第433話 「お仕事」が終わって……・3
「師匠ぉ! 何の話をしてるんですかぁー!?」
と、そう叫びながら、宿屋「白い風見鶏」の食堂に入った春風。
そこには春風の「師匠」である凛咲と、春風の「友人」であるミネルヴァ、そしてルーセンティア王国第2王女のイヴリーヌと、彼女を守る騎士であるヘクター、ルイーズ、ルイーズの弟エヴァンと、その他ルーセンティア王国の騎士達がいて、皆、カウンター席に座る凛咲とミネルヴァを前に、それぞれテーブル席の椅子に座っている形になっていた。
そんな食堂内の異様な状況(?)に、
(な、何この状況?)
と、春風だけでなく後から食堂に入ったレナ達までもがポカンとしていると、
「あら春風、おかえりー」
「やぁ、お仕事はどうだったかい?」
と、凛咲とミネルヴァがそう声をかけてきて、そんな彼女達に続くように、
「お、お帰りなさいませ、皆様!」
と、イヴリーヌも慌てた様子でそう挨拶してきた。
そんな状況の中、
「あのー師匠、そしてミネルヴァさん。これは一体どういう状況なのでしょうか?」
と、春風が「戸惑い」と「怒り」に満ちた表情でそう尋ねてきたので、その質問に対して、凛咲は「いやぁ……」と恥ずかしそうにそう声をもらすと、
「春風達が仕事に出かけちゃったもんだから、イヴリーヌ姫がしょんぼりしちゃってぇ。で、なんとか元気づけようと考えた結果、私と春風の出会いから、春風が私の弟子になった経緯と、それ以降の話をすることになってね……」
と、そう説明した後、最後に「あはは」と笑うと、それに続くように、
「で、そのついでに私との出会いについても話すことになったんだ」
と、ミネルヴァもクスッと笑いながらそう言った。
そんな2人の答えを聞いて、
「ちょ! 何勝手に人のこと話してんですか……!?」
と、恥ずかしそうに顔を真っ赤にした春風が文句を言おうとした、まさにその時、ガタンッという大きな音を立てて、イヴリーヌが椅子から立ち上がった。
「い、イヴリーヌ……様?」
と、突然のイヴリーヌの行動に、春風が大きく目を見開いていると、イヴリーヌはツカツカと早歩きで春風達に近づいて、
「春風様!」
と、春風に向かって顔を近づけながらそう言い、それに春風が、
「は、はい!」
と、何故かビシッと背筋を正しながらそう返事すると、
「春風様と凛咲様の冒険譚、とっても素晴らしかったです! わたくし、感動してしまいました!」
と、イヴリーヌはパァッと表情を明るくし、目をキラキラとさせながらそう言った。
そんなイヴリーヌを見て、
(うぐ! ま、眩しい! 眩しすぎる!)
春風は思わず腕で顔を覆った。いや、春風だけではない、レナや歩夢達も眩しそうに腕で顔を覆い、キャロラインに至っては、
「あらあらぁ。イヴりんちゃんったら、いい顔してるわねぇ」
と、朗らかな笑みを浮かべていた。
その後、
(い、いかんいかん! このままでは駄目だ!)
と、春風はそう感じると、気持ちを切り替えるように「コホン」と咳き込むと、真面目な表情になって、
「い、イヴリーヌ様、師匠とミネルヴァさんからどのようにお話をお聞きになったのかはわかりませんが、『冒険譚』と申しましても俺自身はそれほど大した活躍はしてませんよ」
と、イヴリーヌに向かって丁寧な口調でそう訂正しようとしたが、
「えー? そんなことないわよぉ。私いつも春風に助けられてたものぉ。こっちとしてはもう『師匠』の面目丸潰れよぉ」
と、凛咲が「聞き捨てならん!」と言わんばかりに頬を膨らませ、
「そうだな。春風はいつだって大人顔負けの行動を起こしては、時に弱きを助け、時に悪を挫いてきた。そのおかげで多くの笑顔が守られてきたからねぇ」
と、ミネルヴァが「うんうん」と頷きながらそう続いてきたので、
「いや、ちょ、師匠にミネルヴァさんも……」
と、春風はそれでも何か反論しようとすると、
「あらぁ、それは興味深いわねぇ……」
と、キャロラインがそう呟いたのが聞こえて、
「え? キャロライン皇妃様?」
と、春風がそう尋ねると、
「マリーちゃあん! その話、詳しく聞かせてぇ!」
と、キャロラインが凛咲に向かって大きく腕を振りながらそう言った。
それを聞いて、
「キャロライン皇妃様ぁ!?」
と、春風がギョッと目を見開くと、
「あーお取り込み中申し訳ないが、静かにしてほしいんだよねぇ」
と、春風達の背後から、ここ「白い風見鶏」の女将であるレベッカが現れたので、
「あ、レベッカさん、ただいま戻りました」
と、春風がそう挨拶すると、
「ああ、アンタ達お帰り……」
と、レベッカがそう返事したが、
「……って、おや? アンタ、その腕章……」
と、不意に春風の左腕につけられた2つの腕章が目に入ったので、
「あ、コレですか?」
と、春風は少し気まずそうな表情を浮かべると、
「その……俺、この度、ヴァレリーさんの『紅蓮の猛牛』と、タイラーさんの『黄金の両手』に所属することになりました。『掛け持ち』って奴でして……」
と、レベッカに向かって「あはは……」と苦笑いしながらそう言い、それを聞いたレベッカは、
「へぇ、そうなのかい!?」
と驚くと、
「それだけじゃないわよぉ、ベッキーちゃん。春風ちゃんはね、今日ギルドからの指名依頼を見事こなして、その結果一番下の『銅の3級』からいっきに『銀の3級』に上がったのよぉ」
と、キャロラインが春風の両肩を掴みながら、笑顔でそう言ったので、
「そうなのかい!? そいつは凄いじゃないか!」
と、レベッカは再び驚き、
「まぁ、そうなのですか!? 流石は春風様です!」
それに続いてイヴリーヌも更に表情を明るくしながら驚いたので、
「い、いや、イヴリーヌ様。何が『流石』なのかはわかりませんが……」
と、春風は戸惑いの表情を浮かべながら反論しようとした。
だが、それを遮るかのように、
「それならこうしちゃいられないねぇ! 早速『お祝い』といこうじゃないか!」
と、レベッカがそう声を上げ、それに反応したかのように、レベッカの夫のデニスがコクリと頷くと、すぐに厨房へと入ったので、それを見た春風は、
「へ!? ま、待ってください! そんな大袈裟ですよ!」
と、すぐにデニスを止めようとしたが、
「おっと逃がさねぇぞ雪村!」
「そうそう! 君が主役なんだから!」
なんと、春風の両隣から現れた鉄雄と恵樹が、ガシッと春風の肩を掴み、
「さぁさぁ行くよ」
と、春風の後ろで詩織がググッと春風の背中を押してきたので、
「え!? ちょ、暁君!? 野守君!? 夕下さん!?」
と、春風が激しく戸惑っていると、
「フーちゃん」
「春風君」
と、春風の前に歩夢と美羽が現れて、
「「行こ!」」
と2人がそう言うと、それぞれ春風の両腕を引っ張ってカウンター席へと歩き出したので、
「ちょっとぉ! 勘弁してくれぇ!」
と、春風は本気で困った顔を浮かべながらそう悲鳴をあげた。




