第437話 春風、「過去」を語る・2
「あのエネルギーは、人間が触れていいものじゃなかったんだ」
と、歩夢達に向かってそう言った春風。
あまりにも真剣な様子の春風の言葉に、
「そ、そんなにヤベェものだったのか?」
と、鉄雄がゴクリと唾を飲みながらそう尋ねると、春風はコクリと頷いて、
「順を追って説明するよ。7年前、父さんと母さんを含めた、アリメニス王国の研究施設に集められた多くの研究者達は、その不思議な鉱石と、そこから発生したエネルギーに目を奪われていた様子だった。実は俺も、その鉱石とエネルギーを見る機会を得ることが出来て、それでその2つを見たんだけど……」
と、そこまで説明すると、少しずつ表情を暗くしていったので、そんな春風の様子に、恵樹が「どうしたの?」と尋ねると、
「何故だかわからないけど、どっちもあんまり『良いもの』だって思えなかったんだ。幼い子供故の『勘』っていうのか、その辺は未だにわからなかったんだけど、とにかくその時は一目見て、『あ、これはよくないものだ!』って思ったんだ」
と、春風は微妙な表情で「うーん……」と唸りながらそう答えた。
その答えを聞いて、
「そこまで思ってたなんて……で、それお父さんとお母さんに言ったの?」
と、恵樹が再びそう尋ねると、春風も「うん」と再びコクリと頷いて、
「最初は信じてくれるか不安だったよ。何せ当時の俺は10歳。オマケに『勘』以外何の確証もなかったからね。父さん達信じてくれるか、その時は凄くドキドキしたもんさ」
と答えると、最後は力なく「ははは……」と笑い、そんな春風の答えに、
「まぁ、確かにそうだよね……」
と、恵樹は納得の表情を浮かべると、
「でもね……父さんも母さんも、俺の話を信じてくれたんだ。というのも、実は2人とも、俺と同じく鉱石とエネルギーを『よくないもの』だって何となくだけどわかってたんだよね」
と、春風はニコッとしながらそう言ったので、その答えに恵樹だけでなく鉄雄と詩織までもが「おお!」と小さく歓声をあげると、
「で、俺の話を聞いた2人は、その時から鉱石とエネルギーを研究しつつ、自分達と同じような考えを持つ仲間を集めたんだ。ただ、それでも多くの人達はそのエネルギーの魅力に取り憑かれてるみたいで、その結果、研究者達は父さんを筆頭に研究と開発の中止を望む『中止派』と、反対に研究と開発の続行を望む『続行派』の2つに分かれてしまったんだ」
と、春風はそう説明して、最後は表情を暗くした。
その説明を聞いて、
「な、なんだか……だんだん不穏な空気になってねぇか?」
と、鉄雄がタラリと汗を流しながらそう口を開いたので、春風がそれにまたコクリと頷くと、
「研究者達がその2つの派閥に分かれてから、施設内の雰囲気がどんどん悪くなっていって、人間関係の方もギスギスとしたものになってしまったんだ。それだけでも悪い状況なのに、研究の主導者的存在だったアリメニス国王も『続行派』寄りの考えに染まっていって、いよいよ流れが悪い方向に向かってしまって、その結果……」
と話を続けて、
「あの『事故』が起きてしまったんだね?」
と、恵樹がそう尋ねてきたので、
「うん、父さんと仲間達が、鉱石とエネルギーの危険性を見出して、それを国王に訴えたのはよかったんだけど、続行派の味方になってしまった国王の耳に届かず、事故が起きたその日、エネルギーを利用した大規模な『実験』が、施設内で行われたんだ」
と、春風は辛そうに表情を歪ませながらそう答え、それに続くように、
「その実験、失敗したの?」
と、今度は詩織がそう尋ねてきたので、春風は表情を歪ませたままコクリと頷くと、
「元々、未知のエネルギーだったからね、ちゃんと制御出来るのか不安の声があがっていたのに、続行派が強引に実験を始めてしまって、結局上手く制御することが出来ずに暴走して、オマケに最悪なことに、そのままいけば施設どころか周辺地域にまで危険が及んで、その所為で多くの人達が犠牲になるかもしれなくなったんだ。それを知った父さんと母さん、それに味方になってくれた研究者や技術者達は、すぐにそれを阻止する為に施設に入って、その結果……」
と、自身をギュッと抱き締めながらそう言うと、
「施設は消滅。父さんと母さん、そして研究者達はみんな死んじゃった」
と、最後は震えた声でそう言い、そんな春風を、
「フーちゃん」
と、歩夢と美羽が優しく支えた。
それから暫くの間、部屋の中が重苦しい雰囲気に包まれながらシーンと静まり返ると、
「そうだったんだ。雪村君のお父さんとお母さんは、仲間と一緒に大勢の人達を救ったんだね」
と、恵樹がそう口を開いたので、
「うん。といっても、その後は色んな国の事情とかもあって、結局、世間には『実験中の事故』ってことになっちゃったんだけど、真実を知ってる一部の人達は、父さん達のことを『英雄』って讃えたんだ。まぁ、一度に両親を亡くした当時の俺は、『何言ってんだこいつら?』ってその人達に対して怒りを露わにしていたけどね」
と、春風がそう返事すると、最後に「はは」と弱々しく笑った。
そんな春風の言葉に、
「そりゃあ……当然だよな……」
と、鉄雄が納得の表情を浮かべると、
「……って、ん? ちょっと待てよ」
と、何かに気付いてかのようにハッとなったので、それに春風達が「ん?」と反応すると、
「その後、何でお前、今の家族に引き取られることになったんだ?」
と、鉄雄が「納得いかん」と言わんばかりの表情でそう尋ねてきたので、それに春風が「ああ!」と目を見開くと、
「実はその時、父さんの友人だったオヤジも、アリメニス王国に来ていたんだ。当時は写真家として世界中を旅していたみたいでね、あの日も研究のことを知って『良い写真が撮れるかも!』って思ってたんだって。で、事故が起きて父さん達が死んで、悲しみにくれてた時に……」
ーーなぁ。お前、俺と家族にならねぇか?
「って、声をかけられてね。その時のオヤジも、結婚していた奥さんを病気で亡くして1人ぼっちになってたんだ」
と、弱々しい笑みを浮かべながらそう答えて、それを聞いた鉄雄は、
「な、なるほど、そういうことか」
と、「おぉ」と納得の表情を浮かべた。
そんな鉄雄を見て、春風は「ふふ」と笑うと、
「まぁ、そんな感じで、あの事故で俺は『大切なもの』を失ったんだ。大好きな両親と、叶えたかった『夢』をね」
と、そう話を締め括ろうとすると、
「ん? 『夢』って、何?」
と、また詩織がそう尋ねてきたので、
「俺はね……『賢者』になるのが夢だったんだ」
と、春風はまた弱々しく笑いながらそう答えた。




