第516話 「彼岸花」の力
今回は、いつもより長めの話になります。
「俺に力を貸してくれぇ!」
そう叫びながら、春風は腰の刀「彼岸花」を鞘から引き抜いた。
抜き放たれた刀身が、今、春風に向かって振るわれたフランクとケネスの武器にぶつかる。
その瞬間、ブワッと凄まじい衝撃波が発生し、
「うおおお!?」
「あああ!」
それを受けて、フランクとケネスは悲鳴じみた叫びをあげながら吹っ飛ばされた。
いや、衝撃波を受けたのは彼らだけではない。
「うわあああ!」
「きゃあああ!」
「くぅ!」
あまりにも凄まじかったのか、レナをはじめとした春風の仲間達もその場から吹き飛ばされかけたが、皆、近くにあった木々にしがみついたことで、どうにかその場に留まることが出来た。
そして、衝撃波がおさまって、
「は、春風は?」
と、レナが春風に視線を向けると、春風本人は彼岸花を振り抜いた状態のまま、その場から1歩も動いてなかったので、
「よ、よかった……」
と、ホッと胸を撫で下ろしていると、
「あ……」
ふと、春風の右手に握られている彼岸花が視界に入ったので、レナは思わずそう声をもらし、
「赤い……刀身?」
レナに続くように、ヘリアテスも彼岸花を見てそう呟いた。
そう、鞘から抜き放たれた彼岸花の刀身の色は、鍔元から切先まで全て真っ赤だったのだ。
その真っ赤な刀身に、
「凄く……綺麗……」
と、見惚れていたレナはそう呟いたが、
(でも、なんだろう……)
それと同時に、何やら得体の知れないものを感じたのか、
(何だか……怖い)
と、恐怖でタラリと汗を流した。
そして、それはレナだけでなく、歩夢や美羽達、更にはイヴリーヌやキャロラインまでもが、
「あ、あれが……」
「ええ、魔剣『彼岸花』ってやつね……」
と、レナと同じようにタラリと汗を流しながら表情を強張らせていた。
一方、衝撃波で吹き飛ばされたフランクとケネスはというと、
「うおっとと!」
「くっ!」
背中の翼を動かして、どうにか空中で体勢を整えると、
「ちぃ! なんて衝撃だよ、ちくしょうが!」
と、フランクは春風を睨みながらそう悪態を吐き、
「ええ。まさか、『天使』である私達をここまで吹き飛ばすなんてね」
ケネスは左手で汗を拭いながら感心した。
その後、
「真っ赤な剣か……」
と、フランクが赤い刀身を持つ彼岸花を見てそう呟くと、
「なぁ、ケネス。感じるか?」
チラッとケネスに視線を向けながら尋ね、その質問にケネスは、
「ええ。鞘から抜かれた瞬間、とてつもなく邪悪なものが更に大きく感じたわ」
と、コクリと頷きながら答えると、
「あれは……この世界にあってはならないものよ」
最後にそう言いながら、鋭い視線を彼岸花に向けた。
その言葉を聞いて、
「へっ! そうかよ……」
と、フランクがそう呟くと、ビュンッと春風に向かって突撃したので、
「ちょ、フランク!?」
とそれを見たケネスが驚きの声をあげると、
「どんなにヤベェ武器を引っ張り出そうが……!」
フランクはそう言いながら、手に持っている剣を大きく振り上げて、
「俺が先にぶっ殺せば……!」
やがて春風のすぐ傍まで着くと、
「問題ねぇだろ!」
それを力いっぱい振り下ろしたので、
「危ない!」
と、それを見たアデレードがそう叫んだ。
だが……。
ーーガキィン!
「……」
春風は落ち着いた表情で、その攻撃を彼岸花で受け止めた。
「な、何ぃ! 勇者共の神器で強化されたこの剣を止めただとぉ!?」
まさかの事態に、「信じられない!」と言わんばかりの表情を浮かべたフランク。
しかし、
「……っ」
そんな彼を無視して、春風はグッと彼岸花を握る力を強くした。
その瞬間、元々赤かった彼岸花の刀身が更に真っ赤に染まり、バチバチと放電し始めたので、
「な、何だぁ!?」
と、フランクが驚愕の表情を浮かべると、
「ふぅ!」
春風は力強く1歩前に出て、受け止めていた剣諸共フランクを後ろへと押した。
その力が強かったのか、
「う、うおお!」
と、フランクは驚愕の表情のまま後ろへと押されてしまい、その結果、空中で無防備な状態になったので、それを見た春風は両手でグッと彼岸花を握り締めると、それを大きく振り上げた。
そして、
「はぁあああ!」
と春風が大きく叫ぶと、無防備なフランク目掛けて彼岸花を力いっぱい振り下ろした。
バチバチと音を立てて放電している彼岸花の刃が、フランクを斬り裂こうとしている。
それを見たフランクは、
「ちぃ!」
と、咄嗟に剣を前に翳して防御の体勢に入ったが、振るわれた彼岸花が剣にあたった瞬間……。
ーーバチバチバチィ!
「ぐおおおおお!」
彼岸花から出ていた赤い電撃が、フランクの剣を通して彼にダメージを与えた。
「か……は……」
思わぬ出来事に苦しそうに声をもらしたフランク。しかし、そんな彼に向かって、
「おおおおお……!」
春風は何度も彼岸花を振るった。
勿論、フランクも負けじと剣でそれを防御していったが、その度に彼岸花から出た赤い電撃が、フランクにダメージを与え続けていた。
そして、
「くうう……」
何度もダメージを受けて限界を迎えていたフランクに、
「……っ」
春風がトドメを刺そうとしたその時、
「調子に、乗るなぁ!」
ケネスが春風に向かって、フランクの剣と同じく神器で強化された大鎌を振るった。
その瞬間、大鎌から春風に向かって白い斬撃が放たれた。
それを見て、
「あ、あれは!」
と、レナが驚愕の表情を浮かべた。その時彼女の脳裏に浮かんだのは、フランクの「天使」への進化を阻止する為に春風が放った「ファイアボール」が、謎の斬撃によって消滅した時の記憶だった。そして今、目の前でケネスが白い斬撃を放ったのを見て、
(そ、そうか、あれはあいつが!)
レナは歯をギリッと鳴らしながら、「怒り」に満ちた表情になった。
一方、春風はというと、
「っ!」
ケネスが放った白い斬撃を見て、すぐに両手で彼岸花をグッと握り締めると、向かってきたその斬撃目掛けて力いっぱい振るった。
その瞬間、彼岸花から赤い斬撃が放たれて、ケネスの白い斬撃を跡形もなく消し去った。
「なっ!?」
まさかの出来事に驚くケネス。そんな彼に向かって、
「うおあああああっ!」
春風はフランクと同じように何度も彼岸花を振るった。違うのは、彼岸花から幾つもの赤い斬撃が放たれたことだけだ。
飛んできたその斬撃を見て、ケネスはすぐに大鎌で防御しようとした。
その結果、幾つか防ぐことは出来たが、それ以外の斬撃は容赦なくケネスにダメージを与えていき、
「あ、あああああ……!」
それによって、ケネスは苦しそうに悲鳴をあげた。
そんなケネスを見て、
「け、ケネス……小隊長……」
と、彼に元・隊員だったアメリアは辛そうな表情になり、
「姉さん……」
「アメリアお姉ちゃん……」
そんなアメリアを、妹のニーナと、獣人の少年ピートは心配そうに見つめた。
しかし、そんな2人を他所に、
「は、はは。すげぇ。すげぇよ春風」
と、鉄雄が嬉しそうに口を開き、
「こ、これ、多分いけるんじゃないかな?」
「うん。いけると思う!」
鉄雄と同じように、恵樹も嬉しそうな顔で言った。
そして、
「きゃあああ! 凄い! 凄いわ春風ちゃん!」
「春風、凄すぎる!」
「は、はい。春風様が凄すぎます」
と、キャロラインとアデレードは、そしてイヴリーヌは天使2人を圧倒する春風を見て表情を明るくし、
「フーちゃん、頑張って!」
「春風君……」
「春風……」
歩夢、美羽、そしてレナは春風の勝利を祈った。
だがそんな中、
(は、春風……)
凛咲は彼岸花を振り続ける春風を見て、
(お願いだから、無理は絶対にしないで。でないと……喰われてしまう)
何やら「不安」に満ちた表情を浮かべていた。




