第529話 現れし存在(もの)
「いるのはわかってるから、出てきなよ」
と、オーディンが何もない空間に向かってそう言った次の瞬間、オーディンとグラシアの前に、赤い人影が現れた。
ただ、「人影」と言ってもその見た目は赤いこと以外はかなりぼんやりとしていて、大人か子供どころか性別さえもわからない状態だったので、
「こ、これは……」
その「赤い人影」を見てグラシアが警戒していると、
「……はぁ」
と、オーディンは「やれやれ、しょうがないなぁ」と言わんばかりに溜め息を吐いた後、
「あーそんなに警戒しなくていいよ、僕ら悪さをする為に来たんじゃないから」
と目の前の赤い人影に向かって軽い感じでそう言った。
すると、
「……わかりました」
と、赤い人影は幼い少女のような声でそう返事した後、オーディンとグラシアの前に改めて姿を現した。
それは、真っ赤な着物姿をした10代前半くらいの少女で、腰まで届く長い真っ赤な髪と、これまた左右共に真っ赤な瞳をしていたので、
(うーん、可愛いけど見事に真っ赤ね)
と、目の前に現れた少女を見て、グラシアは心の中でそう呟いた。
そんなグラシアを他所に、
「やぁ、はじましてお嬢さん。僕は……」
と、オーディンが目の前の赤尽くめの少女に向かって自己紹介しようとすると、
「知ってます。さっきは思わず『誰?』と尋ねてしまいましたが、『神様』のオーディン様に、幽霊のグラシアさん……ですよね?」
それを遮るように、赤尽くめの少女が尋ねてきたので、
「え!?」
と、彼女からの質問にグラシア驚き、
「おやおや、僕達を知ってるとは驚いたね」
オーディンは意外なものを見たかのように目を大きく見開きながら返事すると、
「春風の傍で、ずっと見てましたから」
と、赤尽くめの少女は真っ直ぐオーディンを見つめながら言った。
その言葉を聞いて、
「え、それは、どういう……」
とグラシアが「どういう意味?」と尋ねようとすると、
「ああ、なるほど……」
とオーディンは納得の表情を浮かべて、
「ということは……君、『彼岸花』でしょ?」
と、目の前にいる赤尽くめの少女に向かってそう尋ねた。
そんなオーディンの質問に、赤尽くめの少女は無言で目を細めて、
「え? えぇ? あの、オーディン……様?」
と、グラシアは戸惑いに満ちた表情で、オーディンと赤尽くめの少女を交互に見ながら尋ねると、
「……そうです。私は『妖刀・彼岸花』です」
グラシアの質問に対して、赤尽くめの少女はペコリと頭を下げながら自己紹介した。
その自己紹介から4秒ほど時間が経つと、
「え、えぇ!? ちょ、ちょっと待ってください! 今のは、どどど、どういうことですか!?」
と、グラシアは赤尽くめの少女を見ながら「あわわ……」とオロオロし出したので、
「落ち着いてグラシアさん。はい深呼吸して……」
そんなグラシアに向かって、オーディンは落ち着いた表情で優しく言った。
オーディンの言葉を聞いて、
「は、はい、わかりました」
と、グラシアはそう返事すると、ゆっくりとその場で深呼吸した。
そして、何度か深呼吸した後、
「どう? 落ち着いた?」
と、オーディンがそう尋ねてきたので、
「あ、ありがとうございます、だいぶ落ち着いてきました」
とグラシアがオーディンに向かってお礼を言うと、
「それで、彼女は一体何者なのですか? 『彼岸花』とは、春風様が抜いた剣の名前ですよね?」
今度はグラシアがオーディンに向かって、チラッと自身を「妖刀・彼岸花」と名乗った赤尽くめの少女を見ながら尋ねた。
グラシアの質問に対して、オーディンはコクリと頷くと、
「簡単に言うと、彼女は『妖刀・彼岸花』の意識、もっと言えば自我みたいな存在だよ」
と、グラシアと同じようにチラッと赤尽くめの少女を見ながら答えたので、
「え、『自我』ですか!?」
と、その答えにグラシアがギョッと驚きながらまた尋ねた。
「そう。そして、これは僕の推測だけど、さっきまで僕が戦ってた人型の光達は、恐らく歴代の『妖刀・彼岸花』の使い手達だと考えてる」
と、彼女の質問にオーディンはコクリと頷きながら答えると、
「違うかな?」
最後に赤尽くめの少女に向かって尋ねた。
その質問を受けて、
「……はい。あなたが戦ってたのは、今までの私の使い手達の記憶を元に作った人形です」
と、赤尽くめの少女はコクリと頷きながら答えると、
「ああ、だから背丈や体格が1体1体異なってたんだね」
彼女の答えに、オーディンは再び納得の表情を浮かべた。
そんなオーディンを他所に、
「じ、じゃあ、本当にあなたは……」
と、グラシアが恐る恐るそう口を開くと、
「言ったでしょ? 私は『妖刀・彼岸花』だって」
と、赤尽くめの少女……否、彼岸花は「漸く信じたの?」と言わんばかりの呆れ顔で返事したので、その返事にグラシアはポカンとした表情を浮かべた。
すると、
「なるほどねぇ。じゃあちょっと質問するけど、君の使い手達って、どうなったの?」
と、オーディンが意地の悪そうな笑みを浮かべながら尋ねてきたので、その質問にハッとなったグラシアが「え?」と反応すると、
「……もう、いません」
と、彼岸花は表情を暗くして、
「私が……殺しました」
最後にジト目でオーディンを睨みながら答えた。
そんな彼女の答えに、
「そ、そんな!」
と、グラシアはショックを受けたが、よく見ると、その瞳は今にも泣き出しそうなくらい悲しそうな感じだったので、
「……」
それを見たグラシアは、それ以上何も言えないでいた。
だが、
「……ふむ。ということは、いずれ春風君も殺すのかい?」
と、オーディンは更に意地の悪そうな感じで尋ねてきたので、
「……そんなこと……したくない」
その質問に対して、彼岸花は本気で泣き出すんじゃないかと思われるくらいの震えた声で答えたので、彼女の答えにグラシアが「あ……」と声をもらすと、
「……そっか」
と、オーディンはそう呟きながら彼岸花の傍まで歩み寄った。
そして、今にも泣き出しそうな様子の彼岸花の傍に立つと、ゆっくりとその場に跪いて、
「酷い質問して、ごめんね」
と、申し訳なさそうにペコリとしながら謝罪した。
その謝罪を受けて、彼岸花はブンブンと首を左右に振ると、
「僕とグラシアさんは、春風君を迎えにきたんだ。案内してくれるとありがたいんだけど……」
と、オーディンは申し訳なさそうな表情を崩さずにお願いしたので、
「……わかりました、ご案内します」
と、彼岸花はコクリと頷きながら返事すると、
「こちらです」
と言って、先程までオーディンとグラシアが目指していた赤い光に向かって進み出した。
そんな彼女を見て、
「じゃ、行こうか」
と、オーディンがグラシアに向かって言うと、
「は、はい」
と、グラシアは緊張しつつもコクリと頷き、その後、彼岸花の後を追うようにオーディンと共にその場から進み出した。




