第434話 「お仕事」が終わった夜
今回は、いつもより長めの話になります。
「あー、すっごい疲れたぁ」
宿屋「白い風見鶏」の中にある自分の部屋。そこに入ると、春風はすぐに装備を脱ぎ捨てて寝間着に着替えると、勢いよくベッドの上に飛び込んだ。
あれから春風は食堂で、レナをはじめとした仲間達に、
『昇格おめでとう!』
と、「銀級ハンター」に昇格したことを祝ってもらった。
目の前のカウンター席には、デニスが作った料理が幾つも並べられていて、それを見た春風はゴクリと唾を飲みながらも、
(う、うわぁこんなご馳走、一体幾らくらいするんだ?)
と、不安に思っていると、
「春風」
と、エヴァンに声をかけられたので、
「な、何、エヴァン?」
と、春風は驚きながらもそう返事すると、
「何やら大変な依頼を受けたそうじゃないか。一体どんな仕事を受けたんだ?」
と、エヴァンにそう尋ねられたので、それに春風が「それは……」と返事すると、
「魔物と戦ったりしたのか?」
「どんな風に戦った?」
と、エヴァンだけでなく他のルーセンティア王国の騎士達までもが春風に質問してきた。
そんな彼らの質問を受けて、
「ちょ、ちょっと待って、そんないっぺんに聞かないで……」
と、春風はかなり戸惑ったが、よく見ると、全員キラキラと目を輝かせていたので、
「え、ええっと、なんと申しますか……」
と、春風はそう言って、今日引き受けた依頼を説明した。
すると、
「なんと! パープル・スライムを単独で討伐とな!?」
なんと、エヴァンや他の騎士達だけでなくヘクターまでもが話に食いついてきて、それと同時にエヴァン達が「おぉ!」と歓声をあげると、
「ええ、そうよ。証拠の映像もあるんだから」
と、キャロラインが話に入ってきた。
実は春風達がギルド総本部を出る前に、キャロラインはグレッグから、春風がパープル・スライムと戦っていた場面を記録した映像記録用魔導具を受け取っていたようで、それを今知った春風は「え、ちょっと……!?」と戸惑ったが、そんな春風を無視して、キャロラインはその映像記録用魔導具を起動した。
その結果、
『おおおぉ!』
と、ヘクター達は大きく目を見開きながら全員そう歓声をあげた。しかもよく見ると、そこにはイヴリーヌの姿もあったので、
「あ、いや、ですから大袈裟ですって……」
と、春風は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして抗議しようとしたが、皆、魔導具によって映し出された春風の戦いぶりをジィッと見つめていたので、やがて観念したのか、
(……もう、仕方ないな)
と、心の中でそう呟くと、レナをはじめとした仲間達と共に目の前のご馳走を食べることにした。
そんな風に食堂で暫くの間、多くの人達と楽しく過ごした後、また明日からの仕事に備えてその場は解散となったので、
「じゃあ春風、おやすみ」
「おやすみ兄貴ぃ」
「おやすみなさい」
「おやすみなさい、春風様に勇者様方」
「みんなぁ、おやすみぃ」
と、レナ、ディック、フィオナ、そしてイヴリーヌやキャロライン達は「白い風見鶏」を出て、それぞれ自分達の帰る場所へと戻り、残った春風やクラスメイト達も、それぞれ自分達の部屋へと戻っていき、現在に至る。
時刻にはもう既に夜になっていて、窓の向こうの夜空には大きな月と無数の星々が輝いていたので、それをベッドから眺めた春風が、
(ああ、星と月が綺麗だなぁ)
と、ベッドに転がりながら物思いに耽っていると、
「春風様、お疲れ様でした」
と、枕元に置いたマジスマからグラシアが声をかけてきたので、
「ん? ああ、ありがとうございます、グラシアさん」
と、春風が疲れた表情でそう返事すると、
「春風様、ちょっと遅くなってしまいましたが……」
と、グラシアが少し恥ずかしそうな表情でそう言ったので、それに春風が、
「ん? 何ですか?」
と返事すると、
「『銀級ハンター』への昇格、おめでとうございます」
と、マジスマ内からグラシアがニコッとしながらそう言ったので、その言葉に春風はボンッと顔を真っ赤にしたが、
「あ、ありがとうございます、グラシアさん」
と、春風は恥ずかしそうに顔を赤くしながらも、ニコッとしながらお礼を言った。
その後、
(うーん、今日もかなり疲れた気がする)
と、春風が1人そう思っていると、
「……あ、そうだ」
と、今度は声に出してそう呟いた後、春風はムクッと上半身を起こして、
「ステータスオープン」
と唱えた。
すると、
「やった、レベルが上がってる!」
ステータスウィンドウに記された自身のレベルが、「32」から「39」に上がっていたので、春風は表情を明るくした。
それが聞こえたのか、
「まぁ、やりましたね春風!」
と、マジスマ内からそう喜びの声をあげたグラシアに、
「はい、やりました!」
と、春風はそう返事した後、
「それじゃあ、早速新しい『スキル』を……」
と、すぐに「スキル」の入手に取り掛かろうとしたが、
「……いや、今日はもう疲れたから、明日にします」
と、そう踏みとどまったので、グラシアは「む?」と大きく目を見開くと、
「……そうですね。その方がいいと思います」
と、納得の表情を浮かべながらそう言った。
その後すぐに、春風はステータスウィンドウを閉じると、再びゴロンと横になって、
「おやすみなさいグラシアさん」
と、グラシアに向かってそう言い、それにグラシアが、
「はい、おやすみなさい春風様」
と返事すると、春風はゆっくりと目を閉じた。
ところが、それから少しすると、
ーートントントン。
(ん?)
部屋の扉を叩く音がしたので、その音を聞いた春風はゆっくりと目を開けると、
(もう、寝てる時に誰だよ)
と、心の中で文句を言いながら再び上半身を起こし、すぐにベッドから出ると、まだ眠気はあるが警戒しながら扉に向かった。
そして、ゆっくりと少しだけ扉を開けると、
「……ん?」
と春風は目を細めながらそう声をもらし、その後再びゆっくりと扉を開けると、
「……ゆ、ユメちゃんに美羽さん? それに暁君に野守君、夕下さんも?」
「「こ、こんばんは」」
「よう」
「やっほー」
「どうも」
そこには、先程別れたばかりの歩夢と美羽、そして鉄雄と恵樹、詩織がいた。因みに、5人共寝間着らしき服の上からガウンをかけている。
そんな歩夢達に向かって、
「え、えっと、みんなどうしたの?」
と、春風がそう尋ねると、
「いやぁ俺達こうして再会出来たわけだしぃ、ちょおっとゴタゴタして遅くなったけどぉ……」
「ま、要するに遊びにきたっつうことで……」
と、恵樹と鉄雄が照れくさそうにそう答えて、彼らに続くように歩夢と美羽、詩織もコクリと頷いたので、
「……」
春風は無言で目をパチクリとさせると、
「ははは……」
と、乾いた笑い声をこぼして、扉を大きく開くと、
「いいよ、入って。大したおもてなしが出来るか自信ないけど」
と、笑顔で歩夢達に向かってそう言った。
それを聞いて、5人は表情を明るくすると、
「「「「「お邪魔しまぁす」」」」」
と言って、全員春風の部屋に入り、その後春風は廊下に誰もいないか確認すると、ゆっくりと扉を閉めた。




