第383話 春風vsエヴァン・3
「いきます、山の型」
と、エヴァンに向かってそう言った春風。
緑色の刀身を持つ大刀を担ぐように構えるそんな春風の姿を見て、
「え、『山の型』って……!」
と、野守がギョッと大きく目を見開きながらそう言い、それに続くように、
「あ、ああ。確か桜庭が言ってた、『強烈な一撃を叩き込む戦闘スタイル』……だったよな?」
と、鉄雄が恐る恐る尋ねるようにそう言うと、
「半分正解。でも半分ハズレよ」
と、凛咲が質問に答えるかのように静かにそう口を開いたので、
「半分?」
と、凛咲の言葉に夕下が首を傾げながらそう尋ねてきた。
夕下の言葉に周囲にいる人達が一斉に凛咲に視線を向ける中、凛咲は夕下の質問に答える。
「簡単に言うとね、あの『山の型』は、圧倒的な強者を相手に『お前を倒して自分が生き残る』という強い『覚悟』を示す為の型なの」
と、目の前の春風をジッと見つめながらそう答えた凛咲に、
「圧倒的な強者……じゃあ、兄貴はあの騎士さんを……?」
と、ディックが恐る恐るそう尋ねると、
「ええ。間違いなく、春風はあのエヴァンって騎士を、『強い』と思ったんでしょうね」
と、凛咲はコクリと頷きながら、ディックの質問にそう答えた。
その時だ。
「うーん、『覚悟を示す型』か。『死』を恐れぬ心がなければ、きっと成功しないだろうな」
と、ヘクターが腕を組んで考え込む仕草をしながらそう口を開いたので、
「いいえ、それは違うわ」
と、それを聞いた凛咲は首をゆっくりと左右に振りながらそう否定すると、
「どういうことですか?」
と、イヴリーヌが首を傾げながらそう尋ねてきたので、
「私は日頃から、春風と水音には『死を恐れなさい』と教えてきたの。そして、『山の型』に必要なのは、『死にたくない』という強い想いだけ。それ以外は必要ないわ」
と、凛咲はヘクターとイヴリーヌに向かって静かにそう答えた。
その答えを聞いて、
「なるほど、『死にたくない』という想いを力に変えて相手に叩き込むスタイルというわけですね?」
と、それまで黙っていたタイラーがそう尋ねてきたので、その質問に凛咲は無言でコクリと頷くと、
「む、むぅ、『死にたいないという想い』か。理解出来なくはないが、騎士である私には……」
と、ヘクターが「納得出来ん!」と言わんばかりの難しい表情をしながらそう言ってきた。そして、それはヘクターだけでなく隣のルイーズも同意見のようで、彼女も凛咲の言葉に難しい表情をしていた。
しかし、そんな2人に対して、凛咲は「は!」と鼻で笑うと、
「確かに、『騎士』であるアンタ達からすれば、こんな考えなんて理解出来なくて当然よね」
と、「くっくっく……」と笑いながらそう言った。そんな凛咲の言葉に、ヘクターとルイーズが「む!」と更に難しい表情をすると、
「でもね……」
と、凛咲はボソリとそう呟いて、
「『死ぬのが怖くない』なんて綺麗事よ。そんなセリフは、いっぺん本気で死にそうになってから言いなさい。」
と、ギロリとヘクターとルイーズを睨みながら静かにそう言った。その言葉から、明らかに『怒り』だけでなく、何か『暗いもの』を感じたのか、
「「うぅ……」」
と、凛咲に睨まれた2人はビクッとなってそれ以上何も言えなくなってしまった。いや、ヘクター達だけではない。凛咲の言葉と雰囲気に、歩夢らクラスメイト達や、イヴリーヌ、キャロラインといった周囲の人達までもが、タラリと汗を流しながら全身を硬直させていた。
だが、
「あ、あなた! それは、誇り高き騎士や戦士達への侮辱じゃないですか!?」
と、ルイーズが全身を震わせながらもどうにかそう反論し、
「……そうだねぇ。あたしも『家族』を持つ前はハンターをしていて、その時は『いつ死んでも構わない』って覚悟はしてたさ。だから、アンタのその言葉はどうにも納得出来ないって想いもあるんだがねぇ」
と、ルイーズに続くようにレベッカも静かな口調でそう言ったので、彼女達の反論に凛咲が目を細め、クラスメイト達をはじめとした周囲の人達がオロオロしていると、
「それに、人はいつか死ぬ生き物なんだしさ、アンタそこら辺についてはどう考えてんだい?」
と、レベッカが「んん?」と挑発するかのように凛咲にそう尋ねた。
その質問を聞いて、凛咲は「ふぅ」とひと息入れると、
「確かに、人間なんて……いや、全ての生命なんて、生きてるかぎりいつかは死ぬものよ。それは変わらないわ」
と、レベッカに向かってそう答え、その答えにクラスメイト達がゴクリと唾を飲むと、
「だから、私は春風にはこうも教えてるの。『いつか笑って死を受け入れるようになるまで、生きて生きて生き抜きなさい』ってね」
と、凛咲はニコッとしながらそう言った。
その言葉にレベッカもルイーズもポカンとなると、
「……ぷ、あっはっはっは!」
と、それまで黙って話を聞いていたオードリーが突然大声で笑い出したので、それを聞いた人達が「何事!?」と言わんばかりに目をギョッと見開くと、
「なるほど! 確かに、どうせ死ぬなら目一杯生きて、そして笑って死にたいですね! それこそ、『もう十分だ』って思えるくらいに、ね!」
と、オードリーは笑いながらそう言い、
「まぁ、ドリーちゃんたら」
と、それを聞いたキャロラインも「ふふ」と笑いながらそう言うと、
「ベッキーちゃんも、『1本取られた』って感じかしら?」
と、チラッと未だポカンとしているレベッカに向かってそう尋ねた。
その質問を聞いて、レベッカは「ははは」と小さく笑うと
「そうだねぇ。今のあたしは『ハンター』じゃなくて『宿屋の女将』で、オマケに夫と子持ち。どうせ死ぬなら、娘の花嫁姿を見てからじゃないとねぇ。あ、だからといってその後すぐに死ぬってわけじゃないからね」
と、そう言って、最後にニカッと笑った。
そんなレベッカの言葉に、キャロラインが「うふふ」と怪しく笑うと、
「さーてみんな! 暗い話はこのくらいにして、今は春風ちゃん達の戦いを見ることに集中しましょ!」
と、手をパンパンッと叩きながら、周囲にいる人達に向かってそう言い、その言葉に誰もが「はっ!」と我に返ると、皆、一斉に春風とエヴァンがいる小闘技台に視線を向けた。




