第426話 勇者達と「お仕事」・19
「中々素晴らしい戦い振りだったよ、春風君」
と、春風に向かって穏やかな笑みを浮かべながら、優しい口調でそう言った男性に対して、
「ありがとうございます、えっと……グレッグさん」
と、春風もニコッとしながら、その男性の名前(?)を呼んだ。
その後、男性は「ん?」と首を傾げると、
「ああ、すまない。こうやってキチンと君と話をしたのは初めてだったな」
と、今になって気付いたかのようにハッとなった後、春風に向かってそう謝罪し、それに春風が「は、はい」と若干気まずそうに返事すると、男性は気持ちを切り替えるかのように「コホン」と咳き込んで、
「改めてはじめまして、私の名はグレッグ・バーネット。君とパーティを組んでるディック・ハワードとフィオナ・ハワードと同じ、レギオン『紅蓮の猛牛』に所属しているハンターだ。因みに、彼らも全員『紅蓮の猛牛』に所属している」
と、春風に向かって左腕につけた赤い腕章を見せながら、改めてそう自己紹介し、
「こちらこそ、改めてはじめまして。自分は雪村春風と申します」
と、春風も男性……否、グレッグ・バーネット……以下、グレッグに向かって改めてそう自己紹介した。
とまぁここまで長くなってしまったが、そう、春風の前に現れたのは、以前デッド・マンティスとの戦いが終わった後に出会った、グレッグという「紅蓮の猛牛」所属のハンターだった。その証拠に、彼と傍に立つ6人の男女の左腕には、その「紅蓮の猛牛」所属の証である赤い腕章が付いていた。
まぁそれはさておき、春風とグレッグがお互い自己紹介しあった後、
「あの、お怪我はもういいのですか? ヴァレリーさんからは『大怪我を負った』とお聞きしましたが」
と、春風がグレッグに向かって恐る恐るそう尋ねると、
「ああ、それなら心配はない。怪我自体はだいぶ良くなっている。ただ、それでも『無理はするな』と相棒のジェシカに言われてしまったがね」
と、グレッグは「はは」と苦笑いしながらそう答えた。因みに、今話に出てきた「ジェシカ」とは、グレッグと同じく「紅蓮の猛牛」のメンバーであり、デッド・マンティスとの戦いの後に、グレッグと共に出会っている。
グレッグの答えを聞いて、春風は「そうですか……」と返事すると、
「あの、もう1つ聞きたいことがあるのですが、グレッグさん達は今どういった仕事をしているのですか?」
と、グレッグに向かってそう尋ねると、グレッグと他の「紅蓮の猛牛」メンバー達も「あー……」と気まずそうな表情を浮かべたが、やがて観念したのか、
「す、すまない。実は我々はリーダーとフレデリック総本部長の依頼で、君が『パープル・スライム』との戦いで不正をしないように監視していたんだ」
と、グレッグは「いやぁ参った参った」と言わんばかりに頭をボリボリと掻きながらそう答えると、
(ああ、やっぱりか)
と、春風は小さく「ハァ」と溜め息吐きながら心の中でそう呟くと、
「そうでしたか。それで、その……自分っていうか、俺の戦い振りを見て、どうでしたでしょうか?」
グレッグに向かって自信なさそうにそう尋ねた。
その質問を聞いて、グレッグは少しだけ目を見開いたが、すぐに真面目な表情になって、
「うむ。森に入ってからここまで見てきたが、サーベル・ハウンド戦の時に見せた仲間と連携は素晴らしかったと思ってるし、その後のベルセルク・ビートルとの戦いも、敵を前に臆さない『勇気』も素晴らしかった。そして、今回の『パープル・スライム』と『ブルー・スライム』との単独戦闘から討伐まで、実に見事だった。私個人の意見だと、君は間違いなく昇級するだろうと思っている」
と、春風に向かってそう答えると、
「だが、だからといってここで慢心するのはよくない。慢心すれば、それは『死』へと繋がることになるだろう。そうなってしまえば、自身は愚か仲間達にも危険が及ぶだろう」
と、最後に先ほど以上の真剣な表情でそう付け加えたので、それを聞いた春風は「そうですか……」と小さくそう呟くと、
「質問に答えてくださって、ありがとうございました」
と、ペコリと頭を下げながら、グレッグ達に向かってそうお礼を言った。
それを聞いて、グレッグは「ふふ」と笑うと、
「さてと、それではキャロライン皇妃様や仲間達のところに戻ろうか。皆、きっと君を心配してると思うよ」
と、春風に向かってそう言ったが、
「その前に、自分には1つやらなきゃいけないことがあります」
と、春風はグレッグと同じく真剣な表情を浮かべながらそう言ったので、その言葉にグレッグが「何?」と首を傾げていると、
「あれを片付けないと……」
と、春風はとある方向を指差しながらそう言った。
そんな春風の言葉に、グレッグ達が「何?」と首を傾げながら、春風が指差した方向を見ると、
『……あ』
その先にあるのは、無惨に斬られてバラバラになった『パープル・スライム』の氷漬けになった肉片があったので、
「あー。もしよろしければ、我々も手伝おうか?」
と、グレッグが春風に向かってそう尋ねると、春風は「いえ……」と首を左右に振って、
「申し訳ありませんが、これも自分が受けた『仕事』の1つですから」
と、グレッグを見つめながらそう答えた。
その答えを聞いて、グレッグ達は目をパチクリとさせると、
「ああ、わかった。そういうことなら、こちらも手は出さないよ」
と、グレッグは春風に向かって納得の表情を浮かべながらそう言ったので、
「ありがとうございます」
と、春風は再びグレッグ達に向かって再びペコリと頭を下げながらお礼を言った。
その後、宣言通り春風は1人、パープル・スライムの凍った肉片を片付けると、グレッグ達と共に帰りを待っているレナ達のもとへと歩き出した。




