第438話 叶えたかった「夢」
「俺はね……『賢者』になるのが夢だったんだ」
と、弱々しく笑いながらそう言った春風。
もしこれが何かの冗談だったら、
「おいおい、何言ってんだよぉ!」
と、笑いと共にそんなセリフが周りから出てくるだろう。
だが、
「「「「「……」」」」」
春風本人は笑ってはいたが、その様子があまりにも真剣だったので、誰一人笑うことはなく、
「……詳しい理由、教えてくれねぇか?」
と、鉄雄が真面目な表情でそう尋ねてきたので、それを聞いた春風はコクリと頷いて話し始める。
「さっきも言ったけど、父さんと母さんは俺にとって自慢の両親なんだ。大勢の人達を幸せにする為のエネルギーを生み出す方法を研究していて、その目的の為に一生懸命働いていたんだ。でも、だからって息子の俺のことを蔑ろにしていたわけじゃない。父さんも母さんも、仕事とプライベートはしっかりと分けるほうで、毎年俺の誕生日を一緒に祝ってくれて、学校行事にも出てくれて、俺が『お仕事はいいの?』って尋ねても……」
ーー仕事以上に、僕も母さんも春風の方が大事だよ。というか、僕と母さんが一番幸せにしたいのは春風だけなんだ。ああ、勿論、春風の大事な人達も一緒だから。
ーーそうそう! 春風と春風の大事な人達が幸せになれるなら、私もお父さんも頑張っちゃうんだからね!
「……なんてことを、笑顔で答えるんだ」
と、「はは」と笑いながらそう言った春風。そんな春風の言葉に、
「へ、へぇ。いいお父さんとお母さんだね」
と、恵樹が頬を引き攣らせながらそう言うと、
「うん。で、俺はそんな2人のことを尊敬していて、いつしか俺も、将来は2人と同じ『研究者』になって、『俺も父さんと母さんを幸せにする』って考えるようになったんだ。
と、春風はコクリと頷きながらそう返事して、
「おお、親子揃って『研究者』か! しかも『両親を幸せする』為って、 いい理由じゃねぇか!」
と、その返事を聞いた鉄雄が表情を明るくしたが、
「だけどねぇ……」
と、春風が急に表情を暗くしたので、それに鉄雄が「ん?」と反応すると、
「あー。自分で言うのもなんだけど、どうも俺……結構欲張りなところがあるみたいで……」
と、春風は気まずそうな感じでそう言った。
そんな春風の言葉に、
「え? よ、欲張り?」
と、恵樹が「わけがわからん!」と言わんばかりに首を傾げると、
「うん。『研究者になろう』って考えていた時に、『どうせならもっと上の存在になって、父さんと母さんを幸せにしよう』という考えるようにもなったんだ。で、考えに考えた末、『研究者』……否、『科学者』、それも『世界一の科学者になって、父さんと母さんを助ける凄い技術を生み出そう』、という結論に至ったんだ」
と、春風は真剣な表情でそう説明し、
「……もしかして、それが『賢者』?」
と、その説明に詩織がそう尋ねると、
「うん。その頃の俺にとって、『賢者』っていうのは『世界一の科学者』のことを指すものだったんだ」
と、春風は真剣な表情のままそう答え、その答えを聞いて、
「なるほど。君がなろうとしたのは、『ファンタジー』とかによく出てくる『魔法や魔術方面の賢者』とはじゃなくって、『科学技術方面の賢者』ってことなんだね?」
と、恵樹が納得の表情でそう尋ね、それに春風も「うん」と返事すると、
「そうさ。『賢者』になって、父さんと母さんを幸せにする為の技術を作る。それが、小さいころの俺の夢だったんだ。尤も、そのまま言うと周囲に笑われるのがオチだから、周りには『父さんと母さんと同じ研究者』になるって広めてたんだけどね」
と、そこまで言って、最後は「あはは……」と暗い表情で笑った。
それを聞いて、鉄雄、恵樹、詩織が「おおぉ!」と歓声をあげたが、春風は更に表情を暗くして、
「……でも、その肝心の父さんと母さんは、あの事故で死んじゃった。そしてそれと同時に、『賢者になる』って夢も、フッと消えちゃったんだ。元々、『父さんと母さんを幸せにする』っていう目的の為に生まれた夢だったから、2人が死んじゃった瞬間、その夢も消えちゃったんだよね」
と、鉄雄達だけでなく歩夢と美羽に向かってそう答えると、
「「「「「……」」」」」
5人とも何も言うことが出来ず、ただ春風と同じように表情を暗くしていった。
すると、
「……でも」
と、歩夢がそう口を開いたので、それに春風や美羽達が「ん?」と反応すると、
「その夢は、完全に消えたわけじゃなかった。そうだよね?」
と、歩夢が恐る恐るといった感じでそう尋ねてきたので、
「……うん」
と、春風はそう返事すると、
「ステータスオープン、職能のみを表示」
と言って、自身のステータス、それも「職能」のみを出した。
そう、「見習い賢者」と表記された部分を。
春風は自身の職能を見て、
「そう。初めてこの職能を見た瞬間、『俺の夢は消えてなかったんだ』って凄く喜んだよ」
と、「ふふ」っと笑いながらそう言ったが、
「まぁ、『悪魔の力』ってところはショックだったけどね」
と、そう付け加えると、すぐにズーンと表情を暗くしていったので、
「ああ、フーちゃん! そんなに落ち込まないでぇ!」
と、歩夢が必死になって春風を励ました。
それから少しして、
「と、とまぁ、これが俺の『過去』と『夢』の話ってところかな」
と、春風が気を取り直したかのようにそう話を締め括り、
「う、うーん。凄い濃い内容だったけど、おかげで雪村君のこと少しわかったかな……」
と、恵樹が納得の表情を浮かべた、まさにその時、
「いいや。まだ『謎』の部分が残ってるぜ!」
と、鉄雄がそう声をあげたので、
「え? な、何、『謎』の部分って?」
と、春風が戸惑いながらそう返事すると、
「決まってるだろ! お前と海神に天上、あとお前の『師匠』の陸島凛咲や、あのミネルヴァって女の人との出会いとか関係だろうが!」
と、鉄雄はキッと春風を睨みながらそう言ったので、
「「「あー、そのぉ……」」」
と、春風だけでなく歩夢と美羽も、ダラダラと滝のように汗を流しながらそう返事した。




