第413話 勇者達と「お仕事」・6
フロントラルから離れた森の中で始まった、春風、レナ、ディック、フィオナの戦闘。
ストロザイア帝国の皇妃キャロラインと、歩夢、美羽、鉄雄、恵樹、詩織の5人の「勇者」ことクラスメイト達に見守られる中、春風達が対峙しているのは、ディックとフィオナのターゲットである6匹の魔物、サーベル・ハウンドだ。
『グルル……』
と、抜き身の刀身のような鋭い牙を剥き出しにしながら呻くサーベル・ハウンド達に対して、春風がそれぞれ武器を構えると、
「『アクセラレート』。『ヒートアップ』。『プロテクション』」
と、春風は静かにレナとフィオナに向かって自身が身につけている『魔術』を唱えた。
その瞬間、彼女達の体が、緑、赤、オレンジ色の光に包まれて、それを見た歩夢達が「おお!」と感心する中、
「2人とも、強化魔術をかけたから、存分にやっちゃって」
と、魔術をかけた本人である春風がレナとフィオナに向かってそう言い、それに2人が、
「うん、わかった」
「わかりました」
と、コクリと頷きながら返事すると、
「それと、ディック」
と、春風は今度はディックに声をかけたので、それにディックが、
「何、兄貴?」
と反応すると、
「ちょっと失礼」
と、春風はそう言って、ディックの手に握られている杖にソッと左手で触れた。因みに、春風の左腕には今、いつものように銀色に輝く籠手が装着されている。
すると、その銀の籠手が青く輝きだし、それを見たディックが「わぁ」と声をもらしていると、その青い輝きが籠手から杖へと移動し、やがて杖全体を包み込んだ。
青く光る自分の杖を見て、
「す、凄い力を感じる。兄貴、これって……?」
と、ディックが春風に向かってそう尋ねると、
「俺の中にある水属性の魔力を流したんだ。それで多分、ディックの魔術を強くしてくれると思う」
と、春風はニコッとしながらそう答えたので、
「あ、ありがとう兄貴!」
と、ディックも笑顔でそう返事した。
それからすぐに、
「さぁ、向こうも戦闘体勢に入ったみたいだぞ」
と、春風が目の前のサーベル・ハウンドを見てそう言った中、
「な、なんか今、凄いことやんなかったか? 雪村の奴……」
「う、うん。『見習い』って言っても、流石は『賢者』って感じだよね……」
と、鉄雄と恵樹が小声でそう言い合い、
(確かに、風、炎、土の魔術の発動に加えて、水属性の魔力をあそこまで操るなんて。これで未熟な『見習い賢者』なら、成長したらどうなってしまうのかしら?)
と、キャロラインが真剣な表情を浮かべながら、心の中でそう呟くと、
「うふふ、是非とも帝国に欲しいわね」
と、頬を赤くして表情を歪ませながら、今度は口に出してそう呟いたので、
「「だ、駄目です!」」
と、その呟きを聞いた歩夢と美羽はギョッと目を見開きながら、キャロラインに向かってそう怒鳴った。
さて、そんなキャロラインと「勇者」達を他所に、
「グルァ!」
と、1匹のサーベル・ハウンドが、春風達に向かって突撃してきたので、
「来たよ!」
と、春風がそう叫ぶと同時に、レナとフィオナが1歩前に出た。
1匹目が口を大きく開けて飛び掛かる。
鋭い牙がギラリと輝き、それに噛まれたらただでは済まないだろう。
その1匹目の攻撃に対して、
「フッ!」
ーーブン!
フィオナが持っている片刃剣を思いっきり振るった。
「っ!」
フィオナの反撃に、大きく見開きながら驚く1匹目は、咄嗟に自身の体を強引に回転させて、その反撃を避ける。
その後、地面に着地した1匹目はすぐにまた攻撃に出ようとしたが、
「はっ!」
ーーブン!
真横に現れたレナが、自身の武器である棒を、1匹目に振り下ろした。
ーーゴッ!
「キャイン!」
レナの攻撃をもろに受けた1匹目は、その勢いで吹っ飛ばされた後に地面に叩きつけられたが、どうにか立ち上がると、ギロリとレナを睨みつけた。
しかし、
「『ウォーターエッジ』!」
そこへ、ディックが水属性の攻撃魔術を放った。
杖から放たれた水の刃が、1匹目に襲いかかる。
それに気付いた1匹目はすぐにその場から飛び退こうとしたが……。
ーーボコッ!
「っ!?」
突然、自身の足元の土が急に盛り上がったので、その所為でバランスを崩してしまい、結果、水の刃によって1匹目は首を斬り落とされてしまった。
それを見て、
「「グルァアア!」」
と、2匹目と3匹目が、「仲間の仇!」と言わんばかりに襲いかかってきた。
1匹目の時とは違って、今度は連携攻撃のつもりなのか、時折り交差しながら素早い動きで突撃する2匹目と3匹目。
そして、春風達の前まで近づいたところで、
「「グルァ!」」
と、2匹同時に飛びかかったが、
「「はぁあ!」」
それよりも早くレナが繰り出した棒による打撃と、フィオナが繰り出した片刃剣による斬撃を繰り出してきたので、2匹目と3匹目は避ける間もなくその攻撃を受けてしまい、その結果、地面に落ちた2匹はそのまま動かなくなった。
すると、
「「「グルァアアア!」」」
「「っ!」」
攻撃を終えたレナとフィオナに、残りの3匹が襲いかかってきたので、
「危ない!」
と、それを見た歩夢は悲鳴をあげたが、
「『ウインドスピア』!」
「『ウォーターエッジ』!」
そこへ、春風とディックがそれぞれ魔術を放った。
春風から放たれた風の槍と、ディックから放たれた水の刃が、3匹のうち2匹にあたり、2匹はそのまま戦闘不能となる中、残された最後の1匹はというと、
「これで……」
「お終い!」
と、レナとフィオナの同時攻撃を受けて、こちらも戦闘不能となった。
こうして、6匹のサーベル・ハウンドは全て倒されて、
「や、やったぁ!」
と、それを見た鉄雄が表情を明るくしながらそう叫び、その後すぐに歩夢達と一緒に春風達のもとへと駆け出そうとした。
だが、
「待って」
と、何故かキャロラインに止められてしまったので、
「ど、どうしたんですか?」
と、歩夢が恐る恐るそう尋ねると、
「何か来るわね」
と、キャロラインがボソリとそう呟いた。
その呟きを聞いて、歩夢達が「え?」と首を傾げていると……。
ーーズン! ズン!
という音と共に地面は大きく揺れたので、
「な、何だよこれ!?」
と、鉄雄が戸惑っていると、
「……来たわ」
と、キャロラインが前方を見ながら、真剣な表情でそう呟いたので、それを聞いた歩夢達が「え?」とキャロラインと同じ方向に視線を向けると、前方にある森の木々の向こうから、何か大きなものが、ズンッズンと音を立てながら、ゆっくりと春風達のもとへと近づいていた。
やがて、春風達の前に大きな黒い影が現れたので、その正体を見ようと歩夢達が視線を向けた。
そんな状況の中、春風達の目の前に現れたもの。
それは、
「……でっかい、カブトムシ?」




