたの純粋な魂は、七十年前の私と同じ輝きを持っているから」

 窓を打つ雨音が一層激しさを増す中、澪は続けた。

「武と理子も、私と同じ道を進む。そして、あなたも」

 今日の七海澪の声は優しい。それが何故か佑也を苛立たせる。

「武と理子が? どういう意味だ?」

「ええ。彼らも私のように完璧になれる」

 澪の顔に不気味な笑みが浮かぶ。その表情は、少女の優美さと相反する何か冷たいものを感じさせた。佑也が尚も問いただそうとした瞬間、廊下の照明が不規則に点滅し始めた。その光の明滅の中で、澪の姿が霧のように薄れていき、やがて完全に消失した。

 音楽室に残されたのは、雨音と、かすかに残る赤白い炎の余韻だけだった。佑也は、自分の足の痛みが消えたことが、何故だか、疎ましかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ