第396話 凛咲、用意する
「見習い賢者」の春風と、ルーセンティア王国の騎士エヴァン。
フロントラルの小闘技場にて行われた2人の戦いは、春風の勝利で終わった。
そして、その戦いの果てに2人がかなりいい雰囲気になった、まさにその時……。
ーーグウウウウウウウ。
『ん?』
突然、何処からかそんな音が聞こえたので、その音に春風をはじめとした小闘技場内にいる者達がそう声をもらしながら首を傾げていると、
「あー、悪い。俺でした」
と、何故か恥ずかしそうに顔を真っ赤にした鉄雄が、「はい」と手を上げながらそう口を開いたので、
「え? どうしたの暁く……」
と、春風が鉄雄にそう声をかけようとすると、
「……ん?」
鉄雄は残った手で自身のお腹を摩っていた。
それを見た瞬間、
「あぁ、そういうことか」
と、春風は何かを察したかのように納得の表情を浮かべたので、
「え、どうしたのフーちゃ……」
と、気になった歩夢が春風に声をかけようとすると……。
ーーグウウウウウウウ。
「うっ!」
突然、歩夢のお腹からそんな音がしたので、歩夢は思わずそう呻いた。
いや、歩夢だけではない。
ーーグウウウウウウウ。
「「「あ……」」」
美羽や野守、夕下のお腹からも同様の音がして、皆、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
そして……。
ーーグウウウウウウウ。
「うぐ!」
それは、エヴァンも同様で、彼も歩夢達と同じように自身のお腹を摩り出した。それを見て、
(ああ、エヴァン! お前もか!)
と、春風は目を大きく見開きながら、心の中でそう呟いた。
そんな状況の中、
「な、何!? みんなどうしたの!?」
と、レナは「訳がわからん!」と言わんばかりにオロオロし出した。
「ありゃりゃ、こりゃ酷いわねぇ」
と、凛咲が呆れ顔でそう呟くと、
「きっと、春風達の戦いが終わったから、みんな安心したんだろう」
と、隣でミネルヴァが「うんうん」と頷きながらそう結論づけた。
そんな彼女達のやり取りに、
「あ、あのぉ……」
と、イヴリーヌがオロオロしていると、
「よし、それなら……」
と、凛咲が何かを閃いたかのようにそう口を開くと、
「春風」
と、真剣な表情を浮かべながら春風に声をかけた。
「はい、何ですか師匠?」
と、突然声をかけられたにも関わらず、春風が凛咲にそう返事すると、
「今こそ、あなたの腕の見せ所よ」
と、凛咲は真剣な表情のままそう言って、そんな凛咲の言葉に春風だけでなく周囲の人達までもが「ん?」と首を傾げていると、凛咲は腰のベルトに取り付けてるちょっと大きめのポーチに手を入れて、
「んーっと……」
と、そう声に出しながら、ゴソゴソと何かを探していた。
それから少し時間が経つと、
「お! あったあった!」
と、凛咲がパァッと表情を明るくしたので、それに春風が「ん?」と目を細めると、
「よっこらしょ!」
と、凛咲は腰のポーチから何か大きなものを取り出すと、それをドサッと小闘技台の上に置いた。
その正体は大きな紙袋のようで、どう見ても凛咲の腰に取り付けられたポーチ以上の大きさだったので、
「な、何あれ……?」
と、レナは警戒心剥き出しの表情になったが、
「あれって、まさか……」
と、春風は大きく目を見開きながらそう呟くと、すぐに紙袋のもとへと駆け出した。
そして、その紙袋に触れて、
「師匠、これひょっとして……」
と、春風が凛咲にそう声をかけると、
「ふふ、実はこの世界に来る前に、『地球』から色々持ってきたの」
と、凛咲はニコッとしながらそう答えたので、
「……確認したいので、中身を見てもいいですか?」
と、春風は凛咲に向かってそう尋ねた。
その質問に対して、
「勿論よ。だってそれ、春風達の為に持ってきたんだから」
と、凛咲がコクリと頷きながらそう答えると、その言葉が聞こえたのか、
「え? 俺達の為って……」
と、鉄雄が首を傾げたが、春風はそれに構うことなく、
「では、失礼して……」
と呟くと、早速紙袋を開いてその中身を見た。
その後、春風は紙袋を閉じると、
「師匠」
と、凛咲に声をかけたので、
「何かしら春風?」
と、凛咲がそう答えると、
「持ってきたのは、こいつだけですか?」
と、春風は紙袋を見つめながら凛咲に向かってそう尋ねた。
その質問に対して、
「大丈夫。他にもいっぱい持ってきたわ」
と、凛咲はニヤリとしながらそう答えたので、
「そうですか」
と、春風も凛咲と同じくニヤリとした。
そのやり取りを見て、
「は、春風?」
と、レナが恐る恐る声をかけると、
「フレデリック総本部長さん。あなたにお尋ねしたいことがあるのですが」
と、春風はレナではなくフレデリックに向かってそう声をかけたので、
「むむ? どうしました春風さん?」
と、フレデリックが警戒しつつそう返事すると、
「何処か厨房を借りることが出来る場所ってありませんか?」
と、春風はフレデリックに向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、フレデリックは「む?」と更に警戒したが、
「……」
ジッと紙袋を見つめる春風に何かを感じたのか、
「それでしたら、ここ総本部にある職員食堂の厨房を使ってください」
と、ニコッとしながらそう言ったので、その言葉に春風は「ふふ」と小さく笑うと、
「ありがとうございます。では……」
と、フレデリックに向かってお礼を言い、
「よっこいしょ」
と紙袋を持ち上げて、
「早速使わせてもらいますから」
と、笑顔でそう言うと、フレデリックと共に小闘技場を出て行っていった。




