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第十八話 デコ③

「これでみんな決まったことだし、始めるよ〜」


 ようやく全員の写真が決まったところで、小林は四人分の硬質ケースを配った。


「じゃあまず、ナル君と小鳥遊君は写真をケースに入る大きさにしま〜す!」


「私と光果のは、公式トレカで元々ケースに収まるサイズだしね」


「そうそうこんな感じ〜!」


 小林と巡が自分の写真をケースへ差し込む。


 一方、オレと成瀬が持ってきたのは、どちらもL判の写真だ。

 そのままでは当然入らない。


「じゃあ二人は〜。はい! カッターと定規!」


「用意いいな」


「ふふ〜ん。先生ですから〜」


「いつから先生になったんだよ」


「さっきから!」


 小林からカッターと定規を受け取る。

 オレはまず硬質ケースを写真の上へ重ねた。


「…………」


 ただ大きさを合わせて切ればいいというものでもない。


 昨日、小林が見せていたケースは、写真の周囲をパーツで飾るように作られていた。

 ならば、どこを切り取るかで完成したときの見え方も変わる。

 下手な位置で切れば、あとから飾りをつけたときに成瀬の顔へ被るかもしれない。


(……それは嫌だな)


 写真を少しずつ動かしながら、顔はもちろん、髪や肩の位置も確認し、ケースに収める位置を決めていく。


「…………よし」


 位置が決まると、定規を当て、カッターで余分な部分を切り落としていく。


「おお〜」


 向かいから小林が覗き込んできた。


「小鳥遊君、なんか慣れてる〜」


「写真切ってるだけだろ」


「でもちゃんとバランス見てるじゃん」


「そりゃ見るだろ」


 オレは切り終えた写真をケースへ差し込んだ。

 成瀬の周囲には適度に余白があり、これなら多少何かを貼っても邪魔にはならない。


「……うん」


 悪くない。


「小鳥遊!」


「ん?」


「俺のも頼む!」


 隣から、当然のように写真を差し出された。


「……なんでだよ」


「昔から細かい作業はあまり得意ではなくてな! 俺は不器用なんだ!」


「…………」


 オレは成瀬を見る。

 普段からあれだけ自信満々に自分を褒め称えている男にも、苦手なものはあるらしい。


「……できないことがあっても堂々としてるんだな」


「当然だ! 人は誰しも得手不得手がある」


 成瀬は胸を張った。


「それに、完璧すぎないところが親しみやすいだろう?」


「自分で言うのか?」


「自分のことだから言うんだ!」


「…………そうか」


 相変わらず自己評価に一切の揺らぎがない。


「それに、俺が切って失敗したら、この俺の写真が一枚駄目になってしまう!」


「十枚持ってきただろ」


「どれも大切な俺だぞ! お前も俺が間違って顔の部分まで切ってしまったら、嫌な気持ちになるんじゃないか?」


(それは嫌だな)


 オレはさっと差し出された写真を受け取った。


「頼んだぞ、小鳥遊!」


「……どの部分を入れたい?」


 成瀬がオレの隣から写真を覗き込む。


「ふむ。俺の顔は当然すべて入れる!」


「それは分かってる」


「髪も切れてはいけないな! この風になびく前髪も俺の魅力の一部だからな!」


 成瀬の顔や髪が切れないようにしつつ、全体のバランスを見る。周囲を飾ることまで考えれば、少し余白も残しておいた方がいい。


「じゃあ、この辺か」


「おお、いいな! それで頼む!」


「分かった」


 オレは定規を当て、刃を滑らせ、余分な部分を切り落とす。

 四辺を整えてから、硬質ケースへ差し込んだ。


「ほら」


 成瀬がケースを受け取り、目の前へ掲げる。


「おお! いいではないか!」


「だろ」


「これなら、どれだけ豪華に飾っても俺の顔を邪魔しないな!」


「いや、限度はあるだろ」


「よ〜し!」


 小林が待ってましたとばかりに身を乗り出した。


「それでは皆さん! ここからが本番で〜す!」


 机いっぱいに並べられたパーツを、両手で示す。


「好きなものを好きなだけ使って、推しを最高に飾ってくださ〜い!」


「おおーー!」


「盛りすぎるなよ、成瀬」


「任せろ!」


「その返事が一番信用できないんだが」


 案の定、成瀬の手は真っ先に、机の上でもひときわ大きく輝いているパーツへと伸びていた。


「ナル君、それ使う〜?」


「ああ!」


「じゃあこっちのキラキラも合いそう!」


「いいな!」


「あとバラあるよ、バラ!」


「俺にぴったりではないか!」


「これも盛っちゃお〜!」


「待て」


 オレは思わず口を挟んだ。

 二人の前には、すでに大量のパーツが集まり始めている。


「それ、全部つける気か?」


「ああ!」


「もっちろーん!」


「…………写真、見えなくならないか?」


「何を言う、小鳥遊」


 成瀬が真剣な顔でこちらを見る。


「これくらいの装飾で、俺が埋もれると思うのか?」


「物量でな」


 そんな心配をよそに、成瀬はさっそく飾りつけを始めた。

 大きな薔薇のパーツを置き、その横へラインストーンを並べていく。

 一つが微妙にずれると、そこを隠すように星を置く。

 すると今度は別の隙間が気になったのか、さらに別のパーツを足していく。

 そうして成瀬のケースは、みるみるうちに華やか……というより、派手さを増していった。


(……まあいいや。とりあえず自分のを進めよう)


 改めて机の上に並んだパーツへ目を向ける。

 その中からオレが手に取ったのは、小さな白いパールだった。


「小鳥遊君、それにするの〜?」


「ああ」


「もっと色々使っていいんだよ?」


「いらない。これだけでいい」


 写真の周りを飾るなら、これくらいで十分だ。

 目立ちすぎないし、成瀬の顔を邪魔することもない。


 ケースの縁に沿って、道具にあったピンセットを使いながら一粒ずつ並べていく。


「…………」


 少し離して見てみる。


 白いパールが写真を囲んでいるだけの、ごくシンプルなデザイン。

 それでも、何もないケースよりは少しだけ華やかに見えた。


(……これならいいか)


「へえ、いいじゃん」


 横から声がして顔を向けると、一ノ瀬がオレのケースを覗いていた。


「そうか?」


「うん。シンプルだけど、写真に合ってる」


「ならよかった」


 一ノ瀬の手元を見る。

 こちらも小林や成瀬に比べれば、ずいぶん落ち着いていた。


「お前のもあんまり飾らないんだな」


「私はこういう方が好きだから。本人が落ち着いた雰囲気だし」


「分かる」


「でしょ」


 どうやら、デコレーションに関しては一ノ瀬と好みが近いらしい。


「二人とも地味じゃな〜い?」


「「うるさい」」


「息ぴったりじゃ〜ん!」


 小林はけらけらと笑いながら、自分の作業へ戻っていった。


 それからしばらく、四人はそれぞれケースの飾りつけを進めていった。


 そして──。


「できた〜!」


 小林の声を合図に、それぞれのケースが机の中央へ並べられる。


「おお〜! こうして並べると全然違うな!」


 成瀬が楽しそうに四つを見比べる。


 小林のものは、推しのメンバーカラーらしい濃いピンクを中心に、ハートやリボンを使った可愛らしいデザイン。


 一ノ瀬のものは対照的に、色とパーツの種類を絞った落ち着いた仕上がりだった。


 オレのものは、白いパールで写真の周囲を囲っただけ。四つの中では一番シンプルで、その分、中央で笑う成瀬がよく目立つ。


 そして成瀬のものは──とにかく派手だった。

 薔薇や星、ラインストーンに宝石のようなパーツまで、写真を囲むように所狭しと飾られている。色も形も様々で、四つの中では圧倒的に情報量が多い。


「どうだ!」


 成瀬が満足げに胸を張った。


「これぞ、俺の魅力を最大限に引き立てるに相応しい仕上がりだ!」


「……ゴチャゴチャしてるな」


「最初より増えてない?」


 一ノ瀬がケースを覗き込む。


「途中でずれたところを直していたらこうなった!」


「直した?」


「他のパーツで隙間を埋めた!」


「それは直したって言わないでしょ」


「だが見ろ! 結果としてこれだけ華やかになった!」


「結果オーライだね〜!」


「だろう!」


「ミツカ、肯定するな」


 しかし、改めて見てみる。

 これだけ周囲が派手なら、普通は写真より装飾の方へ目が行きそうなものだ。

 それなのに。


「……意外と負けてないな」


「何がだ?」


「お前の顔」


「当然だ!」


 即答だった。


「この俺が、薔薇や宝石に負けるはずがないだろう!」


「ナル君だからギリ成立してるの、なんか腹立つ」


 一ノ瀬がぼそりと呟く。


「褒め言葉として受け取っておこう!」


「褒めてない」


「でもでも〜、みんな初めてにしてはいい感じじゃない?」


 小林は満足そうに四つのケースを眺めた。


「同じケースなのに、ちゃんとその人っぽくなるの面白いでしょ〜?」


「まあ、それは分かる」


 オレも並んだケースを見下ろす。

 正直、昨日までは写真を飾る意味などよく分からなかった。

 だが、こうして並べてみれば同じ透明なケースだったものが、作った人間によってまるで違うものになっている。


(……確かに、これはちょっと面白いかもな)


「よし! 小鳥遊!」


「ん?」


「これはお前にやろう!」


「……は? なんで」


 差し出されたのは、先ほど完成したばかりの成瀬のケースだった。


「この間、写真をたくさんもらったからな! そのお礼だ!」


「そういうつもりで渡したわけじゃないから、別に礼はいらないけど」


「俺がしたいんだ!」


 成瀬はそう言って、さらにケースを差し出してくる。


「それに、せっかく作ったのだから誰かに使ってもらった方がいいだろう!」


「自分で使わないのか?」


「自分の写真を自分で持ち歩くのも悪くないが、せっかくなら俺を好きなお前に持っていてもらいたい!……この写真も、気に入っていたんだろ?」


「…………」


 それを言われると、断る理由が少し減る。


 オレは改めてケースを見るが、やはりゴチャゴチャしている。

 自分なら絶対にこんな飾り方はしない。


 だが、中に入っている写真は自分が撮った成瀬だ。

 その写真を囲んでいるのも、成瀬自身が選んでつけたものだった。


「……じゃあ、もらう」


「ああ! 大切にしてくれ!」


「自分の写真渡して、その言い方する?」


 一ノ瀬が呆れたように言う。


「当然だ! 俺から小鳥遊への贈り物だからな!」


「ナル君らしいね〜」


 小林が楽しそうに笑う。


「じゃあさ〜」


 そのままオレの手元へ目を向けた。


「小鳥遊君が作った方はどうするの?」


「これ?」


「せっかくなら交換したら〜?」


「おお!」


 成瀬が即座に食いついた。


「それはいいな! 小鳥遊、俺にくれ!」


「今の、お礼じゃなかったのか?」


「お礼だぞ! それとは別に、俺もお前が作ったものが欲しい!」


「…………」


「駄目か?」


 成瀬がオレの作ったケースへ目を落とす。


「俺の写真を、お前が俺に似合うように飾ってくれたんだろう?」


「……まあ」


 オレはケースへ目を落とした。

 そこには、カメラへ向かって満面の笑みを浮かべる成瀬がいる。

 自分で撮って、選んで、飾ったものだ。


「なら、欲しい!」


「…………じゃあ、やる」


「ありがとう!」


 成瀬は嬉しそうに受け取ると、さっそくケースを目の高さまで持ち上げた。


「うむ! やはりいいな!」


「自分の写真見て言ってるのか、それ」


「写真もいいし、お前の飾りつけもいいぞ!」


「……そう」


「なんだかんだ交換になったね〜」


 小林がにやにやしながら二人を見る。


「交換するつもりはなかったけどな」


「結果的には交換じゃ〜ん」


「そうだな!」


 成瀬は気に入ったのか、受け取ったケースを何度も眺めている。


「これ、生徒手帳に入れておこう!」


「入るのか?」


「試してみる!」


「ナル君、それなら毎日持ち歩けるね〜」


「ああ! 小鳥遊が作ってくれたものだからな。大切にしよう!」


「…………」


 何の気なしに言われた言葉に、オレは一瞬黙った。


 自分の手元にも、成瀬が作ったものがある。

 改めて見ても、やっぱり派手だが。


(……帰ったら、机にでも置いとくか)


 目に入るところには置いておきたいと思った。


「はい! というわけで〜!」


 小林がぱん、と手を叩いた。


「第一回、トレカケースデコ体験! 大成功〜!」


「おお〜! 良かったぞ〜!」


 ぱちぱちぱちぱち、と成瀬が盛大に拍手する。


「「…………」」


 オレと一ノ瀬は顔を見合わせた。


「またやるの?」


「第一回って言ったな」


「もちろん! 次はもっと色々持ってくるからね〜!」


「まだ増えるのかよ」


 オレと一ノ瀬は揃ってため息をつきながら、始まりよりは強く拍手をした。

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