第513話 「怪物」
スキル「無限倉庫」から出てきた春風達が、今後について話し合っていた丁度その頃、彼らを探す為に飛び発ったフランクとケネスはというと、
「ちくしょうが! あいつら何処に行きやがった!?」
「落ち着きなさいったらフランク……」
未だに春風達を見つけることが出来ず、森の上空を飛び回っていた。
暫く飛び回ると、
「うっ!」
と、急にフランクが苦しそうに呻いたので、
「ほら見なさい。一旦下に降りるわよ」
と、ケネスが呆れ顔でそう言うと、フランクの腕を掴んで、共にゆっくりと地面へと降りた。
地面に着くと、
「ふぅ……ふぅ……」
と、フランクが辛そうに肩で息をし出したので、
「ちょっと大丈夫? 無理なら一旦戻るって手もありだと思うけど?」
そんな様子のフランクに、ケネスがそう尋ねると、
「いいや、ねぇな。折角手に入れたチャンスなんだ。みすみす逃すなんて、勿体ねぇ真似出来るかよ」
とその質問に対して、フランクは自身の手に握られている剣を見つめながら答えたので、
「まったく……」
その答えを聞いて、ケネスは呆れ顔でそう言った。
その後、フランクは「ふぅ」とひと息入れると、
「さて、まずは連中が何処に行ったかを考えねぇとな」
と、先程までとは違って落ち着いた表情でそう言ったので、
「ええ、その通りね」
その言葉に同意するかのように、ケネスもコクリと頷いた。
「俺達は共に天使でレベル100。と言っても、俺自身は天使になったばかりだから、まだこの体に慣れてねぇ故に何処まで戦えるかわからねぇが、かといって奴らを逃すつもりはねぇ」
と、冷静にそう分析したフランクに、
「そうね。折角『邪神』と『悪魔』を見つけたわけだし、ここで引き返したら、それこそ神々と大隊長から大目玉をくらうわ」
と、ケネスは冗談混じりにそう返事すると、
「はは、ちげぇねぇなおい!」
その返事を聞いて、フランクは大声で笑いながら言ったが、その後すぐに落ち着いた表情に戻ると、
「で、奴らは大勢だが、それでも力は俺達が上だと思ってる。おまけに元・勇者共と裏切り者のアメリアは戦意喪失の状態だ。そんな足手まとい共を抱えるとなると、それほど遠くに行ける筈がねぇ」
と、再び冷静に分析した。
その分析を聞いて、ケネスが「そうね」と呟くと、
「でも、土壁の向こうに連中はいなかった。まるで、その場からスッと消えたみたいにね」
とそこまで言って、最後に「やれやれだわ」と困った顔を浮かべた。
すると、
「ん? 『スッと消えた』?」
と、ケネスの言葉にフランクは何かに気付いたような表情を浮かべると、
「おい、ケネス。俺らが五神教会総本部に戻った時、ギデオンの旦那から聞いた雪村春風の話を覚えてるか?」
と、ケネスに向かって尋ねた。
その質問を受けて、ケネスは「ん?」と首を傾げると……。
ーー雪村春風……「赤き悪魔」は、魔力そのものを武器としている。それは、『スキル』や『魔術』の類ではなく、純粋な奴自身の技術だ。
と、脳裏にギデオンが言った言葉が浮かんだので、
「ええ、覚えてるわ」
ケネスはコクリと頷きながら、フランクに向かって答えた。
その答えに対して、
「そうだ。実際、雪村春風と空中戦してわかったが、旦那の言う通り、奴は風の魔力そのものを俺にぶっ放してきやがった。『魔術』なんかじゃねぇ、魔力そのものをだ。それだけでもヤベェが、そこへ更に複数の属性の魔力も持っている。つまり……」
と、フランクはそこまで言って、最後にケネスに視線を向けると、
「上手く操れば、自分達の姿を隠すことも出来る……」
その視線を受けたケネスは、フランクの言葉の意図を理解したかのように言ったので、その言葉にフランクはニヤリとすると、
「戻るぜ!」
「戻るわよ!」
と、ケネスと一緒になってそう言い、その後すぐに2人同時にその場から飛び去った。
さて、時は少し前まで戻り、
「向こうが『怪物』を使うなら、こっちも『怪物』を使うまでよ」
と、春風に向かってそう言った凛咲。
そんな彼女の言葉を聞いて、
「ま、マリーさん? 一体何を言ってるの?」
と、理解出来てない様子の歩夢が尋ねてきたので、
「言葉の通りよユメちゃん。と言っても、出来れば使わせたくなかったけどね……」
と、その質問に対して凛咲は暗い表情でそう答えると、
「いや、本当に使わせたくないのよマジで。私があいつら倒すのが一番いいんだけど、ハニー成長の為に、敢えて、敢えてね……」
更に表情を暗くしながらブツブツと呟き出したので、
「あ、あの、師匠……?」
と、春風が恐る恐る声をかけると、
「春風!」
と、いきなり凛咲がバッと春風の方へと振り向いてきたので、
「ひゃいい!」
春風は思わず変な声をあげながら、ビシッと姿勢を正した。
すると、凛咲は春風に近づいて、春風の両肩をガシッと掴むと、
「春風! いい!? 気をしっかりもつのよ! 大丈夫! あなたならきっと大丈夫だから!」
と、もの凄く真剣な表情でそう言ったので、そんな凛咲に何かを感じたのか、
「な、なんかよくわらないですけど、わかりました」
春風はそれ以上何も聞かず、代わりにそう返事した。
その返事を聞いて、凛咲は1歩春風から離れると、ゆっくりと深呼吸して、
「春風、夜羽を出して」
と、春風に向かってそう言い、それを聞いた春風は一瞬キョトンとしたが、
「は、はい」
とすぐにそう返事すると、腰のケースから改良した鉄扇「夜羽」を抜いて、それを凛咲に差し出した。
それを見て、凛咲は「よし」と頷くと、自身の懐に手を入れて、そこから何か小さなものを取り出し、それを春風に見せた。
それは、うずらの卵くらいの大きさをした小さな赤い卵のようで、それを見た春風は、
(な、なんだろう? なんか、懐かしい感じがする)
と、そう思いながら再び首を傾げると、
「ふん!」
なんと、春風の目の前で、凛咲はその小さな赤い卵をグシャッと握り潰したので、
「し、師匠!?」
と、春風が驚きの声をあげると、赤い卵を潰した握り拳から、スーッと赤い光が現れて、春風の手の中にある夜羽を包み込んだ。
次の瞬間、赤い光に包まれた夜羽がピカッと更に真っ赤に輝くと、黒い扇だった夜羽の形がグニャリと音を立てながら変わり始めた。
そして、その変化が終わった時、春風の手の中には、朱塗りの鞘に収まった一振りの日本刀が握られていたので、
「「そ、それは……!」」
と、それを見た歩夢と美羽が驚きの声をあげて、
「え、何!?」
そんな2人にレナがギョッとなる中、春風はというと、その手に握られている日本刀をジッと見つめて、
「……彼岸花?」
と、目を大きく見開きながら呟いた。




