第515話 「彼岸花」、抜刀
そして、時は現在、場所は異世界「エルード」。
「……彼岸花?」
と、その手に握られているものを見て、春風はそう呟いた。
(夜羽が……師匠に貰った『お守り』が、彼岸花?)
そう、春風の手には、「師匠」こと凛咲から貰った「お守り」の鉄扇を「魔導具」として改良した夜羽だったものにして、かつて凛咲の家の地下室で見つけた刀、「彼岸花」が握られていたのだ。
そして、そんな春風の呟きが聞こえたのか、
「え!? 『彼岸花』ってまさか!」
「前にハルッちが話してた……!」
「魔剣『彼岸花』か!?」
と、鉄雄、恵樹、そしてヘクターが目を大きく見開いたので、
「え、何それ!?」
と、レナが驚きの声をあげた。
すると、
「「マリーさん!」」
と、歩夢と美羽が凛咲に掴みかかったので、2人の声に春風を除いた周囲の人達がギョッと驚いたが、そんな彼らを無視して、
「どういことマリーさん!?」
「どうして、あの刀がここにあるの!?」
と、歩夢と美羽はゆっさゆっさと凛咲を揺さぶりながら問い詰めた。
2人の必死な質問に対して、
「それは……」
と、凛咲が何処か悲痛な表情でそう呟くと、
「あーすまない2人とも……」
そこへミネルヴァが申し訳なさそうに声をかけてきたので、その声に歩夢達だけでなく凛咲や鉄雄達までもが「ん?」と反応すると、
「どうやら、奴らに気付かれたみたいだ」
と、ミネルヴァはとある方向の空を指差しながら言ったので、その言葉に「え?」となった歩夢達が一斉にその指差した方向へと振り向くと、その空の向こうから見覚えのある2つの影が、こちらに向かって猛スピードで飛んでくるのが見えたので、
「げっ!」
と、それを見た鉄雄が驚きの声をあげた。
そして、それから少しすると、
「はっ! 見つけたぜ!」
「どうやら、当たりだったわね」
その2つの影……「天使」のフランクとケネスが、春風達を見てニヤッとしながら地面に降りてきたので、
「く……!」
と、フランク達を見てヘクターがギリッと歯を鳴らしながら、腰の剣の柄に手を置いた。
すると、
「師匠……」
と、春風が静かに口を開いたので、
「何、春風?」
と、凛咲がそう返事すると、春風は腰のベルトにつけたホルダーから翼丸を鞘ごと引き抜いて、
「持っていてください」
それを凛咲に差し出した。
突然の春風の行動に、レナをはじめとした仲間達が「え?」とキョトンとする中、
「……わかったわ」
と、凛咲はコクリと頷きながら、静かに翼丸を受け取ったので、
「え、ちょ、陸島さん!?」
それを見た恵樹は戸惑いに満ちた表情を浮かべたが、そんな恵樹を無視して、
「春風……」
と、凛咲が静かに春風にそう話しかけ、それに春風がピクッと反応し、ゆっくりと凛咲の方へと振り向くと、
「さっきも言ったけど、気をしっかりもってね」
と、凛咲は何処か心配そうな、それでいて悲しそうな表情を浮かべながら言ったので、
「……はい」
と、春風はニコッとしながらそう返事すると、すぐに目の前にいるフランクとケネスに視線を向けながら、彼岸花を空になった腰のホルダーの挿した。
その時だ。
「駄目だよ、春風!」
「春風お兄さん!」
と、何故か顔を真っ青にしたレナとピートが声をあげながら春風に近づこうとしたので、
「いけないわ」
すぐに凛咲はそう言いながら、2人の肩をガシッと掴んで、春風に近づかせないようにした。
「は、離して!」
と、肩を掴まれたレナは必死になってもがいたが、凛咲は黙って掴む力を強くしていったので、レナは彼女から離れることは出来なかった。勿論、ピートも同じだ。
やがて、レナは離れられないとわかると、
「春風、その剣を抜いちゃ駄目! それは、凄くヤバすぎる!」
と、春風に向かってそう叫び、
「そうだよ! それは、使っちゃ駄目だよ!」
レナに続くように、ピートも春風に向かってそう叫んだが、
「……ごめん」
と、春風はフランクとケネスを見つめたまま、レナとピートにそう謝罪するだけで、彼岸花を挿したホルダーをグッと左手で握った。
春風がレナ達から数歩程離れている一方、フランクとケネスはというと、
「……ねぇフランク」
「……なんだ?」
「あの子が新しく腰のベルトに挿した剣だけど……」
と、ケネスが小声でフランクにそう話しかけて、
「ああ、レナ・ヒューズと獣人のガキの言う通り……」
と、フランクも小声でそう返事すると、
「ありゃあ、とんでもなくヤベェものだ」
最後に春風の腰の彼岸花を見てタラリと汗を流しながらそう言い、そんなフランクの言葉に、
「そうね。鞘に納められてはいるけど、とてつもない邪悪なものを感じるわ。差し詰め、私達を倒す『秘密兵器』ってところかしら?」
と、ケネスはそう疑問を口にしたが、
「はっ! だが、今更どんな武器を出したところで、俺達がやるべきことはかわらねぇよ」
そんな疑問を無視するかのように、フランクがニヤッとしながらそう言ったので、その言葉にケネスは「ふふ……」と笑うと、
「そうね。それじゃあ、同時にいくわよ」
と、目の前の春風を睨みながらそう言い、それにフランクは「おう!」と返事した。
一方、レナ達から離れて、フランクとケネスからも離れた位置に着いた春風はというと、
(夜羽……いや、彼岸花……)
チラッと腰のホルダーに挿した彼岸花を見つめて、
(1年前から、ずっと俺と一緒にいたんですね?)
と、疑問に思った。
そう。春風は今まさに、1年前から今日まで、ずっと春風と共に過ごしてきた「鉄扇」が、まさかの「彼岸花」だったという事実に、春風は「喜び」と「ショック」が入り混じった複雑想いを抱いていたのだ。
(あなたが『恐ろしい力』を秘めているのは、2年前に初めて抜いた時に理解した。そのことに関しては、今も『怖い』という想いはあるよ)
と、春風は心の中で当時のことを思い出しながらそう呟いたが、
「でも……」
と、今度はそう声に出して、
「今は、俺と俺の大事な人達を……みんなを守る為に……!」
最後にそう言いながらゆっくりと彼岸花の柄をグッと握ると、
「死にやがれ!」
「お死に!」
と、フランクとケネスはそれぞれ武器を握り締めながら、春風に向かって突撃してきた。
それを見て、
「は、春風ぁ!」
「フーちゃん!」
「春風君!」
と、レナ、歩夢、美羽が悲鳴をあげる中、春風は落ち着いた表情で、目の前のフランクとケネスを睨むと、
「俺に力を貸してくれぇ!」
と叫びながら、2人に向かって彼岸花を抜いた。




