第384話 春風vsエヴァン・4
本日2本目の投稿です。
さて、凛咲達が何やら楽しそう(?)な会話をしてる最中、小闘技台の春風とエヴァンはというと、
「「……」」
2人とも、決着の一撃を繰り出す為の構えのまま、静かに睨み合っていた。
だが、
(……何故だ?)
表情こそ出てはいないが、
(……何故、勝てるイメージが浮かばないんだ!?)
目の前の春風を見て、エヴァンは内心では戸惑っていた。
いい機会だからここで語っておくが、エヴァン・クルーニーは自分の腕に確かな自信があった。
エヴァンは代々王族を守る騎士の家の生まれで、幼い頃から姉のルイーズと共に立派な騎士になる為の訓練に励んでいた。といっても、15歳になった時に「5柱の神々」からどんな職能を授かるのかわからないので、主にやったのは基礎体力向上の訓練と様々な武器を扱う訓練、そして、魔力を扱う訓練だ。
姉のルイーズも高い資質を持ってはいるが、彼女に負けないくらいエヴァンも高い資質を持っていたので、そのおかげでエヴァンは自分に自信が持てるようになった。
そして迎えた成人の儀式、即ち「5柱の神々」より職能を授かる日、エヴァンはルイーズと同じ上位職能である「騎士」の職能を授かった。
これにはエヴァン本人は勿論、姉のルイーズと2人の両親も大喜びで、エヴァンはますます自信がついた。
ただ、エヴァンは元々真面目な性格なので、ここで傲慢にならず、寧ろ「騎士」の職能を授かったからこそ、それに恥じない人間になるように心がけていた。
しかし、それでも調子に乗りやすい部分もあって、エヴァンは同じ時期に騎士になった者達、特に自分より低い能力を持つ者を陰で笑ってたりもしていたが。
さて、そんな自信に満ち溢れたエヴァンだったが、その自信は、ある日粉々に砕かれることになった。
そう、「勇者召喚」……「ルールを無視した異世界召喚」が行わなれた日だ。
その日、エヴァンは他の若い騎士達と謁見の間に集まっていた。姉のルイーズはヘクターと共に任務でいなかったので、一緒に「勇者召喚」が見れなかったことをエヴァンは内心では残念に思っていた。
そして、「勇者召喚」が実行され、その結果、目の前に25人もの「異世界人」が「勇者」として召喚されたのを見て、
(この人達が『神々に選ばれた勇者』達か。女性以外は全員俺と同い年くらいか?)
と、エヴァンは周りに気付かれないように「ふーん」という態度をとっていたが、
(ん?)
その『勇者』達の1人である、とある少女を見て……。
ーートクン。
と、心臓からそんな音が聞こえたので、エヴァンは思わず「え?」と胸を押さえた。それを見て、
「どうしたエヴァン?」
と、隣にいる同僚騎士がそう声をかけてきたので、
「……いや、なんでもない」
と、エヴァンはそう返事すると、押さえていた手を胸から離した。
その後、国王ウィルフレッドの話が終わって、目の前の「勇者」達が自身の「ステータス」を知り、そして戸惑いながらもこの世界の為に戦いことを決めようとした、まさにその時、
「あのぉ、すみません!」
と、彼らの1人がそう声をあげた。
見た目的には男の格好をした可憐な少女なのだが、
「ああ、申し訳ありません。自分は、顔はこんなですが、この格好の通り、れっきとした『男』ですよ」
と、その人物ーー春風は国王に向かってそう言ったので、
(……嘘だろ? あの顔で『男』だと!?)
と、エヴァンは表情には出さなかったが、内心ではかなりショックを受けていた。
そして、春風がウィルフレッドに幾つか質問した後、
「すみません。俺には無理そうですので、ここを出て行く許可をください」
と、ウィルフレッドに向かって謝罪しながらそう言ったので、
(な……)
『なぁあああああにぃいいいいいいいっ!?』
と、エヴァンは他の騎士達と一緒になって驚きの声をあげた。
それからすぐ、春風がウィルフレッドに向かって「自分は勇者ではなく巻き込まれた者」だと言い、更にその後、
「ですから、俺は陛下達の『願い』に応えることが出来ません」
と、ウィルフレッドに向かってハッキリとそう言ったので、それを聞いたウィルフレッド本人だけでなく周囲の人達までもがそれ以上春風に何も言えなくなったが、
(……ふざけるな)
エヴァンの心の中では、激しい怒りの炎が燃え上がっていた。
当然だろう、ただでさえ「勇者じゃない」という事実に、
(な、何だと?)
と、エヴァンは驚きの他に僅かな怒りが芽生えていたのに、「国王」を前にハッキリと「拒否」の意志を示したのだから、
(おのれぇ! 国王であるウィルフレッド陛下を前になんという態度を!)
と、それがエヴァンの怒りの炎を更に燃え上がらせていたので、
「ふ、ふざけるなぁあああああああっ!」
と、エヴァンはそう叫びながら、腰のベルトに下げた剣を鞘から引き抜いて、春風に向かって突撃した。
そして、
(許さん! 許さんぞぉおおおおお!)
と、エヴァンが心の中でそう叫びながら、春風に向かって剣を振り下ろしたが……。
ーーガキィン!
「何!?」
その剣は春風でなく何か硬いものにあたったので、エヴァンは大きく目を見開きながら驚いた。
その後、エヴァンは春風に押し返され、思わずバランスを崩しそうになったが、
(な、何だ? 今、奴は何を使って俺の攻撃を止めた?)
と、エヴァンは驚きながらも春風が何をしたのか確認すると、
「な、扇!? 扇だと!?」
と、春風が手に持ってるもの……黒い扇を見て、エヴァンはショックを受けた。当然だろう、「騎士」の証である剣が、扇によって止められてしまったのだから、
(ふ、ふざけるな! ふざけるなぁ!)
それが、更にエヴァンの怒りを加速させた。
そして、
「死ねぇえええええ!」
と、ウィルフレッドの静止を無視して、エヴァンが春風に再び剣を振り下ろすと、
「……は。嫌だね」
と、春風は静かにそう言い、
「うおおおおお!」
と、エヴァンの剣目掛けて持っていた扇を振った、次の瞬間……。
ーーバキィン!
という音と共に、エヴァンの剣が、春風が振るった扇によって真っ二つにへし折られた。
(……は? え?)
と、剣を折られたエヴァンは何が起きたのか理解出来ずにいると、
「ごめん!」
と、剣を折った張本人である春風は、エヴァンに向かってそう謝罪した後、
「えい!」
と、渾身の飛び蹴りをかましてきたので、
「ぐほぉ!」
それをまともに受けたエヴァンは吹っ飛ばされ、背後の壁に激突した。
その後、
「う……ご……あ……」
と、エヴァンは小刻みに体をピクピクとさせると、
(ば、馬鹿な……この俺が……『騎士』であるこの俺が、『勇者』の称号を持たない者に敗れたというのか?)
と、心の中でそう呟き、最後は意識を失った。
もう一度語るが、エヴァン・クルーニーは自分の腕に確かな自信があった。
しかしこの日、その自信は春風によって粉々に砕かれてしまった。




