第527話 「幽霊(グラシア)」と「神(オーディン)」
今回は、いつもより長めの話になります。
「状況によっては、君にも手伝ってもらうよ。グラシアさん」
と、真剣な表情でそう言ったオーディンに対して、
「はい。わかりました、オーディン様」
同じく真剣な表情でコクリと頷きながらそう返事したグラシア。
その後、
「よし、まずはこっちに進もう」
と、オーディンがとある方向を指差したので、
「わかりました」
とグラシアがそう返事すると、オーディンに案内されるようにその場から進み出したが、それから少しして、
「……あの、オーディン様。何故、私達はこの方向に進んでいるのですか?」
と、「ん?」と疑問に感じたグラシアは、恐る恐るオーディンに向かって尋ねた。
そんなグラシアの質問に、
「そりゃあ、春風君は僕の契約者にして僕の分身だからね、それなら、契約主にして本体である僕に、彼の居場所がわからない筈がないでしょ」
と、オーディンはドヤ顔でそう答えたので、
(うわ、ドヤ顔ウザい!)
そんなオーディンを見て、グラシアは一瞬嫌な顔をしたが、
「あぁ、そうでしたか」
すぐに納得の表情を浮かべながら、オーディンに向かって返事した。
ただ、
(うん。グラシアさん、今絶対に『ドヤ顔ウザい』って思ってるだろうなぁ)
オーディンには既にバレてるみたいだが。
とにかく、その後は特に問題もなくグラシアとオーディンは真っ暗な闇の中を進み続けた。その最中、
「春風様……」
と、グラシアは心配そうな表情で春風の名を呟いたので、
「ねぇ、グラシアさん」
その呟きが聞こえたオーディンはグラシアに向かって声をかけた。
オーディンに声をかけられて、
「は、はい、何でしょうか?」
と、グラシアがそう返事すると、
「グラシアさんは、春風君のことどう思ってるんだい?」
そんなグラシアに向かって、オーディンは真顔でそう尋ねたので、その質問に対して、
「へ!? あ、あの、それは、どういう意味でしょうか!?」
と、グラシアは戸惑いながら尋ね返すと、
「いや、すまない。変な意味じゃないんだ……」
と、オーディンは申し訳なさそうに謝罪して、
「ただね、君は春風君と共に女神ヘリアテスのところから旅立って今日までずっと一緒だったから、彼のことをどう思ってるのか気になっただけのことなんだ」
最後にそう付け加えた。
そんなオーディンの言葉に、グラシアは「それは……」と呟くと、
「そうですね。最初は『生前に見た未来が本当になるのか見届けたい』という想いで春風様について行きました」
「うん、そうだったね」
「ですが……」
「ん?」
「ヘリアテス様のもとで暮らしていた時もそうでしたが、春風様はとても一生懸命な方で、それはハンターになった後も変わらなくて、受けた仕事にはキチンと向き合っていて、他の人に対してもとても優しくて
……」
と、穏やかな笑みを浮かべながら、自身が知る「春風」について説明した。
その説明を聞いて、
「うんうん、そうだね……」
と、オーディンが相槌を打つと、
「それに……私の心も、救ってくださって……」
と、グラシアがソッと自身の胸に手を当てながらそう言ったので、
「それって、ギデオン・シンクレアとのことかな?」
オーディンは真面目表情でそう尋ねると、グラシアはコクリと頷いて、
「私は生前、あの男に復讐しようと思っていたのですが、彼の圧倒的な強さや苛烈さを前に怖気付いてしまい、それ以来息を潜めながら、逃げるように各地を転々としたのですが、それでも両親を殺された恨みがはれることはなく、死んでからもその想いは私の中で燻っていました」
と、辛そうな表情でそう答えたので、
「うん、当然だね」
と、オーディンが更に相槌を打つと、
「ですが、春風様が『グラシアさんの仇だ』と言ってレナ様達と共にギデオンにトドメを刺した時、私の中の『ギデオンに対する恨み』がスッと消えていくのを感じました。先ほども言いましたが、あの時点で、私の心は救われたのです」
グラシアは胸に当てた手をグッと握り締めながら言った。よく見ると目に涙を浮かべていたので、
「……そっか」
と、オーディンはただ一言そう呟くと、
「いつか、私は成仏しなくてはならない時が来るでしょう。ですが、その時が来るまで、私を傍に置いてくださったヘリアテス様やループス様、レナ様、そして、私の心を救ってくださった春風様の傍にいたい。今は、『自分が見た未来を見届けたい』という想い以上に、そう思っております」
と、グラシアは少しだけ震えた声でそう言ったので、
「教えてくれて、ありがとう」
と、オーディンはグラシアに向かってお礼を言い、
「それと、嫌な質問してすまない」
最後に再び申し訳なさそうに謝罪した。
そんなこんなで暫く進んでいると、遠くの方で小さな赤い光が見えたので、
「あ! オーディン様、あの光は!」
と、グラシアが前方を指差しながら声をあげて、
「うん。どうやら、ゴールはもうすぐみたいだね」
そんな彼女にオーディンはニヤッとしながら返事した。
その赤い光を見つめながら、
「よし、それじゃあ行こうか」
「は、はい!」
と、1柱と1人が進むスピードをあげようとした、まさにその時、
「……誰?」
「「!?」」
何処からか幼い少女のものと思われる声がしたので、グラシアとオーディンはその場に止まった。
次の瞬間、1人と1柱の目の前で、ボゥッと真っ赤に輝く3つの異なる大きさをした光の玉が現れた。
「こ、これは……!?」
と、突然現れたその3つの光の玉に驚くグラシア。一方、オーディンはというと、
「ふむふむ……」
かなり落ち着いた表情で、冷静に分析するかのようにその光の玉を1つ1つ見つめていた。
すると、彼女達の目の前で、その3つの光の玉は少しずつ形を変えていき、やがて人の形となると、それぞれ武器を構えた。
人の姿をした3つの赤い光は、背丈と体格こそ異なっているが、その手に持っているのは1種類だけ、
「あ、あの剣は!」
「……彼岸花か」
そう、3つの光達の手には、真紅の刀身を持つ刀……春風が抜いたものと同じ「彼岸花」が握られていた。
3つの光達は、グラシアとオーディンを前にそれぞれ「彼岸花」を構える。
全員異なる構えをしていて、どの構えも隙がなく、
「お、オーディン様、これは一体……!?」
と、グラシアは狼狽えたが、
「うーん。どうやら、春風君以外の何者かが、僕達を『敵』とみなしているみたいだねぇ」
オーディンは落ち着いた表情を崩さずにそう返事した。
その後、
「ま、それを抜きにしても……」
と、オーディンは小さな声でそう呟くと、グラシアから1歩前に出て、
「『神』である僕に対してこの歓迎、ちょっとムカついてきたねぇ」
目の前にいる3体の人型の光を、冷徹に睨みつけたので、
「お、オーディン……様?」
と、そんなオーディンの雰囲気にビビったグラシアは恐る恐る声をかけたが、そんな彼女を無視して、オーディンは両手をパンっと合わせた。
その後、ゆっくりとその合わせた両手を離すと、手と手の間が白く光り出した。
少しずつ手を離していく毎に、白い光が棒のような形となっていく。
そして、オーディンが両手を広げ切った時に、白い光は1本の槍となった。
見た目はなんの装飾もない、白い柄と穂先のみのシンプルな槍だが、グラシアはその槍を見て何かを感じたのか、
「き、綺麗……」
と、ポーッとしながらそう呟いた。
そんなグラシアを見て、オーディンは「ふふ」と笑うと、出来上がったその白い槍を両手でクルクルと回し、その後すぐに、3体の光達に向かって構えると、
「我が名は『地球の神』が1柱、オーディン! 『神』の行く手を阻む不届き者達よ、この我が愛槍『グングニル』のさびになりたくなければ、武器を捨てて即刻消え失せるがいい!」
と、真剣な表情でそう言い放った。




