第388話 「勝利宣言」の後
「勝者、春風!」
と、声高々にそう叫んだ審判役のギルド職員。
その叫びを聞いて、
「ふぅ……」
と、春風がひと息入れると……。
ーーぐにゃり。
「あ、あれ?」
突然、春風の視界が歪み出して、それと同時に足がもつれてきたので、
『あ!』
「は、春風!」
「フーちゃん!」
「春風君!」
と、周囲から驚きの声があがった。
そして、
(あー、これヤバいかも……)
と、春風がその場に倒れそうになったその時、
「はーい、お疲れ様」
という声が聞こえたと同時に、誰かに倒れそうなところを抱き止められたので、
「……あ」
春風は一瞬ポカンとなったが、すぐに自身を抱き止めた人物に視線を移すと、
「すみません、師匠」
その正体は、春風の師匠である凛咲だったので、
『え?』
と、レナをはじめとした周囲の人達が、一斉に凛咲がいた場所へと振り向くと、
『あ! いつの間にぃ!』
と、そこには既に凛咲の姿はなく、現在春風を抱き止めている凛咲が本物だとわかったので、
「「「ちょおっとぉおおおおお!」」」
と、レナ、歩夢、美羽の3人は怒り顔で春風達のもとへと駆け出し、それを見た他の人達も、3人の後を追いかけた。
そんな彼女達を前に、
「ふふ、見事な『山の型』だったわ」
「ありがとうございます。ですが、ちょっと根性出し過ぎちゃいました」
「あら。『男』なら、もっと沢山出さなくちゃ」
「うわ、これは手厳しい……」
と、春風と凛咲が何やら良い雰囲気になっていたので、
「こらぁあああああ! 春風から離れなさあああい!」
「フーちゃんとイチャイチャしちゃ駄目ぇ!」
「ちょっと! 『師匠』だからって『弟子』にくっつき過ぎ!」
と、怒ったレナ達によって春風と凛咲は強引に引き剥がされた。
その後、
「雪村ぁ! お前なんつう凄い戦いしてんだよぉ!」
「全く、ちょっと無茶しすぎなんじゃなーい?」
「雪村君、ぶっ飛びすぎ」
「兄貴ぃ! かっこよかったよぉ!」
と、集まってきた鉄雄達が春風詰め寄りながらそう言ったので、
「あ、あはは……」
と、春風が反応に困っていると、
「あ、それよりもエヴァンさんは……」
と、ハッとなった春風はすぐにエヴァンの方へと振り向くと、彼の前にはイヴリーヌ、ヘクター、ルイーズが集まっていたので、
「え、エヴァンさん……」
と、春風は心配そうな表情を浮かべた。
さて、そんなエヴァン達の方はというと、
「い、イヴリーヌ様……」
現在、エヴァンはイヴリーヌの前に跪いていて、そんなエヴァンを、
「……」
「エヴァン……」
と、イヴリーヌの傍でヘクターとルイーズが心配そうな表情を浮かべていた。
すると、イヴリーヌは1歩前に出て、
「エヴァン・クルーニー。見事な戦いぶりでした」
と、エヴァンに向かって優しい口調でそう言ったが、その言葉にエヴァンは表情を暗くすると、
「イヴリーヌ様、私はご覧の通り、敗北を喫してしまいました」
と、ゆっくりと首を振りながらそう言い、その言葉にルイーズが、
「え、エヴァン……!」
と、前に出ようとしたが、それを止めるかのように、ヘクターが彼女の肩を無言で掴んだ。
そんな2人を無視して、
「いえ、それ以前に、勝手にイヴリーヌ様達の旅についてきただけでなく、雪村春風との戦いにも、こうして『敗北』という無様な姿を晒してしまいました。このエヴァン・クルーニー、如何なる裁きも受ける所存です」
と、エヴァンは跪いたまま顔を下に向けた状態で、イヴリーヌに向かってそう言うと、
「いいえ、先ほども言いましたが、あなたと雪村春風様との戦いはとても見事なものでした。特に最後の勝負に出た時のあなたからは、強い『覚悟』を感じました」
と、イヴリーヌは首を振りながらそう言った。
だがその後、
「ですが、1つだけ怒ってることがあります」
と、イヴリーヌがエヴァンに向かって真剣な表情でそう言ったので、その言葉にエヴァンだけでなくヘクターとルイーズまでもがビクッとしながらタラリと汗を流すと、イヴリーヌは無言でその場からスタスタと何処かへ向かった。
向かった先は、先ほどエヴァンが捨てた盾のところで、イヴリーヌはそれを拾い上げると、スタスタとエヴァンの前に戻った。
そして、
「エヴァン・クルーニー……」
と、イヴリーヌがエヴァンを前にそう口を開き、それにエヴァンが再びビクッとなると、
「確かに、あなたはルーセンティア王国の騎士の1人。私達王族とその臣下達、そして民達を守る為にその命を捧げることにもなりましょう」
と、イヴリーヌは真剣な表情でそう言ったので、それにエヴァンだけでなくヘクターとルイーズまでもがゴクリと唾を飲むと、
「ですが、あなたもまた1人の『命』ある人間なのです。そして、この盾はそんなあなた自身の命を守る為のものです」
と、イヴリーヌはそう話を続けたので、
「「「い、イヴリーヌ様」」」
と、エヴァンら騎士達がジーンと感動していると、イヴリーヌは持っていた盾をエヴァンに差し出した。
それを見て、
「イヴリーヌ……様?」
と、エヴァンが恐る恐るそう口を開くと、
「もう2度と捨ててはなりません。あなたにもしものことが起きれば、悲しむ人がいるのですから」
と、イヴリーヌが盾を差し出した状態のまま、エヴァンに向かってそう言ったので、
「っ! イヴリーヌ様……」
と、その言葉を聞いたエヴァンの目からツーっと涙が流れた。
その後、エヴァンはイヴリーヌから盾を受け取ると、その盾をジッと見つめて、
「わかりました。このエヴァン・クルーニー、もう2度と、この盾を……自分の命を粗末にしません」
と、その後、真っ直ぐイブリーヌを見つめながらそう宣言した。
それが聞こえたのか、
(はは、あっちも何だかかっこいいな)
と、春風はほっこりした表情を浮かべながら、心の中でそう呟いた。




