「それ、パワハラ受けてるけど大丈夫?」と言われた話
「それ、パワハラ受けてるけど大丈夫?」
ある日、そんなことを聞かれた。
私は思わず、
「え? なんでですか?」
と聞き返した。
だって、自分ではそんな認識がまったくなかったのだ。
相手は、少し驚いた顔で言った。
「いや……目の前で毎日のように舌打ちされるって、普通じゃないから」
そうなの?
言われてみれば確かに舌打ちはされる。
質問をすると、チッ。
書類を渡すと、チッ。
近くを通ると、……いや、それは気のせいか。
でも、もう一回通ると、やっぱりチッ。
もはや効果音である。
「そんなものかな」と思っていたけれど、「普通じゃない」と言われると急に気になってきた。
そこで、ある日ふと思った。
数えてみよう。
舌打ちカウント!そんな特技はいらない。
でも、気になったものは仕方がない。
結果。
午前中だけで26回。
思わず二度見した。
いや、そんなに?
途中から「今ので15回目か」と頭の中でツッコミを入れつつ、なんだかリズムゲームをしている気分になってきた。
もちろん、まったく楽しくないリズムゲームである。
その話をすると、みんな口をそろえて言う。
「それ、パワハラじゃない?」
どうやら世間ではそういうらしい。
当事者というのは不思議なもので、毎日続くと「まあ、こんなものか」と慣れてしまう。
だからこそ、外から「それ、おかしいよ」と言ってもらえるのは大事なんだと知った。
今でも舌打ちは聞こえる。
「はぁ!殺すぞ」
という、独り言を言われる日もある。
本人はノイキャンのためイヤホンしていて無自覚である。言ったことも、当然覚えてないらしい。
できれば仕事の効果音は、キーボードの音とかコピー機の音くらいにしていただきたい。
でも、「自分が気にしすぎなのかな」と思っていた頃よりは少し楽になった。
誰かの「大丈夫?」は、すごい力を持っている。
……それにしても、午前中だけで26回。
あの日の私、一番仕事をしていたのは業務じゃなくてカウントだった気がする。




