第7話 男の子に助けられた話
駅のホームで電車を待っていた。
特に急いでもいなかったので、ぼんやり立っていた。
そのうち、なんとなく違和感を覚えた。
周りを見渡すと、新聞を読んでいるおじさんが何人も近くにいる。
……今日は新聞率が高いな。
そんなことを思っていた。
今思えば、その時点でもう少し周りを気にしておけばよかったのかもしれない。
でも、その時の私は何も気づいていなかった。
次の瞬間だった。
誰かに手首をぐいっと引っ張られた。
「えっ!?」
驚いて振り向くと、高校生くらいの男の子が立っていた。
何が起きたのか分からず、その場で固まる私。
すると男の子は、落ち着いた口調で言った。
「あれ、スリですよ。
この駅、多いから。
ぼーっとしてたらダメです」
……え?
思わず、さっきまで自分が立っていた場所を見る。
新聞を広げていたおじさんたちは、いつの間にかいなくなっていた。
あの人たちは、本当に新聞を読んでいたのだろうか。
それとも、男の子の言う通りだったのだろうか。
今となっては分からない。
ただ、その言葉を聞いた瞬間、一気に背筋が寒くなった。
財布を取られていたのかもしれない。
バッグを開けられていたのかもしれない。
あるいは、何も起きなかったのかもしれない。
答えは分からない。
でも、少なくとも男の子は「危ない」と思って、見ず知らずの私を引っ張ってくれた。
わざわざ声をかけて、助けようとしてくれた。
すごい勇気だと思う。
私は「ありがとう」と言うのが精一杯だった。
もっとちゃんとお礼を言えばよかった。
今でも、そこだけは少し後悔している。
名前も聞かなかった。
どこから来たのかも、何をしていたのかも知らない。
たぶん、もう二度と会うことはない。
それでも、あの日のことは今でも覚えている。
あれ以来、駅のホームでは、前より少しだけ周りを見るようになった。
新聞を読んでいる人が近くに何人もいると、今でもふと思う。
……いや、さすがに全員がスリってわけじゃないよな。
そう思いながら、自分のバッグを確認する。
あの日、手首を引っ張ってくれた男の子。
あの時は本当にありがとう。
たった一度の出来事だけれど、あの日から私は、駅のホームで少しだけ周りを見るようになった。




