第536話 その頃、「現実」では……
さて、「春風の精神世界」で、グラシアとオーディンが春風を助ける為に動いていた、丁度その頃。
『……』
現実の世界では、「妖刀・彼岸花」の力で異形の姿となった春風を前に、レナをはじめとした春風の仲間達が、緊張した様子で集まっていた。因みに、「天使」となったケネスのスキルによって「勇者の証」を剥奪され、「元・勇者」となってしまった歩夢、美羽、鉄雄、恵樹、詩織の5人は未だに動けない状態となっていて、そんな彼女達を守るように、女神ヘリアテスが結界を張り、ニーナがそれを手伝っている形となっている。
そんな状況の中、
「……」
レナは異形となった春風をジッと見つめていた。
現在、春風は何か変化が起きているのかその場から動こうともせず、ただジッと立ったままでいるので、レナはそんな春風を心配そうに見つめていた。
すると、
「レナ」
と、ヘリアテスと同じく「神」の1柱にしてレナの育ての親でもあるループスが声をかけてきたので、それにレナがピクリと反応すると、
「彼を心配する気持ちはわかるが、今は戦いの最中だ。あの2人がいつ戻ってくるかわからないからな」
と、ループスは少し厳しい口調でそう言った。
そう、確かに今は、「天使」となった断罪官の2人の小隊長、フランクとケネスとの戦いの最中で、その2人はループスによって吹っ飛ばされたが、だからといってこのまま終わるわけがなく、吹っ飛ばされた2人がいつこちら戻ってきてもおかしくない状況なのだ。
そして、それはレナも理解していて、ループスの厳しい言葉にレナは少しだけ俯くと、すぐに顔を上げながら、
「……うん。そうだね、お父さん」
と、真剣な表情でループスに向かって返事した。
一方、ループスに吹っ飛ばされたフランクとケネスはというと、
「ふおおおおおっ!」
「くうううううっ!」
と叫びながら、空中でどうにか体勢を立て直していた。
「はぁ……はぁ……」
と、空中で苦しそうに肩で息をするフランクに向かって、
「ふ、フランク、大丈夫?」
とケネスが尋ねると、
「はぁ。へっ! そういうテメェこそどうなんだケネス」
と、フランクは苦しそうだが不敵な笑みを浮かべながら尋ね返してきたので、
「あらご心配なく。まだまいけるわよ」
その質問に対して、ケネスも苦しそうだが不敵な笑みでそう返事した。
その後、
「チッ! 俺ら随分と遠くまで飛ばされちまったなぁ」
と、フランクがレナ達がいる方向を見て舌打ちしながらそう口を開くと、
「そうみたいね」
とケネスはそう返事しながら、フランクと同じ方向を見た。かなり遠くまで吹っ飛ばされた所為か、レナ達の姿を肉眼で確認することが出来ず、ケネスは忌々しいもの見るかのように表情を歪ませると、
「まさか、もう1柱の『邪神』が登場するとは。ギデオン大隊長が知ったら、びっくりして腰を抜かしちゃうんじゃないかしら?」
と、冗談を言うかのようにそう言ったので、
「はっ! あの旦那が『腰を抜かす』ってタマかぁ?」
そんなケネスの言葉に、フランクは「冗談だろ?」と言わんばかりの軽い口調で言うと、数秒程沈黙して、
「ねぇな」
「ないわね」
と、ケネスと2人で真面目な顔でそう言い合った。
その後、
「で、どうするの?」
と、ケネスがフランクに尋ねると、
「決まってんだろ。このまま討伐を続行する。まず最初に倒すのは、『赤き悪魔』の雪村春風だ」
その質問に対して、フランクは真面目な表情でそう答えたので、
「あら? レナ・ヒューズじゃないの?」
彼の答えを聞いて、ケネスは再び首を傾げながら尋ねると、
「勿論そっちも殺るし邪神共とも戦わなきゃならねぇ。だが、危険度なら奴の方が圧倒的に上だと、俺の勘がそう告げている」
と、フランクは何の躊躇いもなくそう答えた。その答えにケネスは「冗談でしょ?」と更に尋ねたかったが、フランクの真面目な表情を見て、彼が何の冗談も言ってないと理解すると、
「そうね。確かに、今の彼から発せられている底知れない『何か』は放って置けないものだわ。なら、倒せる時に倒しておくべきね」
とケネスも真面目な表情で、フランクの言葉に同意した。
そして、
「よし、落ち着いたところで……」
「ええ、いくわよ」
と、2人はそう言うと、背中の白い翼を広げて、猛スピードでその場から飛んだ。
その瞬間、
「む、来るか!」
と、ループスが察したかのようにフランクとケネスが吹っ飛ばされた方向に視線を向けながら口を開いたので、レナはすぐに動けるようにループスと同じ方向を睨みながら身構えた。
すると、
「レナお姉さん!」
と、ピートがレナの傍に駆け寄ってきたので、レナは思わず「ん?」とピートを見ると、
「僕も、一緒に戦う!」
と、ピートはそう言って、春風に貰った丸太を構えた。
そんなピートを見て、
「ふふ、ありがとう」
と、レナはニコッとしながらお礼を言うと、
「待ってくれ、2人共……」
という声がしたので、その声にレナとピートは思わず「ん?」と2人して声がした方へと視線を向けると、
「あ、アメリアお姉ちゃん」
そこには、ハルバートをグッと握り締めたアメリアがいた。
アメリアはレナとピートの傍へと駆け寄ると、
「私も、一緒に戦わせてほしい」
と、真剣な表情でそう言った。
その言葉を聞いて、
「だ、大丈夫なの?」
と、心配そうな表情のピートが、アメリアに向かって恐る恐る尋ねると、
「ああ。私も、もう逃げることは許されないから。だから、私も共に戦う」
その質問に対して、アメリアは「覚悟」を決めたかのようにそう答えたので、
「わかった。それなら、一緒に戦おう」
彼女の答えに、レナはコクリと頷きながら返事して、それを聞いたアメリアは、
「ありがとう」
と、レナに向かってお礼を言うと、持っていたハルバートを構えた。
そして、
「来たぞ!」
と、ループスがそう言ったすぐ後、遠くからフランクとケネスが飛んでくるのが見えたので、レナ達は改めて気合いを入れ直すかのように飛んでくるフランク達を睨みながらそれぞれ戦闘体勢に入った。
その時だ。
「ウウ……」
と、異形となった春風がそう呻き声をあげたので、
「へ? は、春風……?」
とその声にレナがそう反応すると、
「ウウ……ヴアアアアアアアッ!」
と、異形となった春風は全身を真っ赤に輝かせながら叫んだ。




