第532話 「妖刀・彼岸花」の想い
今回は、いつもより少し短めの話になります。
「……そうか。君もまた、『運命の出会い』をしたんだね」
と、彼岸花の話を聞いて、オーディンは納得の表情を浮かべながら言った。その言葉に対して、彼岸花はチラッとオーディンを見ると、
「そうかも……しれません。『武器』である私がこんなことを考えるなんて、おかしな話ですが」
と、「はは……」と自嘲気味に笑いながら言ったので、
「……」
そんな彼岸花を見て、グラシアは悲しそうな表情を浮かべた。
その後、
「地下室での出会いの後、私は再び箱の中に入れられたんだけど、それでも春風はたまに私に会いに来てくれたんです」
と、彼岸花がそう口を開いたので、
「……うん。師匠達に怒られてから……俺はもう、地下室に行くのやめようって思ってたけど……何故か『また見たいな』って考えちゃって……それで、師匠と美羽さんの目を盗んで、地下室に入って、彼岸花を見に行ったんだ。抜かなくても、見るだけならいいかなって思って……」
彼女に返事するかのように、春風も彼岸花に向かってそう言った。
彼岸花と春風の言葉を聞いて、
「はは。春風君、なんだか浮気している男性みたいだね」
と、オーディンが茶化すようにそう言うと、
「う! た、確かに、そうかも……」
そんなオーディンの言葉に、春風は今になって罪悪感に駆られたような表情になったので、
「あはは……」
と、春風の言葉に彼岸花は弱々しく笑うと、
「そんな感じで過ごしていくうちに2年が経ったある日、春風の身に危険が迫ってると感じた私は、箱を飛び出して春風のもとに飛んだんです。なんであんなことが出来たのか私自身にもわかりませんが、あの時の私は、『春風が危ない!』って想いでいっぱいでした」
すぐにスッと表情を真面目なものに変えながら言った。
その言葉を聞いて、
「うん。あの時は、来てくれて……本当にありがとう」
と、春風が彼岸花に向かってお礼を言うと、彼岸花は少しだけ顔を赤くしたが、すぐにハッとなって首をブンブンと左右に振ると、
「そして、春風の目の前に降りて……まぁ正確に言えば突き刺さったんですが、とにかく、飛んだ先で私は春風に『力』を与えました。『武器』である私がこんなことを言うのも変ですが、最初は不安だったんですよ。私を振るってきた歴代の使い手達のように、意志の無い殺戮兵器になってしまうんじゃなのかって」
と、少し暗めの表情でそう話を続けたので、それに春風、グラシア、オーディンは何も言えなくなったが、
「ですが、春風は違いました。だって、あの時の春風、敵を1人も殺さずに、武器だけを破壊することに集中してたましたから」
と、彼岸花は「ははは……」と再び弱々しく笑いながら口を開いたので、
「……確かに、あの時の俺は……『みんなを助ける!』って想いでいっぱいで……『敵を皆殺しにする』とまでは、考えてなかった。だって……あの場には人殺しをするつもりで行ったんじゃないから」
と、再び彼岸花に返事するかのように、春風は少しだけ表情を暗くしながら言った。
すると、
「あの時私、『春風に振るわれてよかった』った思いました。だって、他の使い手達と違って、春風はちゃんと自分の意志を持ってたから。他の使い手達は、みんな私を振る度に心が壊れていったから……」
と、彼岸花が「悲しみ」を込めた笑みを浮かべながら言ったので、
「……そうだね、それは僕も感じてたよ」
と、彼女の言葉に同意するかにように、オーディンはコクリと頷きながら返事した後、
「そしてその後、私はあの人……凛咲の手によって『本体』と『力』の2つに分けられました。『力』の方は凛咲がずっと持ってる形になって、『本体』の方は彼女の特殊な秘術によって扇に変えられて、以降は扇として春風の傍にいることになったのです」
と、彼岸花は「扇」となった経緯を説明し、その説明を聞いて、
「……夜羽」
春風は少し前まで振るっていた、武器の1つの名を呟いた。
その呟きが聞こえたのか、彼岸花は「ふふ……」と小さく笑うと、
「春風。私ね、本当はずっと『夜羽のままでいいや』って思ってたんだ。夜羽のままだったら、春風とずっと一緒にいられるから」
と、笑顔でそう言ったので、
「彼岸花……」
「……」
そんな彼女の言葉に、春風とグラシアは悲しそうな表情をしたが、
「でも、それももうお終いになっちゃった。だって、今の私はもう、『黒扇・夜羽』じゃなくって、『妖刀・彼岸花』だから」
その後すぐに、彼岸花は表情を笑顔から暗いものに変えながら言い、
「そ、それは……」
と、グラシアが何か言おうとしたが、それを遮るかのように、
「そして、『妖刀・彼岸花』に戻ってしまった以上、私は……私の特性に従って、春風を取り込まなくてはならない」
と、彼岸花が冷たくそう言い放ったので、
「そんな! そんなの……あんまりだわ!」
その言葉にブチ切れたのか、グラシアはそう怒鳴ると、すぐに春風が閉じ込められてる球体に近づいたが……。
ーーバチン!
「きゃあ!」
またしても球体の力によって弾かれてしまい、思わず悲鳴をあげた。
そんなグラシアを見て、
「無駄よ。この球体は春風が消えるまで誰にも壊すどころか触れることすら出来ない。そう、この私でさえもね」
と、彼岸花は更に冷たくそう言うと、球体内の春風に視線を向けて、
「本当は私だってこんなことしたくなかった。でも、こうなってしまうと、私にも止めることが出来ない。だから……」
と、震えた声で春風に向かってそう言うと、
「……ごめんなさい」
最後に深々と頭を下げながら謝罪した。
それからすぐに、
「う……」
球体内の春風の肉体が少しずつ粒子となって崩壊していったので、
「ああ、春風様! 春風様ぁ!」
それを見て、グラシアは涙を流しながら悲鳴をあげて、
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
彼岸花はその場に膝から崩れ落ちながら、震えた声で何度も謝罪した。
よく見ると、その瞳からはポロポロと大粒の涙を流していた。




