25 国の道具
「陛下、まだ話があるというのは一体……」
応接室に入るや否や、アドマンドがびくびくと肩をすくめる。
等間隔に銀の燭台が並んだ長卓の奥。ラークとレガードは、赤と白の華やかな椅子に腰かけ、イーリス、アドマンド、ニコラスの三人を待っていた。
謁見の間で話がついたと思えたのだが、今度はレガードたっての招待だ。今になって諸々の責任の追及というわけではないだろうが…… このままでは、アドマンドの寿命が縮んでしまう。
「そう怯えるな。さぁ、掛けたまえ」
ラークは穏やかな笑みを浮かべる。口角と一緒に、蓄えられた白髭が持ち上がった。
玉座に座っていた威厳のある姿と比べ、今は優しいおじいさんといった印象だ。
奥からアドマンド、イーリス、ニコラスの順に椅子に座る。直上にある大きなシャンデリアが、イーリスの視界の端で光っている。
「では、レガード」
「かしこまりました、父上」
話を振られ、レガードが大げさに咳払いをした。
「どうだった、俺の演技は?」
舞台俳優さながらに、レガードは軽く上を向いて額に手を添える。
「演技……?」
アドマンドが目を丸くする。どうやらレガードとラークの芝居に気づいていなかったようだ。
「いい反応だアドマンド。さすが俺の見込んだ男だ」
アドマンドが「はぁ?」と首を傾げるのを見て、レガードは嬉しそうに笑った。
「レムズブルークの大橋の崩落。お前の怠慢でないことは俺も父上も重々承知だ」
だがな、とレガードは腕を組んで椅子に深く座り直す。
「今は至る所でサハンカ王国の影がある。お前がサハンカ王国と通じているという疑念を、あの貴族どもは抱き始めていたのだ」
「そうでしたか……」
アドマンドが申し訳なさそうに目を伏せた。
「だから、この機会にお前が無実であると大々的に証明する必要があった。仲間を信じられなくては戦争などできんからな」
「これ、レガード。まだ戦争が始まると決まったわけではない」
ラークが釘を刺すように言うと、レガードは「失礼しました」と頭を下げた。
他の貴族たちの反応も踏まえると、サハンカ王国との戦争はもう時間の問題のようにみえる。
士気を落とさないため、アドマンドの無実を大々的に証明したとのことだが、それなら……
「レガード殿下」
「どうしたイーリス嬢」
「なぜ、ニコラスがサハンカ王国の王子であることを謁見の間で話されたのですか? お父さまがサハンカ王国と通じているという疑惑を、より植え付けることになってしまうのでは?」
的を射た質問だったのか、レガードは「それなのだが……」と難しそうな顔をした。
レガードがラークに目配せをする。ラークは渋々といった様子でうなずいた。
「つい先日、サハンカ王国から書状が届いてな。宣戦布告文でも送ってきたのかと思ったんだが、そこにはこう書いてあった」
レガードはぼさぼさと自身の頭をかく。
「ニコラス・バーナンド。貴国が拉致したサハンカ王国第一王子を返せってな!」
ドンと、レガードが拳をテーブルに打ちつけた。
イーリスは目を丸くし、両手で口元を押さえる。
ニコラスを拉致した? ニコラスに加護が宿らなかったからと、死亡扱いにして国を追放したのではなかったのか。
「この事実を諸外国に知られたくなければ、ニコラスを返すか、賠償金を支払うかのどちらか選べときた。どのみち、貴族たちにニコラスの存在はバレる。だから先にこちらから話した」
苛立ちを隠せないようで、テーブルを打ったレガードの拳は震えている。ラークも同じ様子で歯を食いしばっていた。
ただ唖然とした。あまりにニコラスへの扱いがひどすぎる。ニコラスは国の道具じゃない。
イーリスはニコラスの顔を覗き込む。彼が心配だった。もしイーリスが同じ立場だったら正気を保てるとは到底思えない。
「ニコラス――」
イーリスは彼の横顔に息を呑んだ。
柔和な印象を振りまくその瞳が、激しい怒りに染め上げられていた。




