第525話 登場、もう1柱の「邪神」?
突如、春風達の前に現れた黒い何か。
全身に禍々しい黒いオーラを纏ったその姿は、まさに1匹の狼のようなものだった。
何故、「狼」ではなく「狼のようなもの」なのか?
それは、その見た目があまりにも普通の狼からかけ離れていたからだ。
どういう見た目かと言うと、まず雄牛一頭ほどの大きな体を持ち、頭から爪先、尻尾までもが漆黒に染まっていて、左右の目はまるで血のように赤く、額にも真っ赤に染まった第3の目があった。
そんな狼のような姿をした黒い何かを見て、
「おいおい、何だよあいつは……」
と、フランクが緊張した様子でタラリと汗を流すと、
「……お父さん」
と、レナがボソリとそう呟いたので、
「はぁ!?」
それを聞いたフランクは大きく目を見開いた。
そしてそのすぐ後、
「……ループス?」
と、黒い何かを見たヘリアテスがそう呟き、
「え!? ま、待ってください! 今、『ループス』って……!」
その呟きを聞いて、イヴリーヌがギョッと大きく目を見開くと、
「じ、獣人の……神様」
ヘリアテスに続くように、ピートも黒い何かを見て大きく目を見開きながら呟いたので、
「ループス……まさか、『邪神ループス』なのか!?」
と、その呟きを聞いたヘクターも、ピートと同じように大きく目を見開いた。
すると、
「……はぁ。その呼び名、こちらとしても不本意なんだがな」
と、目の前に現れた狼のような姿をした黒い何かが、溜め息を吐きながらそう言ったので、
『喋ったぁ!』
と、声を聞いた一部の者達を除いた周囲の人達は、一斉に驚きの声をあげた。
そんな彼らの反応に、
「ふっふっふ……」
と、黒い何かが声に出して小さく笑うと、
「そうだ、俺の名はループス。『月光』と『牙』を司りし神。まぁもっとも、今は『邪神』などと呼ばれてるがな」
と、周囲を見回しながらそう自己紹介した。
その自己紹介を聞いて、その場にいる誰もが何も言えず、ただ目の前にいる「神」と名乗った黒い何かを見てタラリと汗を流していると、
「お、お父さん! 本当にお父さんなの!?」
と、レナが黒い何かに向かってそう尋ねてきたので、
「あぁそうだよ、我が娘レナ」
そんなレナの質問に、黒い何か……否、ループスが静かにそう答えると、
「……ふ、ふはは、ふははははははは!」
と、フランクは大きく声に出して笑い出した。
その笑いを聞いて、周囲の人達が「何事!?」と言わんばかりに一斉にフランクに視線を向けると、
「こいつはいい! こいつはいいじゃねぇか! 長きに渡る封印から目覚めた2柱の『邪神』が、こうして目の前に揃ってるとはな! これも偉大なる5柱の神々の導きってんなら、まさに最高じゃねぇかよ!」
と、フランクは狂気に満ちた笑顔を浮かべながら言った後、最後に「ふはははは……!」と声高々に笑った。
その後、ひとしきり笑ったフランクはスッと表情を真剣なものに変えると、
「決めたぜ、レナ・ヒューズの前に……」
と言って、手に持っている剣をグッと握り締めながらそう言って、
「まずはテメェからだぜ!」
目の前にいるループス目掛けて突撃した。
それを見て、
「お、お父さん……!」
と、レナが大きく目を見開きながらループスの名を叫んだが、とうのループスはその場から動くことなく、代わりに自身の尻尾をスッと動かしたので、
「っ! 駄目よ! フランク!」
それを見て何かを感じたケネスが、フランクに「待った」をかけようとしたが、
「おら死ねやぁ!」
そんなケネスを無視して、フランクはループスに向かって剣を振り下ろそうとした。
だが、それでもループスはその場から動こうとせず、代わりに尻尾をヒョイッと横に振った。
次の瞬間、尻尾を振ってすぐにビュオッと強い衝撃波が発生し……。
ーーバァン!
「ぐはぁああああ!」
それを受けたフランクは、思いっきり後ろへと吹っ飛ばされた。
そんなフランクを見て、
「よ、よくも……!」
と、ケネスはそう呟くと、大鎌をグッと握り締めて、先ほどのフランクと同じようにループスに向かって突撃した。
そして、
「『邪神』め、覚悟おし!」
と、ケネスがループスに向かって大鎌を振るったが……。
ーーブン!
それよりも早く、ループスは思いっきり尻尾を振り、
ーーブワァ!
その瞬間、再び衝撃波は発生し、
ーーバァン!
「ぶはああああっ!」
それを受けたケネスも、フランクと同じように思いっきり吹っ飛ばされた。
その後、
「さてと……」
と、ループスが、ゆっくりと春風の近くまで寄ると、
「うーん」
と考えこみながら、そう小さく唸り声をあげた。
そんなループスを見て、
「お、お父さん?」
と、レナが恐る恐る声をかけると、
「こりゃいかんな。このままだとこいつ、剣に何もかも喰われるぞ」
と、そんなレナに向かってループスが淡々とそう言った。
その言葉を聞いて、
「そ、そんな!」
と、レナはショックで一瞬泣きそうになったが、すぐにハッとなってゴシゴシと自身の目を擦ると、
「お父さん、春風を助けるにはどうしたらいいの!?」
と、真面目な表情でループスに向かって尋ねた。
だが、
「残念だが、俺達が出来ることは何もない」
と、ループスは冷たくそう答えたので、
「そんな、お父さん!」
と、それを聞いたレナがループスに何か言おうとしたが、
「まぁ待て。俺達は出来ないが、1人だけ可能な奴がいるじゃないか」
それを遮るかのようにループスが「ちっちっち……」と指を動かしながら言ったので、
「え? 『1人だけ』って……」
と、今度はヘリアテスがそう口を開くと、
「忘れたのか? 彼と共に旅立った、とある幽霊の存在を」
そんなヘリアテスに向かって、ループスはチラッと春風を見ながら言った。
その瞬間、
「「「「「あっ!」」」」」
ヘリアテスだけでなく、レナ、アメリア、ニーナ、ピートまでもが、大切なことを思い出したかのように大きく目を見開いた。
そして、そのすぐ後、春風の中では、
「う、うーん」
その幽霊、グラシアが目を覚ました。




