第531話 彼岸花の秘密、再び
「……ねぇ、春風」
「何……彼岸花?」
「本当に、外の世界に出たいの?」
と、赤く光る大きな半透明の球体の中にいる春風に向かって、赤尽くめの少女、彼岸花はそう尋ねた。
そんな彼女の質問に対して、
「うん。ユメちゃん達を……助けなくちゃ」
と、春風はそう答えると、
「……でも、その後春風は、もっと辛い思いをするんだよ?」
彼岸花は少しだけ表情を暗くしながら、再びそう尋ねてきたので、
「あ……」
その質問にグラシアは、彼岸花が何を言いたいのかを察して、悲しそうな表情を浮かべた。そして、それはオーディンも同じで、彼も彼岸花の質問の意図を理解してスッと目を閉じながら表情を暗くした。
しかし、肝心の春風はというと、
「……そう、だね」
と、彼岸花の質問に対して小さくそう呟いたが、
「でも……これは、自分の意思で……決めたことだから」
すぐに真っ直ぐ彼岸花を見つめながら答えたので、
「っ!」
その答えを聞いて、彼岸花はショックを受けた後、
「……どうして?」
と呟いて、
「どうせ、このままいけば春風は消える。2つの世界も、消える。みんなも、敵の親玉達も、きっと消える。悲しむ人なんて、誰もいない。春風を責める人も、いない。春風は……頑張った!」
最後にキッと春風を睨みながら言った。特に最後の部分にはかなり強い感情が込められていて、しかもよく見ると、その目から涙が溢れ出ていたので、
「……」
そんな彼岸花の様子に、グラシアも何故か泣きそうになった。
ただ、
「いや、『悲しむ神』なら、ここにいるんだけどなぁ……」
ただ1柱、オーディンは引き攣った表情で自身を指差しながら、彼岸花の言葉にツッコミを入れていたが。
それはさておき、彼岸花の言葉に、
「……そんな風に、想ってくれてたんだね」
と、春風は弱々しく笑いながら言うと、
「……春風が、悪いんだ」
と、彼岸花が俯きながら返事したので、
「え? 俺?」
それを聞いた春風は首を傾げて、
「あ、あの……それは、どういう意味かしら?」
グラシアは困惑しながら彼岸花に尋ねた。
すると、彼岸花はゆっくりと顔を上げて、
「……私は『妖刀・彼岸花』。外法を用いて生み出された刀。本来は『力』を持ったただの道具なのに、今はこうして自我が芽生えている」
と、冷たくそう言い放ったので、
「げ、外法……って?」
彼岸花の言葉に、グラシアは更に困惑しながら恐る恐る尋ねると、
「人の道を思いっきり外れた技術や秘術の総称で、またの名を『邪法』とも呼ばれている。数多くの種類があるが、その殆どは『人間の命』を用いて行うというものだ」
その質問に対して、オーディンが顔を顰めながら答えたので、
「ひ、人の命を!?」
と、オーディンの答えに、グラシアは「信じられない!」と言わんばかりにショックを受けた。
その後、
「もしかして、君もそんな感じで生まれた類の存在かな?」
と、オーディンが彼岸花に向かってそう尋ねたので、その質問に彼岸花はコクリと頷くと、
「……そうです。私の場合は、『人間の死体』を使ったものでした」
と暗い表情で答えた。
その答えを聞いて、
「し、死体!?」
と、グラシアがドン引きしていると、
「そう。私は……妖刀・彼岸花は、人間の死体を材料にして造られた刀。そして、その時使われたのは……」
と彼岸花はチラッとグラシアを見ながらそう言って、
「『私』という刀を鍛えた鍛治師の、妹の死体です」
最後は悲しそうな表情でそう付け加えた。
それを聞いて、グラシアは「そんな……」とショックを受けて、
「ということは、君のその姿も、その妹さんの死体が材料になった影響ってところかな?」
と、オーディンが何処か悲しそうな感じの表情で尋ねると、彼岸花は悲しそうな表情のまま、またコクリと頷いて、
「鍛治師はとても優秀な技術を持っていて、妹は特別な力を持っていました。2人はとても幸せそうに暮らしてましたが、そんな時にある悲劇が起きて妹が死んでしまい、悲しみにくれた鍛治師は、その悲劇を生んだ元凶を滅ぼす為に妹さんの死体を溶かして、それを材料に私という刀を造ったのです。その時の私は、使い手の『悲しみ』を吸収して力に変えるという役割を与えられただけの存在でした」
と、自身についてそう説明した。
それを聞いて、春風は勿論、グラシアとオーディンも何も言えないでいると、
「そして鍛治師は、出来上がった私を振るって悲劇の元凶を滅ぼしましたが、外法を用いたことによる代償か、もしくは『私』という刀を振るったことによる影響なのか、その所為で鍛治師の命はどんどん削られていって、最後は肉体までもが私に取り込まれて……」
と、彼岸花は更にそう説明し、
「亡くなった……というわけだね? そして、それ以降も君を振るってきた使い手達も……」
それを聞いたオーディンがそう尋ねてきたので、その質問に対して彼岸花はコクリと頷くと、
「鍛治師が死んだ後も、私は様々な場面で振るわれました。ある時は強大な魔物を滅ぼす為の武器として。ある時は『戦争』の為の兵器として。そんな感じで多くの『悲しみ』をこの身に取り込んでいくうちに、いつしか私は『もうこんなの嫌だ』という想いが芽生えて、それが、私が自我を持つキッカケになったのです」
と、自分が「自我」に目覚めたキッカケを説明した。
その説明にオーディンが「なるほど……」と呟くと、
「ですが、所詮私は武器。どれほど使われるのは嫌と思っても、その事実からは逃げられません。だから、あの地下室で保管されることになった時は、『ああ、これでもう私の役目は終わった』って思ってたんですが……」
と、その呟きに彼岸花がそう返事して、
「まさか……俺が地下室に入ってきたから?」
と、その返事に春風が恐る恐る尋ねると、
「うん。春風が地下室の扉を開けた時、なんでかわからないけど『会ってみたい』って思って、あなたのことを呼んだの。そして、あなたが私が入ってた箱を開けた瞬間、『あ、この人なら使われてもいいかも』って思ったんだ。あの時は邪魔が入っちゃったけど……」
と、彼岸花は「はは……」と苦笑いしながら答えたので、
「……そうか。君もまた、『運命の出会い』をしたんだね」
その答えを聞いて、納得の表情を浮かべた。




