27 妙案2
「こ、こ、婚約というのは、ニコラスと結婚の約束をするという認識で間違いないのでしょうか?」
しどろもどろになりながら問いかけるイーリスを、レガード、ラーク、アドマンドがぽかんと見上げている。
「なんだイーリス嬢。婚約も知らんのか?」
「レガード殿下、そうではなくてですね!」
バタバタと手振りを交えて話すイーリスを、レガードはまるで面白いものを見ているかのように笑った。
ニコラスと婚約。ということは、ニコラスと結婚するということで、ニコラスはサハンカ王国の王子だから……
イーリスの頭の中をかき乱すように、ぐるぐると思考が巡る。急に恥ずかしくなり、イーリスは両手で顔を覆って席に座った。
「レガード殿下。婚約とは、話が飛躍しすぎではありませんか?」
イーリスと対照的に、ニコラスは落ち着いて口を開いた。その横顔があまりにいつも通りすぎて、イーリスはさらにたまらない気持ちになる。
婚約と聞いて、ニコラスはなんとも思わないのだろうか。
「別に飛躍などしておらんさ。それに、この方法が最善だと思っている」
レガードがちらりとニコラスを見やる。
「まぁ、お前がどうしても婚約したくないと言うなら、別の案を考えねばならんがな」
「そ、そのようなことは……!」
「であればよいではないか」
ハッハッハと、レガードが白い歯を見せ笑う。挑発に乗ってしまったのを悔むように、ニコラスは視線を落とした。
内心、イーリスはほっとした。あからさまに拒否されていたら、きっと泣いてしまったと思う。
「近いうちに、サハンカ王国を含む諸外国を招いて晩餐会を開く。そこでイーリス嬢とニコラスの婚約を宣言するのだ」
「簡単にいくのでしょうか……」
顔を曇らせて言うアドマンドに、レガードは「最後まで聞け」と、長卓を叩いた。
「晩餐会には、サハンカ王国にだけニコラスを同席させると伝えておく。奴らは喜んで参加するだろうよ」
「その晩餐会で、サハンカ王国側はニコラス殿下が拉致されていたと公表するのではないのか?」
ラークが長い顎ひげをなでながら言う。
「恐らくそうなるでしょう。ですが、その前に婚約を宣言します。ニコラスがイリステラ公爵家に婿入りすれば、その瞬間からプラネーカ王国の人間になるのです。本当に拉致された王子なら、敵国の公爵家に婿入りなどするはずがないでしょう」
それはそうだ。拉致されたことが事実なら、ニコラスがサハンカ王国に救いを求めなければ辻褄が合わない。
「あとはニコラスが追放された事実を訴えれば、プラネーカ王国は守られるのですね」
「その通りだイーリス嬢」
イーリスの眼差しを受け、レガードはパチンと指を鳴らした。
「わかりました。その計画、謹んで協力させていただきます」
ニコラスが深々と頭を下げる。彼の穏やかな瞳を、跳ねた猫っ毛が薄っすらと隠していた。
レガードが勇ましく口を開く。
「もちろん成功が約束されているわけではないが、切り札は用意しておく。貴族たちには、サハンカ王国の動向にすぐ対応できるよう、国境の警備を厳重にするよう伝えておくとしよう。アドマンドは戻り次第、レムズブルークの治安維持に努めよ」
「承知しました」
アドマンドは椅子から立ち上がって胸に手を添える。メロネに留守を任せているので、気が気でないのかもしれない。
「レガード殿下、わたしにもできることはありますか?」
イーリスはぐいと拳を握りしめる。国の一大事なのだ。イーリスだって役に立ちたい。
レガードは考えるように顎を指で挟み、口角を上げた。
「婚約を発表した二人はダンスを披露するのが習わしだ。しっかり練習しておいてくれ」
予想外の発言に、イーリスの頬が引きつる。
イーリスの加護は、触れてきた相手を傷つけるというもの。
だからダンスなんて、一度もしたことがなかった。




