第431 話 「お仕事」が終わって……
この時間にすみません。
夕方になると、中立都市フロントラルの通りは大勢の人達で賑わっていた。
ある者は店で買い物をし、ある者は食堂で食事をし、またある者は仲間と共に酒場で一杯やっていて、もうすぐ夜になるというのに、多くの人達が行き交う通りは静かになることはなかった。
そんな賑やかな通りを、
「はぁあ……」
と、春風は深い溜め息を吐きながら歩いていた。その表情はかなり疲れきっていて、今にも倒れるんじゃないかと思われるくらいフラフラの状態だった。
そんな状態の中、春風はチラッと自分の左腕、もっと言えば、そこにつけられた赤と金、2つの腕章を見て、
「はぁあああああ……」
と、再び深い溜め息を吐くと、
(本当に、何でこうなった?)
と、数分前の出来事を思い出し始めた。
遡ること数分前、ハンターギルド総本部内。
「「うちのレギオンにようこそ!」」
「ええ春風さん。今日からあなたは、『紅蓮の猛牛』と『黄金の両手』、2つのレギオン所属のハンターとなりました」
と、春風に向かってそう言った、ヴァレリー、タイラー、そしてフレデリックに、
「え……えええええええ!?」
と、そう絶叫した春風。
そんな彼らのやり取りを見て、
「え? ふ、フーちゃん?」
「何? 何なの?」
「何だぁ? 何が起きたんだぁ?」
「さ、さぁ?」
「よくわかんない」
と、歩夢ら5人の春風のクラスメイト達が戸惑っていると、
「ちょおっとぉ! アンタ達春風に何してんのぉ!?」
と、レナが怒りに満ちた表情でヴァレリー達に向かってそう問い詰め、
「そうよぉ! 春風ちゃんは帝国が貰うんだから、勝手なことしないでちょうだい!」
と、キャロラインもプンスカと可愛らしく怒っていると、
「キャロライン皇妃様。申し訳ありませんが、前にも言いましたように春風君は既に我々が予約済みですからね、これ以上あなた方ストロザイア帝国に好き勝手させないように、先手を打つことにしたのです。ああ因みに、赤い腕章が『紅蓮の猛牛』のメンバーの証で、金色の腕章が『黄金の両手』のメンバーの証ですから」
と、タイラーが落ち着いた口調でそう返事し、それに続くように、
「ああ。このタイミングで、こうでもしなきゃ、こいつを手に入れることが出来ないからな」
と、ヴァレリーがドヤ顔でそう言ってきたので、
「むむむぅ……」
と、キャロラインが頬を膨らませながら、もの凄く悔しそうな表情を浮かべた。
そんなキャロライン達を前に、
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 俺、『レギオンに入る』なんてひと言も言ってませんけど!?」
と、春風がヴァレリー達とキャロラインの間に割り込むように入ると、
「はっはっは、諦めろ春風。お前が私達のレギオンのメンバーになることは最初から決まってたのさ!」
と、ヴァレリーが腰に手をあてて豪快に笑いながらそう返事したので、
「じょ、冗談じゃないですよ! ていうか、何で2つも腕章がついてるんですか!? これって、先ほどフレデリック総本部長さんが仰ったように、俺にヴァレリーさんとタイラーさんの2つのレギオンに入りましたってことですか!? 2つのレギオンの掛け持ちってありなんですか!?」
と、その返事に春風は焦った様子で、ヴァレリーとタイラー、そしてフレデリックに幾つか質問をした。その結果、
「ああ、それなら問題ないぞ春風。私とタイラーはお互いレギオンのリーダーとして切磋琢磨しあうライバルだが、レギオン自体は両方入っても大丈夫なんだ」
「ええ。ですから、一方が活動してない時は、もう一方の方で仕事をするというスタイルも出来るんです」
と、ヴァレリーもタイラーも「大丈夫大丈夫!」と言わんばかりにニコッとしながらそう答えたので、
「……あ、そういう働き方もありなんですか」
と、納得の表情を浮かべたが、
「……いや、そうじゃなくて!」
と、ハッとなって首をブンブンと左右に振ると、
「で、ですから、俺はレギオンに入るつもりはありませんから! 大体何ですかこんな腕章……!」
と、怒りながら左腕につけられた腕章を取ろうとしたが、いざその腕章をグッと掴むと、
「……あれ?」
と、春風はそう声をもらしながら首を傾げたので、
「は、春風、どうしたの?」
と、心配になったレナが恐る恐る春風に声をかけると、
「……は、外れない」
と、春風はサーッと顔を真っ青にしながらそう返事した。
その返事を聞いて、
『……え?』
と、レナだけでなく歩夢達までもがそう声をもらすと、
「いやいやいや、春風何を言ってるの……?」
と、レナは「あはは」と笑いながら、「しょうがないな……」と春風の左腕の腕章を掴むと、
「……嘘、外れない」
と、レナも春風と同じように顔を真っ青にしながらそう言ったので、
「え!? そんな……!」
と、歩夢らクラスメイト達も、すぐに春風から腕章を外そうとしたが、
「げ! 全然外れねぇ!」
と、鉄雄が驚いたように、全員で引っ張っても腕章が外れることはなく、寧ろ、外そうと腕章自体がガシッと春風にひっついて離れようとしなかったので、
「ちょ、ちょっと、どうなってるのよぉ!?」
と、美羽が怒鳴るようにそう言うと、
「ああ、言い忘れてたが、そいつは特別製でな、ちょっとやそっとじゃ外れねぇようになってんだわ」
と、ヴァレリーがニヤッとしながらそう答えたので、
「あ、アンタ達、いい加減に……!」
と、そ答えにレナはブチ切れたが、
「まぁまぁそんな怒んなって……」
といつの間にかレナに近づいていたヴァレリーは、「ほれほれ……」とレナの左腕に何かをつけ始めたので、それに気付いたレナは、
「な、何すんのよぉ!」
と、大慌てで左腕を振るってヴァレリーから離れたが、
「ん? あああ!」
その左腕には春風と同じように「紅蓮の猛牛」メンバーの証である赤い腕章がつけられていたので、
「はっはっは! これでお前も、今日から『紅蓮の猛牛』のメンバーだ! 因みに、そいつも外せないからな!」
と、ヴァレリーは高笑いしながらそう言い、
「ふ、ふざけんなぁあああああ!」
と、レナは怒りのままにそう叫んだ。
因みに、先に腕章をつけられていた春風はというと、
「……はは。何、このイベント?」
と、盛大に頬を引き攣らせながら呆然としていた。




