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第四話 これからもよろしく

 ストーカー相手から写真の許可が降りた。

 その事実に驚いていると、成瀬がまた話し出す。


「ああ、そうだ。ちなみに小鳥遊」


「何」


「この写真を、どこかに公開したことはあるか?」


「ない」


「一枚も?」


「ない。自分で見るために撮ってただけだから」


「そうか!」


 成瀬は、ぱっと表情を明るくした。


「なら問題ないな!」


「…………」


 あっさり。

 本当に、あっさり。


 両手に持った写真を見る。

 数十枚の成瀬。


 次に、目の前にいる本人を見る。

 にこやかに笑っている。


 どうやら、本気らしい。


(こいつ、マジか)


 なんとも言えない気持ちで成瀬を見ていたが、ふとあることに気づいた。


「……そういえば、成瀬。オレの名前、知ってたんだな」


「名前?」


「さっきから小鳥遊って呼んでるだろ」


 成瀬は数秒考え込み、何かを思い出したように目を見開いた。


「ああ! そうだった! 危うく忘れるところだった。俺はこれを渡すために、お前を追いかけてきたんだ!」


「これ?」


 成瀬が鞄から取り出したものを見て、目を見開く。


「……オレのパスケース」


「ああ! 教室に落ちていたぞ」


 反射的にポケットへ手をやるが、当然そこには何もない。

 どうやら落としたことにすら気づいていなかったらしい。


「持ち主を確認しようと思って生徒証を見たんだ。それでお前の名前を知った!」


「……そういうことか」


「定期券も入っていただろう? 帰るときにないと困ると思って、追いかけてきたんだ」


「……わざわざ?」


「もちろんだ! 同じクラスの人間が困ると分かっていて、そのままにはできないだろう?」


 さも当然のことのように答える成瀬から、オレはパスケースを受け取った。


「……ありがとう」


「どういたしまして!」


 にこやかに笑う成瀬を見てから、手元へ視線を落とす。

 そして、固まった。


「……成瀬。これ、どこまで見た?」


「どこまで?」


「生徒証だけ?」


「いや? 反対側も見たぞ」


 終わった。

 本日二度目である。


「俺の写真が入っていたな! 最初は驚いたぞ。持ち主を確認しようと思ったら、反対側に見覚えのある素晴らしい横顔があるんだからな!」


「…………」


「一体誰だと思ってよく見たら、俺だった!」


「……そう、だな」


 なんだその感想。


「それでミツカに聞いたんだ。こういうところに、自分以外の写真を入れることがあるのかとな」


「…………」


「そうしたら、自分も推しの写真を入れていると教えてくれた!」


 そこで成瀬は、すべての謎が解けたとでも言いたげに大きく頷いた。


「だから分かったんだ!」


「……何が分かったんだよ」


「お前が俺の写真を入れていた理由だ!」


「理由?」


「最近、よく俺を見ていただろう?」


「……気づいてたのか」


「もちろんだ! モデルをしていると、視線には敏感になるからな」


 それもバレていたらしい。

 成瀬はオレの手にあるパスケースを指差し、続いて先ほど拾い集めた数十枚の写真へ目を向けた。


「生徒手帳には俺の写真。俺を見る視線。そして、この大量の写真!」


「…………」


「ここまで揃えば、答えは一つしかない!」


 自信満々に胸を張り、成瀬は笑う。


「小鳥遊! お前、俺のファンなんだろう!」


 ファン。


 成瀬が載っている雑誌は買った。

 写真も集めた。

 本人まで見に行った。

 挙げ句の果てには、後をつけ回して盗撮までした。


 客観的に考えれば、そう呼んでも間違いではないのかもしれない。


「……顔は好きだ」


「そうか!」


 即答だった。

 あまりにもあっさり受け入れられ、オレの方が拍子抜けする。


「……いや。顔だけだぞ」


「ああ。ちゃんと聞いていたぞ?」


「嫌じゃないのか? 顔だけ好きって言われるの」


「なぜ?」


 成瀬は本気で意味が分からないらしく、首を傾げた。


「小鳥遊。俺たちは今日までまともに話したことがなかっただろう?」


「……まあ」


「なら、俺の中身を知らないのは当然じゃないか」


「…………」


「知らないものを好きになれと言われても無理な話だ。だったら、最初の判断基準が外見になるのも当然だろう?」


「……そう、なのか?」


「ああ! それに──」


 成瀬は自分の顎に指先を添え、ふっと笑った。


「俺の顔を好きになったのは、実にいい判断だと思うぞ!」


 自信に満ち溢れている。

 ここまで堂々と言われると、否定する気にもならなかった。

 というより、顔が好きなのは事実だからだ。


「……まあ、それはそう」


「そうだろう!」


 成瀬は嬉しそうに笑う。


「それに、俺たちは今年から同じクラスになったんだ。これから話したり、一緒に何かをしたりする機会も増えるだろう?」


「……まあ」


「そうすれば、お前も俺の顔以外の魅力に気づくはずだ!」


 なぜ断言できる。

 そう思ったが、成瀬は実に楽しそうだった。


「いやあ、楽しみだな!」


「何が」


「決まっているだろう?」


 成瀬はにこりと笑う。


「これから一つずつ、小鳥遊の中に俺の好きなところが増えていくんだ!」


 なんだ、その絶対の自信は。

 普通なら呆れるところなのだろう。


 だが。


「……まあ、増えるかもしれないな」


「ふふ、そうだろう!」


 少なくとも、顔以外にも一つ、気になるところはできた。


(変な奴だ)


 それが魅力なのかは、まだ分からないが。


「さて!」


 成瀬は満足したように頷くと、オレの方へ向き直った。


「用事も済んだことだし、俺はそろそろ帰るとしよう!」


「……ああ」


「小鳥遊!」


「何」


「じゃあ、また明日からよろしくな!」


「……よろしく?」


「せっかく同じクラスになったんだ。これからは遠くから見ているだけじゃなく、普通に話せばいいだろう?」


 あれだけのことがあった直後に、普通に話しかけていいらしい。


「それに、写真を撮りたいときも声をかけてくれればいい!」


「……いいのか?」


「もちろんだ! 俺の魅力を写真に残したいという気持ちはよく分かるからな!」


 相変わらず、とんでもない自信だった。


「では、また明日!」


 そう言って、成瀬は軽やかな足取りで去っていった。

 その背中が人混みの向こうへ消えていくまで、オレはその場に立ち尽くしていた。


「…………」


 手元には、返してもらったパスケース。

 そして、数十枚の成瀬の写真。


 盗撮がバレた。

 注意された。


 なのに。

 なぜか、明日から本人と話すことになった。

 おまけに、許可を取れば写真まで撮っていいらしい。


 成瀬が消えていった方を見る。


(本当に、変な奴だ)


 ただ。

 明日学校へ行くのが、ほんの少しだけ楽しみになった。


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