第520話 変わり果てた春風と、「彼岸花」の秘密
そして、それから2年後の現在、異世界「エルード」のとある森の中で、
「ヴアアアアアアアッ!」
彼岸花の力によるものか、春風は異形の姿へと変貌した。
その瞬間、春風を中心に強い衝撃波が発生し、
「ぐおおお! ま、またかよぉ!」
「こ、今度は、さっきのよりも強い……!」
それを受けたフランクとケネスは後ろに強く吹き飛ばされたが、一方、春風の仲間達はというと、
「騎士達よ、みんなを守るぞ!」
『はっ!』
ヘクターと騎士達が壁となって衝撃波を受けたおかげで、レナをはじめとした後ろにいる者達に被害が及ぶことはなかった。
その後、衝撃波がおさまり、
「大丈夫ですか!?」
と、ヘクターがチラッと後ろを見ながら尋ねると、
「は、はい、全員無事です。ありがとうございます……」
その質問に対して、イヴリーヌは弱々しく笑いながら答えたが、
「……は! 春風様は!?」
と、今思い出したかのようにヘクターに向かってそう尋ねると、
「そ、それが……」
と、ヘクターが何やら答え難そうな表情になったので、
「……っ」
それを見たレナはすぐにヘクター達を押し除けて、目の前にいる春風を見たが、
「は……春風……なの?」
彼のあまりの変貌ぶりに、レナは大きく目を見開いた。
彼岸花の刀身と同じように真っ赤に染まった全身と、腰まで届く真っ赤な長い髪、大きく開かれた両目は不気味なくらい白く、開いてる口も上下共にギザギザしていて、左手の指先は鋭く尖っていた。
そして、何より不気味なのは、右手が彼岸花と一体化していたことだった。細身だった刀身は、まるで大剣のように広く、どの部分が柄なのかもわからない、まさに右腕全体が、一振りの刀となっていたのだ。
あまりにも異形な姿となった春風を見て、
「は、春風……」
と、凛咲がそう口を開いたまさにその時、
「あんたぁ!」
レナが凛咲の胸ぐらを掴んできた。
その表情は「怒り」に満ちていて、
「れ、レナちゃん……?」
と、キャロラインが恐る恐る尋ねてきたが、それを無視して、
「あれは一体何!? あんた、春風に何を渡したの!?」
レナは、変わり果てた春風をビシッと指差しながら凛咲を問い詰めた。
その質問を受けて、凛咲は表情を暗くすると、
「……あの刀、魔剣……いや、『妖刀・彼岸花』は、『悲しみ』を吸収して力に変える刀なの」
と、ゆっくりと口を開きながら答えた。
その答えを聞いて、
「か、悲しみ……ですか?」
と、今度はイヴリーヌがそう尋ねると、
「ええ、使い手の『悲しみ』が深ければ深いほど、発揮される力も大きくなるんです。そして、それで敵を倒せば、その敵の『悲しみ』も吸収し、自身の力に変えるのです」
その質問に対して、凛咲はチラッとイヴリーヌを見ながら答えた。
すると、
「そ、それは……うちの陛下が聞いたら『是非欲しい!』と目を輝かせるでしょうねぇ」
と、キャロラインが「はは」と頬を引き攣らせながら言ったが、そんな彼女の言葉に、
「……ですが」
と、凛咲は更に表情を暗くすると、
「その力を振るい続ければ、使い手は刀自身の『悲しみ』に喰われて、やがて全てを失ってしまうんです。命も……肉体さえも……」
と、恐ろしく低い声でそう付け加えたので、
「な、何だと!? では、彼のあの姿は、そうなる前兆だというのか!?」
凛咲の説明を聞いて、ヘクターはチラッと春風を見ながらそう尋ねると、凛咲は悲しそうに顔を伏せるだけで、それ以上何も答えなかった。
そんな凛咲の態度に、レナはブチっと切れたのか、
「何でそんなの春風に渡したの!?」
と、涙を流しながら凛咲に向かってそう怒鳴ると、ドンッと彼女を突き飛ばして、
「春風!」
その後すぐにヘクター達を飛び越えると、
「ま、待て……!」
と、止めるヘクターを無視して、春風のもとへと駆け出した。
そして、残された凛咲はその場に力無くへたり込むと、
「……私だって、使わせたくなかったわよ」
と、涙を流しながら呟いた。
さて、肝心の春風はというと、異形の姿になってから、ピクリとその場から動こうとせず、吹き飛ばされたフランクとケネスに視線を向けながらボーッとしていた。
するとそこへ、
「春風!」
と、レナが駆け寄ると、
「春風! 春風、聞こえる!? お願い、その剣を捨てて! お願いだから!」
レナは必死になって春風に呼びかけて、彼岸花を捨てるようにと言った。
しかし、
「……」
その呼びかけが聞こえてないのか、春風は何の反応も示さなかったので、
「だ、だったら……!」
と、レナはそう呟くと、今度は大きな刀と化した春風の右腕を両手で握って、
「この! 離れて! 春風から離れてぇ!」
何と春風と彼岸花を強引に引き剥がすつもりなのか、グッと思いっきり引っ張りだした。
しかし、どれだけ引っ張ってもびくともせず、
「はぁ……はぁ……」
やがて疲れてきたのか、レナは苦しそうに肩で息をした。
一方、衝撃波で吹き飛ばされたフランクとケネスはというと、
「ちくしょう、いきなり姿が変わったかと思ったら、またしても吹き飛ばしかよ」
と、フランクは異形の姿となった春風を見て悪態を吐き、
「まったく、参っちゃうわね本当に……」
ケネスも春風を見て、「やれやれ」と言わんばかりの表情になったが、
「でも、あの子が鞘から抜いたあの剣。そして、その剣と一体となった右手……」
と、すぐに落ち着いた表情で冷静に分析し出すと、
「恐らくあの剣、使い手に何らかの『代償』を強いるタイプのようね。今のところ動いてないみたいだけど、動き出したらどれほどのものになるか……」
と、最後はそう結論付けた。
そんなケネスの分析を聞いて、
「だったら、今度は2人がかりでやるぞ。野郎が動き出す前にな」
と、フランクがそう提案してきたので、
「そうね、その方がいいかも」
と、ケネスがその提案に賛成すると、
「へっ! じゃあ、とっとと行くぜ!」
とフランクはニヤッとしながらそう言って、ケネスと同時に突撃した。
そんな2人の気配に気付いたのか、
「はっ! いけない!」
とレナはそう言うと、後ろを振り向きながら、
「春風は私が守る!」
と言って、自身の武器である棒を構えた。
そして、
「は! 『白き悪魔』も一緒か!」
「それなら、2人仲良くお死に!」
と、春風とレナの傍まで近づいていたフランクとケネスが、2人に向かって武器を振り下ろすと、
「……レ……ナ」
変わり果てた春風は、目の前にいるレナを見て口を開いた。




