鍋に鶏はいない。でも、たぶん。
親戚が集まると、叔母さよく水炊きを作ってくれる。
「今日は水炊きね」
そう言われて、私はいつも鍋を囲む。
豆腐。
出汁昆布。
白ネギ。
えのき。
具材は、だいたいいつもこの四つ。
あるとき、ふと思った。
……鶏、入ってない?
水炊きといえば、鶏肉が入っているものだと思っていた。
でも、親戚の家の水炊きには鶏がいない。
一度も見た記憶がない。
とはいえ、今さら「鶏入れないの?」とも聞きにくい。
親戚みんな普通に食べているし、私も普通に食べている。
美味しい。
だから、まあいいかと思っていた。
ところが、ある日。
水炊きを準備している叔母が、台所で何かを食べているのを見た。
ちらっと見えた肉。
……鶏胸肉っぽい。
え?
鶏、いるじゃん。
鍋にはいないのに。
それから、妙に気になってしまった。
もしかして叔母さん、
鶏肉を自分だけ食べているのでは?
親戚には豆腐とネギとえのき。
叔母さんは鶏。
まさか、そんな。
私は一度、家に帰ってから調べてみた。
すると、関西では鶏肉を入れない水炊きもあるらしい。
なんだ。
鶏が入っていなくても、水炊きは水炊きなのか。
それなら、うちの親戚だけがおかしいわけではない。
長年ひそかに抱えていた「鶏がいない問題」は、あっさり解決した。
……と思った。
でも、やっぱり気になる。
叔母さんが食べていた、あの鶏肉。
そこで、ふと思った。
もしかして、こういうことなのではないだろうか。
叔母さんは、ちゃんと鶏胸肉を入れている。
鶏から出汁を取るために。
でも、鶏胸肉って煮込みすぎるとパサパサになる。
そんなパサパサの肉を親戚に出すのは、ちょっと申し訳ない。
だから、
「これは私が食べればいいか」
と、ひとりでこっそり食べている。
……だったりして。
もしそうなら、私は今まで叔母さんを疑っていたことになる。
「鶏を独り占めしているのでは?」
なんて。
とんでもない。
むしろ叔母さんは、私たちにパサパサの鶏胸肉を食べさせないために、ひとりで引き受けてくれていたのかもしれない。
もちろん、本人に聞いたわけではない。
全部、私の想像である。
本当はただ叔母さんが鶏肉を食べたかっただけかもしれない。
でも、次に親戚の家で水炊きを食べるときは、見方が変わると思う。
豆腐を取って、白ネギを取って、えのきを取って。
そして、鍋の中には見えない鶏の存在を感じながら食べる。
鍋に鶏はいない。
でも、たぶん。
出汁にはいる。




