ブラックポスト
『連日のニュースをお伝えします。』
共和国唯一の公式放送であるフランク放送はコルクマンと共和国の魔法隊の戦闘を伝えた。
『魔法隊はテロリストに対し、十分な傷害を与えたものと思われ…』
「十分な傷害か、まさか全員死亡とは笑えないな。」
共和国魔法隊管理隊長であるノルマ・べリッシュはニュースの報道の仕方に呆れを感じていた。何しろ、十分な障害を与えたというだけで面白いのに、全員死亡してなお、テロリストに傷一つつけられず、なんの手がかかりも得られなかったとなるとそうもなるだろう。
「ノルマさん、共和国空軍司令官がお呼びです。一番室へお入りください、空室時間は十五分ほどで。」
ノルマの部下であるファクトはそう伝えた。
急足で応対室に向かいながら、ネクタイをきちんとしめ、ズボンのしわを直し、笑顔を取り繕う。
こうでもしないと、ノルマはやっていけないのである。クビ以前に共和国全体の利益が損なわれる可能性すらあるし、2度の大戦を勝ち越している共和国に『敗北』の二文字はあってはならない。どう穏便に伝えるかがこの話し合いの鍵であることは間違いはないだろう。
応対室のドアを開けると、いかにも立派な服装をした、偉そうな顔と不機嫌な顔を両立した中年の男が座っていた。本来なら、空軍だけでなく、陸軍、海軍の司令官も呼ばれる予定であったと思うと、一人であることはノルマにとって心に落ち着きをもたらせた。
「リンドバークス、この地は知っているかね?」
話はなんの前触れもなく始まった。説教というよりは語りに近いかもしれない。
「共和国が初めて誕生した地でもあるが、それよりも大切なのは言葉の由来だ。」
「…はい?」
「絶対的な勝利。それすなわち完勝を意味する。」
くどい回し文句をせずにはっきり伝えろとノルマは心の中で思う。
「我々に今、必要なのは協力だ。敵は空を飛ぶそうじゃないか。だから、私からはヘルマン君を送ろうと思ってね。」
「ヘルマン?誰です。」
「若いパイロットだ。優秀だが魔法に興味があってね。なぜ、空軍に来たのかと問えば、空を体感したいらしい。」
言いたいことはわかる、要はヘルマンに魔法を学ばせテロリストにぶつけるというわけだ。どうやら、話の筋が見えてきた、空軍司令しか来なかったわけが。おそらく、魔力を使った新兵器があるのだろう。空を飛ぶことができる何かが。我々は未だ、空を飛ぶための魔法を確立していないから、空を飛ぶテロリストには肩を並べることも出来ていない。陸と海にはこの情報を渡したくないのだろう、なんと卑怯な者かとノルマは話を終えることにした。
その心は社会全体を思う、ノルマの正義感にあった。
「…了解です。」
司令官は最初とは全く違った顔をしてこの場を去った。
───────────────────────────
場所、グリットエッジの洞窟。
旧時代はキャニオンと呼ばれた場だが、今はひっそりとその名を覆い隠している。何しろ、観光客がめっきりいなくなったのもあるが近年の地震の頻発化に耐えられずに崩れ去ったというのもある。
「ケイミカライト鉱石ですか…?」
パッカーは大変不思議そうな顔をして、ニックの方を見た。もちろん、ニックが誰かはテロリストその人であることを仲間となったパッカーは十分理解していた。自分も考えというか、存在そのものに賛同したとなると簡単な話だとは思うという心だった。
「魔力の補給線は無事という事ですか。」
ケミカライト鉱石は、旧時代に最初に魔力が観測されたものであるというのはパッカーは分かっていたが、実物は初めて見たので多少の驚きと興奮を感じていた。また、その効果は内包する魔力を人の肌が触れることで移動させ、魔力を扱える様にするという、なんとご都合なものかと人間を驚かせたものだ。
「ああ、だが俺はそんな事をしなくても魔力を生成できる。」
「魔力の生成、あり得ないはずじゃ…」
「普通の人間ならばな。俺は普通じゃないんだ、もっともその事実を知る人間はこの世に君一人だけだ。」
パッカーは事実こそ知らないが、政府に何かがある事を、ニックにも後ろめたい過去がある事を分かった。
気遣いというか、仕事の時はそんなこともしなかったから事務に回されたのだとうんざりした。
「次の作戦は…」
そういう前にニックは既に紙を渡してきた。
「リンドバークス、次の攻撃地点だ。魔法部隊の演習拠点があるここを叩く。紙は読んだら燃やしてくれ。」
そういうことに慣れているから、パッカーはすぐに読み終わって、紙を燃やした。
「…古いですね。」
「そうだな。」
夕日が沈み込む前だった。




