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【実話】なんで私はこうなる?  作者: 月白ゆう


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18/19

新幹線では、隣の席も選べたらいいのに

 新幹線の座席を選ぶ時は、慎重になる。

 窓側か通路側か。

 前後に人がいるか。

 できれば人が少ない場所がいい。

 とはいえ、どれだけ慎重に選んでも、結局は運だ。

 数時間の快適度が、たった一度のクリックで決まる。

 その日は、外れだった。

 隣のおじさんが、よく喋る人だった。

 それも、ただ喋るのではない。

 ずっと同じ話をしている。

 テーマは、1mm。

 三笘の1mmよりも大事な1mmがある。

 そう思いながら聞いていた。

 いや、正確には1mmですらなかった。

 私が新幹線の中で延々聞かされたのは、0.4mmの話だった。

 どうやら、おじさんは仕事でクレーム対応をしているらしい。

 納品したゴムの長さが、規格より0.4mm足りなかった。

 たった0.4mm。

 でも、おじさんにとっては、たったではない。

「こっちはちゃんと作ってるんですよ」

「なのに、向こうは0.4mm足りないって」

「0.4mmですよ?」

「どう説明したらいいと思います?」

 知らない。

 私はゴムの専門家ではない。

 そもそも私は、その会社の人間ですらない。

 ただ、新幹線で隣に座っただけの人間である。

 それでも、おじさんは話し続けた。

 誰かに愚痴りたかったらしい。

 クレーム対応が大変なのだという。

 相手の言い分。

 こちらの事情。

 上司の反応。

 納品先とのやり取り。

 0.4mmを中心に、話はどんどん広がっていった。

 私は相槌を打ちながら、窓の外を見た。

 新幹線は速い。

 景色もどんどん流れていく。

 なのに、0.4mmだけは、いつまでも私の隣にいた。

 そして、ようやく目的地に着いた。

 新幹線を降りる時、おじさんが突然、名刺を差し出してきた。

「これ、持ってて」

 受け取る。

「もし就職決まらなかったら、電話しておいで」

 さらに続けた。

「うちで事務員として採用するから」

 ……え?

 私は少しだけ固まった。

 ありがたい。

 ありがたいのだが。

 残念ながら、私は就職活動中ではない。

 普通に会社員である。

 今日は出張で新幹線に乗っていただけだ。

 おじさんには、そのことを最後まで言わなかった。

「ありがとうございます」

 そう言って、別れた。

 新幹線を降りてから、名刺を眺める。

 そして思う。

 このおじさん、ちゃんとクレーム対応できるのだろうか。

 0.4mmの話を初対面の人間に数時間聞かせるくらいだから、もしかしたら、かなり熱心な人なのかもしれない。

 ただ。

 私はもう、0.4mmという数字を聞くだけで、あの新幹線を思い出す。

 座席は選べる。

 でも、隣の人までは選べない。

 数時間の快適度は、今日もワンクリックで決まる。

 次に新幹線へ乗る時は、さらに慎重に座席を選ぼうと思う。

 ……まあ、結局は運なのだけれど。

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