第519話 「妖刀」を抜いた日
それは、今から2年前、春風が中学3年生の時のことだった。
その頃の春風は、「師匠」である凛咲と、彼女の新たな「弟子」となった水音と共に、様々な国を旅していた。勿論ちゃんと学校には通ってるし、旅をする日や予定もキチンと話し合って決めているし、養父である涼司や、水音の家族にも許可は貰っている。
3人の旅の内容は旅した国によってそれぞれ異なっていて、特に問題のない穏やかなものがあれば、苦難相次ぐ大変なものもあった。酷い時は一歩間違えたら大怪我じゃ済まない危険なものもあったが、それでも3人は力を合わせてそういった困難を乗り越えていった。
しかし、中学3年の夏……春風は本気で「死」を覚悟した。
それは、ヨーロッパのとある国を旅してた時のことだった。
目的地はその国の中にある小さな村で、春風と凛咲は何度か行ったことがあり、春風自身もその村の住人達と良好な関係を結んでいた。
そして、久しぶりにその村を訪れることを、春風は楽しみにしていたのだが、訪れたその日……村は壊滅状態になっていた。
(な、何だよこれ? 何があったんだ!?)
春風達は何が起きたのかをわからず呆然としたが、
「と、とにかく2人とも、中を調べてみないと!」
と、我に返った凛咲がそう提案し、それを聞いた春風と水音が、
「「は、はい!」」
と返事すると、3人で何があったのかを調べることにした。
村に入ると、家屋はまるで攻撃を受けたかのような無残な状態になっていて、ところどころで煙が上がっていた。
それだけでも何かとんでもないことが起きたのは理解出来たのだが、それ以上に謎だったのは、壊滅した状態だというのに、住人の姿が全くなかったのだ。
(み、みんな、一体何処に行ったんだ!?)
あまりのことに戸惑いながらも、
「だ、誰か! 誰かいませんかぁ!?」
と春風はそう叫びながら、必死になって住人達を探した。その際、春風の脳裏に浮かんだのは、村で過ごした楽しかった記憶なのだが、無残に破壊されている建物を見る度に、その思い出は灰色に染まっていったので、
(い、嫌だ、嫌だよぉ!)
それが、春風をますます不安にさせた。その時、春風の脳裏から楽しかった記憶は消えて、代わりに浮かんだのは、実の両親を亡くした時の記憶だった。
その時だ。
「い、いた! 見つけたわ!」
凛咲が村の住人である4人の子供達を見つけたのだ。その子達は春風も面識があって、見つかったと聞いて、
「よ、よかったぁ」
と、春風はホッと胸を撫で下ろしたのだが、その子達の口から出たのは、
「悪い奴らが来て、村のみんなをさらっていった」
というショッキングな出来事だった。
彼らの話によると、ある日突然村に武装した集団がやって来て、次々と建物を破壊しながら、住人達を残らず大型車に乗せて何処かへと連れ去ったという。そして残った4人の子供達はというと、全員家の地下室に隠れていたので、さらわれるのを免れたそうだ。
一連の話を聞いて、
「2人とも、どうやらまた厄介ごとのようだけど、どうする?」
と、凛咲が春風と水音に向かって尋ねると、
「勿論、助けに行きます!」
と、春風はそう即答し、
「ぼ、僕もです! ここで待たされるなんて、嫌ですから!」
水音も、若干声が震えてはいるが、真っ直ぐ凛咲を見てそう答えたので、
「わかったわ。2人とも、手伝ってもらうわよ」
2人の答えを聞いて、凛咲は覚悟を決めたかのようにそう言った。
その後、春風、凛咲、水音の3人は子供達を安全な場所に避難させると、さらわれた人達を助ける為に行動を起こした。
あらゆる情報の中から、住人達をさらった連中のことや、そいつらが何処を拠点にしているのかを突き止めると、3人はしっかりと準備を整えてその拠点に向かった。
そして、侵入の末に見事、村の住人達を救出し、後は拠点を破壊しつつ脱出する……筈だったのだが、敵は春風達よりも1枚上手だったようで、あっという間に大ピンチへと陥った。
凛咲も水音も思うように動くことが出来ず、春風自身も敵の兵器を向けられて、
(あ。これもう死むかも……)
と、諦めかけたまさにその時……。
ーードォオオオオオン!
という大きな音と立てながら、春風の目の前に赤い稲妻が落ちた。
突然のことに、
「な、なんだぁ!?」
と驚いた春風が、恐る恐るその赤い稲妻が落ちた場所へと視線を向けると、そこには鞘に納まった一振りの日本刀が刺さっていたので、
(に、日本刀……? 何だろう、どっかで見たことあるような……)
と、それを見た春風が疑問に思っていると、
「よ、『妖刀・彼岸花』! どうしてここに!?」
その日本刀を見て、凛咲が驚愕の声をあげた。
そう。赤い稲妻として春風の目の前に落ちて来たのは、13歳の時に凛咲の家の地下室で見つけた、「彼岸花」という刀だったのだ。
それを見た瞬間、
「そうだ、『彼岸花』だ」
と、春風が思い出したかのようにそう呟くと、
ーー抜いて。
と、目の前の彼岸花から聞き覚えのある「声」が聞こえたので、
「俺に、『抜いて』と言ったんですか?」
その声に春風がそう返事すると、
ーー私を抜いて。そうすれば、「力」をあげるから。
また、彼岸花からそんな「声」が聞こえた。
その「声」を聞いて、
「力が……」
と、春風はそう呟くと、彼岸花に手を伸ばしたが、
「だ、駄目よ、春風! それに触っちゃ駄目!」
と、動けずにいた凛咲がそう叫んできたので、それを聞いた春風は手を止めた。
確かに、春風は目の前にある「彼岸花」という日本刀からは、何やらとてつもなく危険なものを感じてはいた。その為、春風は彼岸花に触れるのを躊躇ったが、
「……それでも……それでも、俺は!」
と、春風はそう言うと、両手でグッと彼岸花掴んで地面から引き抜いた。
そして、右手で彼岸花の柄を掴むと、
「やめて! やめてぇ!」
と悲鳴のような叫びをあげた凛咲を無視して、
「彼岸花、俺に力を貸してくれ! 師匠と、水音と、村の人達を……みんなを守りたいんだ!」
と、春風はそう叫びながら、彼岸花を鞘から引き抜いた。
その後、
「ヴアアアアアアアッ!」
まさに「大惨事」が始まった。




