第546話 「裁き」が終わって……・3
「う……うううぅ……」
「よしよし、師匠……」
春風の胸の中で泣く凛咲と、そんな彼女に優しく話しかける春風。
そんな2人を見て、
『む〜……』
と、一部の者達が頬を膨らませてると、
「おうおう、見せつけてくれるねぇ」
という声が聞こえたので、
「……え?」
と、思わず反応した春風が、すぐに声がした方へと視線を向けると、
「よ!」
その視線の先には、1匹の大きな黒い狼のような何かがいたので、その姿に春風は「あ……」と小さく声をもらすと、
「レナと再会した時に見かけた狼っぽいの」
と、その狼のような何かをそう呼んだ。
その時、春風の脳裏に浮かんだのは、ヘリアテスのところから旅立ってレナと再会したあの日、自分達にサーベル・ハウンドをけしかけた、あの禍々しいオーラを纏った黒い狼のようなもので、
「あれ!? 覚えてたのかよ!?」
と、狼のような何かは思わず目を大きく見開きながら驚いた。
すると、
「あー、春風……」
と、レナが恐る恐るといった感じで春風に声をかけてきたので、
「ん? レナ、どうしたの?」
と春風が首を傾げながら返事すると、
「その狼さん……私のお父さん」
その返事に対して、レナはチラッと狼のような何かを見ながら答えた。
その答えを聞いて、春風は再び「あ……」と声をもらすと、スッと表情を真面目なものに変えて、
「師匠、ちょっと失礼します」
と、凛咲を自身から離しながら、彼女に向かって謝罪した。
その後、春風は改めて狼のような何かに向き直ると、
「お初にお目にかかります、自分は雪村春風と申します。無礼を承知でお尋ねしますが、『月光と牙の神ループス』様ですね?」
と、丁寧な態度と口調で自己紹介しながら尋ねた。
その姿勢に周囲の人達が「おぉ!」と歓声をあげると、
「如何にもその通り、俺がループス。『月光』と『牙』を司りし神だ。今は『邪神ループス』などと不名誉な名で呼ばれてるがな」
と、狼のような何か……否、「月光と牙の神ループス」、以下、ループスは威厳に満ちた態度で、春風に向かって自己紹介した。
それを聞いて、再び周囲から「おお!」と歓声があがると、
「そして……」
とループスはボソリと呟いて、春風の傍に立つアマテラスに視線を向けると、
「お久しぶりです、アマテラス様」
と、ペコリと頭を下げながら言ったので、
「ええ久しぶりね、神ループス。なんか随分と印象が変わったみたいだけど」
それを聞いたアマテラスは、真面目な表情と口調で、ループスの挨拶に返事した。
その時だ。
「まったくよ!」
と、いつの間にかアマテラスの傍に立っていたヘリアテスが、ループスを見てプンスカと怒っていたので、
「お、お母さん?」
とレナが恐る恐る声をかけると、
「出ていったきり長いこと音沙汰ないと思ってたら、何その姿!? 一体何処をどうほっつき歩いてたらそうなったわけ!?」
そんなレナをスルーして、ヘリアテスはループスにそう問い詰めた。
その質問に対して、
「ご、ごめんよヘリア。これには深い事情が……」
と、タジタジになったループスが何か言い訳しようとしたが、
「……」
ギロリと睨みつけるヘリアテスに無言の圧力をかけられてしまい、
「あ、あぅ……」
それを受けたループスはタジタジになったまま何も答えることが出来ずにいた。
そんな2柱の神々を見て、
「なーにやってんのよ、もう」
と、アマテラスが呆れ顔でそう言うと、
「と、ところでよう、雪村春風……!」
ループスが強引に話題を切り替えるように春風に声をかけたので、
「はい、何でしょうかループス様?」
と、春風がそう返事すると、
「フランク・ガルシアとケネス・ランドルフとの戦いを見てたけど、お前さん、よくあの姿から元に戻ることが出来たな? すっごいピンチだっただろ?」
ループスはチラッと春風の右手に握られている彼岸花を見ながら尋ねた。
そんなループスの質問に、
「あ、こら! 誤魔化さないの!」
と、更にプンスカと怒るヘリアテスを他所に、春風はスッと表情を暗くすると、
「お見苦しい姿をお見せしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
ループスに向かって深々と頭を下げながら謝罪して、
「あなたが今したその質問ですが、俺1人の力ではこの場に戻ることは出来ませんでした。今、俺がこうしてこの場にいるのは、契約した神であるオーディン様と、この彼岸花の意志、そして俺達と共にここまで来てくれたグラシアさんのおかげです」
最後にチラッと右手の彼岸花を見ながら答えた。
その答えを聞いて、
「ん? ハルッち、『グラシアさん』って誰……?」
と、恵樹が尋ねてきたが、そんな恵樹をスルーするかのように、
「え、グラシアさん? グラシアさんがどうかしたの?」
とレナが尋ねてきたので、
「そ、それが……」
その質問に対して、春風は「く!」と呻きながら何か答えようとすると、
「ま、まさか、グラシアさんに何かあったの!?」
と、レナは春風の両肩をガシッと掴みながら、更にそう尋ねてきた。
その時だ。
「心配しないでください、レナ様」
と、何処からグラシアの声が聞こえたので、
「え!? グラシアさん!? 何処!?」
その声を聞いて、レナはキョロキョロと辺りを見回すと、
「こちらですよ、こーちーら!」
と、再び何処からかグラシアの声が聞こえたので、それにレナだけでなく周囲の人間達までもが「ん?」と声をもらしながら、グラシアの声がした方へと振り向くと、
「そうそう、こちらです」
なんと、グラシアの声は春風が持ってる「妖刀・彼岸花」から出ていたので、
『え? えぇ!?』
と、レナをはじめとした周囲の人達は、目を大きく見開きながら驚きの声をあげた。
次の瞬間、彼岸花の赤い刀身が光出して、そこからスーッと何かが出てきた。
それは、腰まで届く長くて真っ赤な髪を持つ、これまた赤い着物姿の2、30代女性だったので、
「え……もしかして、グラシアさんなの?」
と、レナはその女性を見てそう尋ねて、そんなレナの質問に対して、
「はい、私、グラシア・ブルームですよ、レナ様」
赤い着物姿の女性、グラシアはニコッとしながらそう答えた。




