エピローグ
ここまで述べてきたことが、私が体験してきた、出版に至るまでの過程の全てだ。
思えば、執筆のオファーを受けて以来、常に追い立てられる毎日で、息をつく暇もなかった。今、ようやく修羅場から脱稿に到り、逆に余りすぎた時間を持て余している、というのが本音のところ。
さて私は、一番初めに、『書籍化は、試練だ』、と書いた。
実際そうであったし、その言葉を改める気もない。ここまで読んでいただけた方なら、その気持ちも、少なからず共感していただけると思う。
――ただ、最後に、その言葉にもうひと言だけ付け加えるとしたら。
『書籍化は、試練だ。しかし、この上なく楽しい試練である』
と、いうことになる。
『賞に入賞する』、あるいは『拾い上げられる』ということは、紛れもない幸運だ。
もちろん実力のあるなしも関係はするのかもしれないが、実際のところは、私より実力のある作家さんなど、まさに星の数ほどいる。
まして私は、序盤で書いていたが、自分の中では「既に筆を折った」人間だった。
だから、『低ポイント作品が拾い上げられる』事のからくりは、『運』以外の何ものでもないかもしれない。
だが、たとえそれが『運』によるものであっても、そもそも『作品』を生み出していなければ、そこからは何も生まれなかったのは事実だろう。
そして、そんな幸運に恵まれた私には、今。
『私』という泥細工の人形に命を吹き込んでくれる人がいて、動け動けと叱咤してくれる人がいて、その滑稽とも言えるダンスを見ることを、心待ちにしてくれる人までいる。
本来は一話目で完結だったこの話の続きを読みたいと言ってくれた読者さんがいた。
極めてキツイ苦言で、根本的な矛盾を指摘してくれた読者さんがいた。
誤字脱字、添削まで請け負ってくれた作家仲間がいた。
拙い表現を、うまい表現に置き換えて、手本を見せてくれた読者さんがいた。
作中の登場人物に素敵な名前を提供してくれた作家仲間がいた。
そして、この作品を、心から愛してくれる、大切な、大切な読者さんたちがいた。
『あなたの未練、お聴きします。』
この作品はそんな、運と偶然と、そして、数え切れない程多くの人達の愛情を受けて、育ち、芽を出した。とても幸せな作品である。
――物語を書く事は、楽しく、辛い。
おそらく、「書籍化」という一つの目標に至る道は、荒れた土地や雑草を踏みしめて、『道に至る道』を作った――あるいは過去に作ろうとした、その人にだけ、開かれるものなのだと、そう思う。
一度は筆を折った私にも、その道は開かれた。
だから今、書籍化を目指されている方は、今は芽が出なくても、決して絶望しないで欲しい。
『幸運の女神』が気まぐれを起こせば、頑張っている人にはきっと、道は開けるものだから。
限りなく最底辺に近い作家の書籍化の軌跡も、ようやくラストを迎える。
祭りが、どんな盛り上がりを見せるか、あるいはたいして盛り上がらない閑散たるものになるか。それはわからない。
でも、その祭りに至るまで、完全燃焼で燃え切った、その時間を誇りに思いたい。
世の中は、結果が全てかも知れない。
しかし「結果が全て」という虚無観に対するアンチテーゼを、私は唱え続けていきたいと思う。
それが、夢想に過ぎなくても。
無駄なアツさに過ぎなくたって。
だってそれが、私が今回の前夜祭で学んできた、『私』という作家を形作る何ものでもないのだから。
以上で、出版前の前夜祭は終わり!
慌ただしい準備期間が終わり、耳をすませば、祭囃子が聴こえてくる。
そして、ここから――。
<了>