第十七話 デコ②
「ではこれより、トレカケースデコ体験を始めたいと思いまーす!」
小林が高らかに宣言した。
「はいみんな、拍手〜!」
「おお〜!」
ぱちぱちぱちぱち、と成瀬が盛大に拍手を送る。
「「…………」」
オレは一ノ瀬と顔を見合わせてから、ぱち……ぱち……、とやや力の抜けたような拍手をし、とりあえず付き合った。
「はい、ありがと〜!」
「この拍手いるか?」
「いるよ〜。始まった感出るじゃん」
「そういうもんか?」
「そういうものだ!」
「なんで成瀬が答えるんだよ」
場所は、先日写真の確認をしたのと同じ空き教室。
机をいくつか寄せて作った即席の作業台には、小林が持ってきたらしい道具が所狭しと並べられていた。
透明な硬質カードケース。
色とりどりのラインストーン。
ハートや星のシール。
小さなリボンに、花や蝶を模したパーツ。
アルファベットのシールまである。
可愛らしいものから落ち着いたものまで、種類も色も様々だった。
「…………」
オレはしばらくそれらを眺めた。
「なあ」
「ん〜?」
「なんでこんなに持ってきてんだ」
「え?」
小林がきょとんとする。
「いるでしょ?」
「学校に?」
「これでも少ないんだよ〜。家にはもっとあるからね!」
「…………これで少ないのか」
「そーそー! ホイップデコとか、毛糸で編むような仕方もあるんだけど、それは時間かかるしね! 初心者でも短時間で簡単にできるのを今回のために選別して持ってきたんだよ! 偉いでしょ〜」
オレの怪訝そうな表情を見て、小林はえへんと胸をはる。
「ミツカは俺たちのことを考えて準備してくれたんだな! 優しいな!」
「でしょ〜? ナル君分かってるね〜」
「大方、買ってそのままにしているパーツが大半じゃない? これとか開封しないで袋に入ったままじゃん」
一ノ瀬が冷静に突っ込むと、小林はその肩へしなだれかかった。
「ぐるちゃん〜、それは言わないお約束だよ〜」
「した覚えのない約束じゃん」
そんなやりとりを放置し、机の端に積まれている硬質ケースを手で引き寄せてみる。
昨日小林が言っていた通り、これなら写真が鞄の中で折れたりよれたりする心配はなさそうだ。
「それではまず〜」
小林がぱん、と手を叩いた。
「皆さん! 本日の主役をご用意くださ〜い!」
「主役?」
「デコる写真!」
「ああ」
「持ってきたぞ!」
真っ先に反応した成瀬が、鞄から封筒を取り出した。
「小鳥遊からもらった写真の中から選んできた!」
「何枚持ってきたの〜?」
「十枚ほどだ!」
「多いな」
「一枚に決めきれなかった! いや〜、昨夜両親と一緒に選んでいたんだが、どれも良くてな〜」
「は? 両親と見たのか?」
「そうだ! ……あ、小鳥遊! 俺の親もお前の腕前を褒めてたぞ! 『カメラの腕の良い友達がいるんだな〜。たくさん綺麗に撮ってもらってるんだから、ちゃんと感謝しておくんだぞ』って」
「それは……どうも」
「『全部正面写真じゃないから、カメラを意識していない「不意の一瞬」や「日常のリアルな空気感」を撮るのが好きなのかな』とも言っていたな! 俺の顔が好きだから正面写真もちゃんと撮ったと言っておいた!」
「…………」
なんと言ったらいいのか分からなかった。
事実ではある。
成瀬の顔が好きで撮っていた。それは間違いない。
ただし、正面から撮らなかったのは、単純にバレたくなかったからだ。
(……お前の親、だいぶ好意的に解釈してないか?)
今さら「実は息子さんに気づかれないよう、こっそり撮っていただけです」と訂正するわけにもいかない。成瀬も好意的に受け取っていたし、親に似たのだろうか。
「そうか……」
結局、それだけ返した。
「だから、その十枚の中から一枚をこれから選ぶんだ!」
そう言って、成瀬は机の上へ写真を並べ始めた。
「ふむ……これもいい。だが、やはりこちらも捨てがたいな……」
「ナル君、めちゃくちゃ真剣じゃ〜ん」
「当然だ! 俺をさらに魅力的に飾る一枚を決めるのだからな!」
「写真を選ぶところから長そう」
一ノ瀬はそう呟きながら、自分の鞄から一枚の写真を取り出した。
「あ! ぐるちゃん、それにしたんだ〜!」
「うん」
写っているのは、落ち着いた雰囲気の男性だった。
オレも顔に見覚えがある。テレビドラマで何度か見たことのある俳優だ。
「これが一番好きだから」
「渋いね〜」
「格好いいでしょ」
「ああ、オレもドラマで見たことがある。いい顔だな」
「……小鳥遊に言われると、なんか顔だけ評価されてる感じする」
「顔の話じゃないのか?」
「私はこの人の演技含めて好きなの」
「そうなのか」
まあ確かに、先生や刑事役をやっていたのを見たことがある。詳しいことは分からないが、台詞を喋っているだけじゃなく、その役が本当にそこにいるように見える俳優だった気がする。
「じゃじゃ〜ん! 私はこれ〜!」
続いて小林が取り出したのは、人物は同じだが、昨日見せていたものとは別の写真だった。
ステージ衣装を身にまとい、カメラへ向かって笑っている。
「今回はこれを、もっとも〜っと可愛くしま〜す!」
「昨日のでも十分派手だっただろ」
「あれとは違うデザインにするの!」
「何個もいるのか?」
「いるよ?」
「…………そう」
即答された。
どうやら、そこに疑問を持つ方が間違っているらしい。
「で〜?」
小林がにこにことしながらオレを見る。
「小鳥遊君は?」
「持ってきた」
オレも鞄へ手を入れ、取り出した写真を机へ置く。
「あ」
小林がすぐに覗き込んできた。
「これ、この前この空き教室で撮ったやつ〜?」
「ああ」
そこには、教室にいる成瀬が写っていた。
カメラに向かって満面の笑みを浮かべている写真だ。
「へえ〜! いいじゃん!」
「だろ」
「ひゅーひゅー! ナル君、格好いい〜」
「当然だ!」
まだ自分の写真を選んでいた成瀬が、即座に反応する。
「小鳥遊! 俺にも見せてくれ!」
「ほら」
「おお……!」
成瀬が写真を手に取る。
「これはいいな! 俺の自然な格好良さがよく出ている!」
ファインダー越しに目が合ったときのことは、今でも覚えている。
だから、今日持ってくる写真を選ぶときも迷わなかった。
「つまりこれも特別な一枚というわけだな!」
「……お前、何でも特別にしたがるな」
「違うのか?」
写真へ目を落とす。
「まあ、違わないけど」
「やはり!」
成瀬は嬉しそうに笑った。
「よ〜し! 全員写真も決まったところで〜」
「待て!」
成瀬が手を上げる。
「俺がまだ決まっていない!」
「あ、そうだった」
机の上には、十人の成瀬が並んでいた。
「どの俺も魅力的で、決めかねてるんだ」
「つまりどれでも一緒ってこと〜?」
「どれも最上級にかっこいい俺ってことだな! わかる!」
「そだね〜」
小林が若干スルーしつつも笑いながら写真を覗き込む。
「じゃあ、みんなで選んであげよっか」
「それはいいな!」
「どんなのにしたいの?」
「無論、俺をさらに引き立てるような豪華なものだ!」
「じゃなくて写真〜」
成瀬は腕を組み、並んだ写真を見渡した。
「やはり、華やかな装飾にも負けない俺がいいな!」
「全部お前だから、どれでも装飾には負けないと思うが」
「それもそうだな」
「ナル君と小鳥遊のその絶対的な自信はなんなの」
一ノ瀬が呆れたようにこちらを見る。
成瀬はもう一度、並んだ写真へ目を落とした。
「……よし。では、これにしよう!」
手に取ったのは、元々オレがパスケースに入れていた写真と同じものだった。
「それにするのか?」
「ああ! これは小鳥遊が最初に上手く撮れたと思った、特別な一枚なのだろう?」
「……まあ」
「ならば、これがいい! この俺をさらに豪華に飾ってやろう!」
成瀬は満足そうに写真を掲げた。




