第526話 グラシア、目覚める
時を遡ること少し前。
それは、春風が「妖刀・彼岸花」によって異形の姿に変えられる直前のことだった。
「あ、あの、春風……様?」
「すみませんグラシアさん。ちょっと黙っててくれませんか?」
と、恐る恐る声をかけてきたグラシアに対して、冷たくそう返事した春風。
しかし、その声色は何処か苦しそうだったので、
(は、春風様、一体何が?)
と、グラシアは困惑した。
そして、
「あ、ああ! あああああ!」
春風の体が、彼岸花の鍔から伸びた赤い光の帯に包まれ出したので、
「は、春風様……!」
と、グラシアは春風の名を呼ぼうとしたが、光の帯は春風の左腕に装着された銀の籠手、もっと言えばグラシアが入ってるマジスマまでも包み込んでしまい、
「あああああっ!」
その影響なのか、グラシアもマジスマの中で悲鳴をあげた。
それからどのくらいの時が経ったのか、
「う、うーん」
辺り一面真っ暗な闇の中で、グラシアは目を覚ました。「幽霊」なのに「目を覚ました」という表現は何処かおかしいのかもしれないが。
まぁとにかく、
「ここは……何処なのかしら?」
と、目を覚ましたグラシアは、まだ完全に覚醒してないにも関わらずキョロキョロと辺りを見回した。
しかし、見渡す限りの何もない真っ暗闇で、唯一見えてるのは青白く光る自分自身の体のみ。
そんな状況の中、
「私は……どうしてこんなところに……?」
と、グラシアは何故自分がこの闇の中にいるのか考えてると、
「……あ、春風様」
そこで漸く闇の中で目を覚ます前の記憶を思い出したので、
「春風様! 春風様ぁ!」
グラシアはすぐに春風の名を叫んだ。
しかし、その後シーンと静かになったので、
「ああ、春風様。どうすれば……私はどうすれば……?」
と、グラシアは悲しそうな表情を浮かべながら身を小さくすると、震えた声でそう呟いた。
その時だ。
「あーもしもし、そこの幽霊さん」
と、グラシアの背後で男性のものと思われる声がしたので、
「ひゃいい!」
その声にグラシアはビクッとしながら姿勢を正して、
「だ、誰ですか……!?」
と、すぐにバッと後ろを振り向くと、
「やぁ、こんにちは」
そこには、白いワイシャツと青いジーンズ姿をした、スマートな感じに整えられた灰色の髪と落ち着きのある顔付き、そして、不気味に赤く光る右目を持つ、「クールなお兄さん」を思わせるかのような雰囲気をした20代前半くらいの若い男性が立っていた。
真っ暗闇の中に現れたその男性に向かって、
「あ、あの……あなたは……?」
と、グラシアが警戒しながら尋ねると、
「はじめまして、グラシア・ブルームさん」
その質問に対して、「クールなお兄さん」は穏やかな笑みを浮かべながらグラシアの名を呼び、
「僕はオーディン。以前君が出会った『天照大神』と同じ『地球の神』の1柱で、雪村春風と契約を結んだ者さ」
と、最後にそう自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、
「あ、アマテラス様と同じ……あなたが、春風様の……!?」
と、グラシアはギョッと目を大きく見開いたが、
「……はっ! も、申し訳ありません!」
すぐにハッとなって、オーディンに向かって深々と頭を下げて謝罪した後、
「私は、『幽霊』のグラシア・ブルームと申します! 以後お見知り置きを!」
と、若干混乱しながらそう自己紹介した。
そんなグラシアの言葉に、
「ふふ、こちらこそよろしくね」
と、オーディンは笑いながらそう返事すると、
「あ、あの、オーディン様。無礼を承知でお尋ねしたいのですが……」
と、グラシアが何やら神妙な面持ちでそう言ったので、それにオーディンが、
「ん? どうしたんだい?」
と首を傾げながら、グラシアに向かってそう返事すると、
「ここは一体何処なのでしょうか? 辺り一面真っ暗で何見えないのですが?」
と、グラシアは左右を見回しながら尋ねてきた。
その質問を聞いて、オーディンは「ふむ……」と声をもらすと、
「ここは春風君の『精神世界』と言えばいいだろうね。今は『悪い力』の所為で、こんな黒く染まってしまったけど……」
と、周囲を見回しながら答えたので、
「悪い力……?」
その答えにグラシアは首を傾げると、
「まさか、あの剣ですか!?」
と、ハッとしながら再びオーディンに向かって尋ねた。
そんなグラシアにオーディンはコクリと頷くと、
「そうだ。春風君が抜いた『妖刀・彼岸花』は、使い手に絶大な力を与えるが、それと引き換えに大きな代償を強いる剣でね、その為に、彼は今危険な状態にあるんだ。多分君がここにいるのは、春風君が剣の力に取り込まれた時に一緒にいたからじゃないかな」
と、オーディンは真剣な表情でそう答えたので、
「き、危険な状態ですか? それは、一体……」
と、グラシアがタラリと汗を流しながら恐る恐る尋ねると、
「当然、『死』だね。いや、最悪の場合それ以上の恐ろしい結末を迎えるかもしれない」
オーディンは更に真剣な表情で答えた。
そんなオーディンの答えに、
「そ、そんな、春風様が……」
と、グラシアはショックで呆然としていると、
「お、オーディン様! なんとか……なんとかならないのですか!?」
オーディン掴み掛かる勢いで問い詰めた。
すると、オーディンは真剣な表情を和らげると、
「大丈夫、安心してグラシアさん。僕だって彼に死んでほしくないって思ってる。僕だけじゃない、他の『地球の神』も同じさ」
と、優しい口調で答えて、
「幸いなことに、春風君は結構強い精神力を持っているからね。未だに剣に完全に取り込まれてないのが、その証拠さ。で、そのおかげで、僕の精神がここに送ることが出来たんだし」
最後にニヤッとしながらそう付け加えた。
その言葉を聞いて、グラシアはホッと胸を撫で下ろしたが、
「でも、だからといってこのままにしておくわけにはいかないというのも事実だし、僕自身も『精神を送った』と言ってもかなり弱い状態だ、何処まで出来るかわからない。だから……」
と、オーディンは再び真剣な表情を浮かべながら言い、
「状況によっては、君にも手伝ってもらうよ。グラシアさん」
最後にグラシアを見つめながら言ったので、そんなオーディンの言葉に、
「はい。わかりました、オーディン様」
と、グラシアも真剣な表情でコクリと頷きながら返事した。




